季節特別編『楽しいお正月』


「起きるにゃー!!」


「ぐぼぉ!?」


新年早々腹に強い衝撃を受けたと思ったら、ネネが俺にボディプレスをかまして来た。


「何だネネ!こんな朝っぱらから…てかまだ夜じゃねえか!」


「早く支度するにゃ!」


「何だ何だ!急かすな!」


こんな夜中に一体何だよ!しかも寒いし!


「ヤマさん…」


おぉ!ナイスタイミングだ!


「丁度良かった!ヴィラ!ネネを止めて…」


「さあ!準備出来たら行きますよ!」


「二人してどうした!?」






「いったい何なんだ…」


「初日の出にゃ」


「初日の出?」


「はい。昨年は何かとトラブルに巻き込まれる事が多かったので、縁担ぎに行こうと二人で話してたんです」


まあ初日の出は知ってるけど。


まさかこんな早くに叩き起こされるとは思わなかったけどな!!


「でもどこで見るんだ?アユルは建物が多くてよく見えないだろ」


「ちっちっちっ、ネネが探してにゃいとでも?リサーチは完璧にゃ!」


そう言って連れてこられたのはとある高台。


あまり広いとは言えないが、三人なら余裕を持って入れる。


「おぉ、こりゃ視界が良い。よくこんな所見つけたな」


「にゃはは!ネネのリサーチ力をなめちゃダメにゃ!」


「二人とも!そろそろ日が上りますよ!」


お、日の出だ!


じゃあ早速…


『今年こそ死にまくれますように』


よし、祈りも込めたし、二人ともそろそろ終わって…


「何してんだお前ら…」


「もうちょっと身長欲しいし、魚も食べたいし、お金も欲しい…決まんないにゃあ…」


「無難に健康…?いえ、開運や長寿も捨てがたく…ですが私も人並みに欲はありますし…」


新年早々煩悩の塊みたいな奴らだ事で…






二人とも願いは決まったらしく、初日の出もこれで終わり。


何だかんだ言って早起きも良いものだ。


「ネネお腹空いたにゃ…」


「そういえば朝飯まだだったな…」


叩き起こされてそのまま行ったから飲まず食わずだ。


そりゃ腹も減るわな。


「その辺に売店あるから何か買ってくにゃー」


「大丈夫ですよ!お正月の為に特別な一品を用意しときました!」


「なんだ?」


「おせちです!」





ヴィラの家で、俺達はおせちなる物を食べることになった。


「二人ともおせちは初めてですか?」


「ネネは基本おもちだったにゃ」


「俺は家庭環境的に正月なんて無かったな」


「そうなのですね…分かりました!今から持ってきますね!」


まあ、あんな家で俺に正月とかあるわけ無いしな。


「…ヤマの故郷ってどんな所なんだにゃ?そういえば聞いたこと無かったにゃ」


「その話はまたいつかな」


そうこうしてる間にヴィラが三段重ねになっている黒い箱を持ってきた。


「お待たせしました。こちらがおせちですよ!」


色とりどりの肉、魚、野菜。加えてお菓子みたいな物や変な紐みたいな食べ物。


これがおせちなのか。


「随分と豪華な料理だな」


「知らない食べ物ばかりだにゃ…」


黒い箱の中には今までに見たことない食べ物が大量に入っていた。


「まあ普段はあまり食べない物が多いですし、見慣れないのも無理ないですね」


「早速食べるにゃ!」


「あ、ちょっとだけ待って下さい。おせち料理には色々意味があるんですよ」


意味?


「そうなのか?」


「はい。例えば…」


ヴィラは箱の中に入ってた丸い黄色の食べ物を取り出した。


「こちらの卵は形が巻物に似てる事から知識が増えるようにと願いが込められてるのです」


「てかこれ卵だったのかにゃ」


「まあ分かりにくい物が多いですからね」


へぇー…一つ一つにそんな意味があったのか。


「ヴィラって物知りだな」


「…!そ、そんな事無いですよ。たまたま知ってただけですから!」


あ、ちょっと嬉しそう。


その事に味をしめたのか、追加で語り出した。


「他にもこの魚は『めでたい』と言う語呂合わせがありますし、この黒い豆はマメに働くと言う意味が…」


得意気に聞いてない情報をペラペラと喋り始めたヴィラ。


一方の俺らはと言うと…


「美味いにゃー!」


「独特な味だが美味いな」


「二人とも聞いて下さいよ!?」


全く聞いてない訳では無いが、今日は知識より食い気だ。


初めての食べ物に俺も気分が高揚する。


「別に後でも良いだろ。てか早く食べないと無くなるぞ」


もう1/5程度無くなってる。まあ大体はネネが食べてるが。


「…はっ!ち、ちょっと待って下さい!私も食べたいんですから!」






「ふー…食べたにゃ~」


「このやろう…ほとんど食べやがって…全然口に入らなかったぞ…」


「早い者勝ちにゃ」


俺らも食べれなかった訳では無いが、魚系を中心にかなりの数をネネに持ってかれた。


これでも楽しみにしてたんだけどな。


「ちょっと眠くなってきたにゃ…少し昼寝するから何かあったら起こしてにゃ…」


全く…正月早々自由な事で…


「ヤマさん、ヤマさん」


「ん?」


「ちょっと良いですか?」






「どうした?」


「これ、見てください」


さっきとは違うかなり豪華な箱を持ってきたと思いきや、紐をほどき蓋を外した。


中には巨大なイセウオが箱の真ん中を陣取る様にしてそこに居た。


ちなみにイセウオはそんじょそこらの魚介類では太刀打ち出来ない超高級品。いつぞやのネネがシャンティさんの所で食べてたミツボシサカナよりはるかに高級、もはや幻とも言える魚だ。


「これどうしたんだ!?」


「コロン団長から新年祝いで貰いました。サプライズと思って隠してたんです」


団長は団長でこんな高級品どこで入手したんだ…


まあお偉いさんだから、どこかしらのツテでもあるのかもな。


「ネネさんがおせちを食べ過ぎなければみんなで食べようと思ったのですが、流石にあの食べっぷりを見てしまうと食べ尽くされてしまう気がしまして…」


「確かに俺らの皿からイセウオが無くなるのが目に見えるな」


実際、魚系はほとんど食べられた。こんな超高級品が出たらどうなるか想像するのは容易い。


「ですので二人だけの秘密、ですよ♪」


「へへ、ありがとな」


ネネには悪いけど、こっちはこっちで楽しませてもらうぜ。







「んにゃーよく寝たにゃ…にゃ?何か良い匂いがするにゃ…?」


「お、やっと起きたか」


「…間違いないにゃ!超高級イセウオだにゃ!どこにあるにゃ!?」


本当に魚関係の事になると感覚が鋭いな。


まあ今回は全力でボケさせて貰うがな!


「…何の話だ?」


「そんな高級品、買った覚えはありませんが…」


「んにゃ?でも確かにこの匂いは…」


まだ粘るか…


なら伝家の宝刀!


「夢の話だろ」


夢作戦!


成功すれば全てが無かった事になるっ!!


「夢…んー…なーんかモヤモヤするにゃ…ま、気のせいかにゃ」


よし、何とか誤魔化せたか?


すまんなネネ、もっと死んで稼げるようになったらイセウオだろうが好きなだけ買ってやるからよ。






「さあ、次はネネの時代にゃ!早速餅つきするにゃ!」


「あ、私餅つき機持ってますよ」


そう言うとヴィラは魔力を動力源とする餅つき機を取り出した。


だが次の瞬間、ネネは取り出した餅つき機を奪い取ってしまった!


「きゃっ!…何するんですか!」


「なってねーにゃあああ!!!そんな魔力でベタベタの餅とか不味いにゃ!餅つきと言ったらこれにゃ!」


ネネはどこからか、木で出来たハンマーみたいな物と丸太に穴を開けた物を持ってきた。


いや、マジでどこから出したし…


「これは?」


「これでオコメノミを叩いておもちにする道具にゃ」


「今の時代からしたら随分と原始的な道具だな」


「昔ながらって言えにゃ」


ヴィラは興味津々の様で、試しに杵を持ち上げると、よろけてしまっていた。


「わわっ!結構重いですね…」


「まあ叩くのはネネに任せるにゃ。ヤマはサポートをお願いするにゃ」


「俺で良いのか?」


「何事も経験にゃ」


「では私は調味料を用意しときますね!」






俺達は外に出て餅つきの準備を始めた。


まあ基本的な準備はネネがやってくれるから、俺は水とかオコメノミを用意するくらいか。


「最近はみんな魔法でチョチョイと作っちゃうにゃ。だからこそネネはこの杵と臼を使うのを推すにゃ」


「苦労して得る物もあるって事か」


「んにゃ」


ネネは杵を構え、俺も餅をこねる準備は整った。


「さあ!つくにゃ!」


「おう!」






「ふー…いい汗かいたにゃ」


「これ結構大変だな…」


「二人ともお疲れ様でした。冷たいお茶用意しときましたよ!」


ナイスタイミングだ!いくら冬でもこんだけ動けば暑いからな。


寒いのが苦手なネネも少し暑そうだ。


「残りは私がやりますので休んでて下さいね」


「待つにゃ。何個かはこの配分で作ってくれにゃ」


ネネは何か書いてある紙を取り出して渡した。


「ネネ特製のオリジナル配合にゃ。これでもっと美味しく食べれるにゃ!」


「任せて下さい!」






「おお!こりゃ旨いな!」


俺はシンプルに調味料で。


「この甘味は癖になりますね!」


ヴィラはお汁粉にして。


「にゃはは!当然だにゃ!つきたてが正義にゃ!」


ネネは野菜とソースをかけて。


どれもネネ特性のオリジナル配分だ。


「あらかた食べたらお雑煮にするにゃ!楽しみにしてるにゃ!」


まだ料理があるのか!これは楽しみだ。


「しかし本当に美味しいですね。餅つき機で作るのとは段違いです!」


「当たり前だにゃ!あんな魔力でベタベタしたおもちが美味い訳がねーにゃ!」


「今回はネネに一本取られたな」


どれ、今度はネネ特製配分のおもちでも…


「良いにおーい!」


「にゃ?」


「ん?」


食べていると誰かがやってきた様だ。どうやら良い匂いに釣られたらしい。


「あ!お兄さん達でしたか!新年おめでとうございます!」


声の主はセレナだった。いつものフードはちゃんと被っていて抜かりは無い。


「あ、ご丁寧にどーもにゃ」


やはりと言うべきか、セレナはまた一人だ。


「シャンティさんとはまた別行動か?」


「いえ、今日は後ろに居ますよ」


後ろ…?


「え?誰も居ませんが…?」


『居るぞ?』


これシャンティさんの声だよな…?


どこから喋ってんだ?


「あれ?声はするけど…」


『ここじゃ』


次の瞬間、セレナの後ろが光りだした。


光が収まると、その中心に見覚えのある姿が。


「三人共、新年おめでとうなのじゃ」


「え!?え!?どういう事ですか!?」


「新年くらい親子で居たいからの。迷惑かけん様に姿を消してたのじゃ」


「もう何でもありだにゃ…」


ただセレナはそんなシャンティさんには特に興味ないらしく、テーブルに置いてあるおもちに興味津々だ。


「それと、これ何ですか?」


「おもちにゃ。食べたこと無いのかにゃ?」


「無いです!美味しいんですか?」


「美味しいにゃ!良ければ食べるかにゃ?」


おや珍しい。


「そこまで余裕無いけど良いのか?」


「せっかくだし、セレナにも美味しいおもちを食べて欲しいにゃ。甘いのとしょっぱいのどっちが良いにゃ?」


「じゃあ…しょっぱい方でお願いします!」


「では妾は…」


「あんたのは無いにゃ」


「のじゃ!?」






「とっても美味しかったです!ありがとうございます!」


「礼には及ばないにゃ」


「すまんのぉ、結局妾も貰ってしまって」


「いえいえ!みんなで食べた方が美味しいので!」


指を咥えて見てるのを流石に可愛そうに思ったのか、ヴィラが自分の分を分けてあげてた。


「礼と言うほどでは無いが、妾も良い遊びを持ってるぞ。せっかくの正月だしの。ちと古い遊びでもせんか?」


そう言うとシャンティさんはかなり古い箱を取り出した。


「かるた、ですか?随分と古いみたいですが…」


「百人一首じゃ。まあ基本ルールはかるたとほとんど同じじゃから問題ないぞ」


「セレナはやったことあるか?」


「いえ、今日初めて見ました」


俺も初めて見たな。まあ古い遊びってのも悪くないか。


「とにかくやってみるにゃ」


「あ、手伝います!」


そう言うとネネとセレナは絵札を並べ始めた。


「あ、違うのじゃ。百人一首は字札を並べるのじゃ」


「「にゃ?/え?」」


「絵札の唄を読んで、その下の唄が書かれた札を取るのじゃ」


「下とか何の事?」


「論より証拠じゃ。やっていけば分かるぞ」


全員頭にハテナマークが出ているが、百人一首開始だ。


「では行くぞ」


さあこい!


『秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ』 


…???


『わが衣手は 露にぬれつつ』


「お、終わりか?ど、どこだ?あ…あ…」


「見つからないにゃ…」


「あ、秋の…何でしたっけ…?」


「パッと見だと無さそうです…並べ忘れですかね?」


セレナは入っていた箱を見てみたが、ちゃんと空になっていた。


やっぱどこかにあるのか?


「読み間違えてるんじゃにゃいか?」


「そんな事ないぞ?」


シャンティさんは読んだ札を俺達に見せてくれた。


「なんにゃこのミミズみたいな字…」


「人間の言葉か?」


「古い言葉じゃから多少は仕方なかろう」


相当古くないか?セレナも読めないっぽいし…


「これ何時の時代の物ですか?」


「千年程前かの。因みにこやつらは妾の知り合いじゃ」


「後半の情報はどーでもいいにゃ」


「まあ続けてれば面白さが分かるはずじゃ!」


まあやるだけやってみるか…





「えいっ!…あぅ、坊主でした」


「次は私ですか…これは男性札ですね」


「ネネはどうにゃ…やったにゃ!偉い人来たにゃ!」


「何故こうなったのじゃ…」


「まあまあ…これもまた新しい遊び方の一つですし…」


結局ネネとセレナが考えた『坊主めくり』に切り替わり大いに盛り上がった。


「これが『じぇねれーしょんぎゃっぷ』と言うものかの…」


「あんたの説明がヘタクソなだけにゃ」






「さて、セレナ。そろそろ帰るぞ」


「はーい」


まだそこまで暗い訳ではないが、二人ともエルフのお偉いさんだしな。


里でやることもあるんだろう。


「おっと、忘れる所じゃった。ほれ、三人にお年玉じゃ」


シャンティさんは俺らに封筒を渡してきた。中身はお金だが、この厚みから考えると…


「こ、こんなに沢山!?良いんですか?」


「構わん。妾からの気持ちじゃ」


まあそんな量じゃ無いだろ…と思ったが、中々の量だ。家は流石に無理だが、ある程度は働かなくても過ごせる程には入っている。


こんなに貰っても良いのだろうか…?


「ヤマだけちょっと多いにゃ!ズルいにゃ!」


言われて見ると俺のだけちょっと厚みがある。


何か理由でもあるのか?


「ヤマには今までの償いの意味も込めてるからの。多くしたのは敢えてじゃ」


「それを言われたら何も言えないじゃにゃいか…」


あー…随分と気にかけてくれてるんだな。


金貰えるのは嬉しいが、そんな気にされると俺も申し訳なるぞ…


「あー!!お兄さん達ばっかそんなに沢山ずるいずるい!私にももっと頂戴!」


「セレナには今朝渡したじゃろ…ちゃんと預かっとるわ」


いくら貰ったかは知らないが、パッと見はネネより年下だしあまり貰ってないのだろう。


俺らの分を見て羨ましがるのも必然かもしれない。


「だって知ってるよ!お年玉はお母さんに預けると絶対帰ってこないって!」


「そんな盗人みたいな事せんわ!!第一、去年一日で使いきっちゃったから預かってと言ったのはセレナじゃろ!!」


「もう覚えてないもーん」


一日で使いきったのかよ!?そんなに何に使ったんだ!?


まあ何に使っても勝手だが、この使いの荒さはちょっと無視出来ないな。


「セレナ…お金は大切なんだからもっと大切に使えよ?」


「そうですよ。散財癖が付いてしまうのは良くないですから」


「むぅ…」


「安心せい。セレナがヤマ達と同じくらい大きくなったら、ちゃんとこの量を渡そう」


「ホント!?約束だよ!!」


「うむ、心得たぞ」


シャンティさんは約束とかちゃんと守る方だし、大丈夫だろう。


セレナも納得したみたいだしな。


「では三人共、今年もよろしく頼むぞ」


「あ、こちらこそよろしくお願いします」


「また遊びに来ますねー!」


「いつでも来て下さい!」


「待ってるにゃ!」






次の日


正月初日は確実に混むからと行かなかった初詣。俺達は別の日に改めて来たのだが…


「混んでますね…」


「皆考えることは同じだな」


「やることやってさっさと帰るにゃ。病気になりそうだにゃ」


この混み具合は確かに毒だ。早いとこやることは終わらせよう。


まあやる事はお詣りした後におみくじを引く程度だけどな。


「お詣りってどうやるんだっけ?手を叩くんだよな?」


「えーっと…確か二拍一拝…あれ?何か足りない…」


「二拝二拍一拝、です」


巫女服を着た若い女性が俺達に声をかけてきた。


「そうです!それです!ありがとうございます!」


「助かったけど、こんな所で油売ってて良いのかにゃ?こんなに人が居るなら忙しいんじゃにゃいか?」


確かにこんなに人がごった返してたら少しでも人手は多い方が良いだろう。


「いえいえ、あそこの人が困ってるから教えて来なさいって言われたんですよ」


「そうなのですね…教えてくれてありがとうございますと伝えて下さい!」


「はい、お任せを。それと、そこの男の人にはちょっと別件が…」


え?俺にか?


「俺に?」


「はい。少々耳を借りても良いですか?」


「まあ構わんが」


なんだ?一体…


「『渡したお守りはまだ効力があるので気にしないで下さい』との事です。確かに伝えましたよ」


え?お守り?誰にも話したこと無いのに、この巫女さんは何故知ってるんだ…?


もしかして教えて来いって言った人って…


「何の話だったんですか?」


「あ、あぁ。ちょっとプライベートの事な」


まあ隠す事では無いが、説明するのも面倒だから黙ってよう。


五円を投げ入れて俺達はお詣りを無事済ませた。





***



「教えて来ましたー」


「はい、ありがとうございました」


「てか何であそこのペアだけ贔屓したんすか?そーゆーのあんまり良くないんじゃないすか?」


「彼らには少し事情があるのです。…それより人が増えてきました。また忙しくなりますよ」


「はいはいやりますよ。あーメンド…正月にバイトとか入れなきゃ良かった…」


「レクイエムさーん!こっちのヘルプお願いしまーす!」


「分かりました。すぐに向かいますね」


「え!?ここ一人で回すの!?嘘でしょ!?」



***





次におみくじを引くために俺達はおみくじコーナーに足を進めた。


「お詣りもだけど金取るのかにゃ…」


「昔から神様の恵みを得るにはお供え物が必要でした。それが時代と共に金銭と言う形になったんですよ」


「タダで良い思いは出来ないって事か」


まあ苦労も痛みも無く良い思いだけ持ってく事は出来ないわな。


神様だってそんなに甘くないだろうし。


よし、おみくじを引くか。


「やったにゃ!大き「駄目です!」もがっ」


「大きな声を出してしまうと運が逃げてしまいますから、こういうのは心の中で喜ぶものですよ。次からは気を付けて下さいね」


「次があるなら来年だにゃ」


「揚げ足を取らないで下さい!」


全く…この二人は新年早々…


「それはそうと、ヤマさんはどうでしたか?私は小吉でしたが…」


「ちょっと待ってな」


さて、俺の今年の運勢は?


『大凶』



「…ヤマって呪われてるのかにゃ?」


「んな訳あるか」


「大凶とか初めて見ました…」


おみくじとかそんなに引いたこと無いけど、これが悪いってのは見ただけで分かる。


「書いてある事は良いことかもしれないにゃ!読んでみるにゃ!」


「えーっとな…」


『多種多様な所から命を狙われる。しかし全てを越えた先に願いは叶う。想い人が居れば支えになるだろう』


命を狙われるのか。


なら当たりじゃね?


「何故ここまで命の危機に…」


「ここまで来ると逆に幸運だにゃ」


…まあ普通は命を狙われるとかあったら悪運だと思うわな。


「あとは想い人ねぇ」


「好きな人とか居ないのかにゃ?」


「!」


二人とも何をそんな期待してる目をしてるんだ…


好きな人ねぇ。今までに会った異性は軒並み友人レベルだし、俺も特別な感情は持ってない。


強いて言えばノアがストレートに好意を向けてきたが、あれはノーカンだ。


「好きな人か、今はそう思う人は居ないかな」


「ま、いざとなったらネネが貰ってやるにゃ」


「はっ、期待しないで待ってるわ」


「ほっ…」


「どうした?」


「はっ!…いえ!何でもないです!」


何をそんなに安心した表情をしてるんだ…?





帰宅後


俺達はネネから面白い物を買ったから見て欲しいと言われ、家に向かった。


「何だこれ?」


「正月遊びセットってのにゃ。安かったから年末に買ってみたんだにゃ」


ネネが持ってたのはおもちゃ箱の様な物だ。中には沢山のおもちゃが所狭しと言う感じ入っている。


「羽根つきにお手玉、けん玉…色々入ってますね」


正月特有のおもちゃか。確かに面白そうだ。


「暇だし、とことん遊んでみるか!」


「「おー!/にゃー!」」



けん玉


「よっ、ほっ」


「ヤマ上手にゃ!」


「よし…私も!…えいっ、あ、あれ?上手くいかない…」


「ヴィラ下手くそにゃ~仕方ない、ネネが手本を見せてやるにゃ…全然上手くいかないにゃ…」




凧上げ


「おー!上手いもんだな」


「はい!迷った時に居場所を伝える為に覚えてたんです!」


「ネネも負けてられんにゃ!にゃ!?急に風が強く…」


「ネ、ネネさん…この距離だと凧が絡まって…あっ…」




福笑い


「それは鼻にゃ!もっと下にゃ!」


「もう少し上です!そこだと低すぎます!」


「ダメにゃ!そんな上だと不細工になるにゃ!」


「お前らせめて言うことは統一しろよ!?」




コマ回し


「よし!良いぞ!そこだ!」


「あと少しです!頑張って下さい!」


「ヤマー!書いてあった股かけ出来たにゃー!」


「ちょ!がに股とかはしたないから止めて下さい!」




めんこ


「…えい!駄目です…ひっくり返りません」


「これ難しいな…」


「ネネなら多分出来るにゃ!てい!…駄目にゃ」


「まさか誰も出来んとは…」




達磨落とし


「このハンマーで下から落とすのか」


「バランスをかなり要求されますね」


「別に普通にやれば良いんじゃにゃいか?『スコーンスコーン』」


「おい、危ない!危ないって!飛ばす所を考えろ!」




羽根つき


「せいっ!よし…一本とりました!」


「ぐぬぬ…やられたにゃ…」


「さ、顔を出して下さい。墨を塗りますよ」


「冷たっ…って口角はやめるにゃ!口に入るにゃあああ!!」






…そしてそんな生活が続き早くも三日。


美味しい物を食べたり皆で遊んだり、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


「お正月もあっという間でしたね」


「明日から仕事街も開くし、今年も頑張るか」


「んにゃ…んー?」


「な、何ですか…?」


ネネがヴィラをじっと見て…な、何だ?ヴィラの顔に何か付いているのか?


「…なーんか顔丸くなってないかにゃ?」


「え゛」


「そうか?俺には変わらない様に見えるが…」


そんな、たった三日でそんなに太る訳が…と思ったけど言われてみれば何となく肉が付いてる…のか?


「てい」


「お゛っ…な、何するんですか!?」


ネネがヴィラのお腹にチョップを…


流石に俺は触らんからな。


「めっちゃお腹ぷにぷににゃ」


「まあ全員三日間食いまくってたからな」


俺は太ろうがそんな気にしないけど、この生活で太らない方が不思議だしな。


「で、ですが今回は大丈夫です!体重を戻す薬が…」


空っぽ…


「…」


「…ネネ、薬、分けてやれ」


「分かったにゃ」




体重はちゃんと戻りました☆





おまけ


『今日はレッドドラゴンの討伐依頼ですよ!』


『レッドドラゴンて…俺らがどうこう出来る相手じゃないだろ』


『問題無いです!さあ行きますよ!』


『お、おい!』




グオオオ!!!


『どう考えてもヤバイだろ!?逃げるぞ!』


『大丈夫です!…はあっ!!』


ザシュッ!!


『い、一撃…!?』


『はい!ヤマさんやみんなを守る為に、私は強くなりましたから!』


『凄いじゃないか!これからは安心して任せられるな!』


『任せて下さい!指一本とて触れさせません!』






『すっごいご馳走だにゃ!これ全部食べて良いのかにゃ!?』


『ああ!今日は俺の奢りだ!』


『イセウオにキンメサカナ…にゃ!これはブドウウオにゃ!?こんな幻レベルの魚は初めて見たにゃ!』


『ネネでも知らない魚があったんだな』


『知ってると食べたことあるは別にゃ!いただきますにゃ~!』


『どうだ?美味いだろ』


『美味いにゃあ…生きてて幸せだにゃあ…』


『まだまだあるぞ!いっぱい食べな』


『ありがとにゃー!』






「えへへ…そこは駄目ですよぉ…」


「にゃー…ここは魚の天国にゃあ…」


「幸せそうな事で…ま、悪夢で無いだけ良いだろ」


長いようで短かった正月も終わりだ。明日からは死に活に金稼ぎにやることは山積みだ。


よし、今年も頑張るか!

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