28話 破廉恥です!

美食ブームとなれば当然飲食店もかなり盛んになる。


自炊や買い食いも悪くないが、今回はアユルの中でもそれなりに有名な魚の御食事処に来ていた。


「どれもこれも美味しそうだにゃ~」


「でも少し高めですね…」


「外食なんてそんな物だろ」


手が出ないとまでは言わないが、普段の食費から考えたらかなりの高級品だ。


ただ今は美食ブームで若干安くなっている。このチャンスを逃す訳にはいかない!


「ネネはシャリサカナにするにゃ!」


「私は…アキサカナの塩焼きですかね」


「俺はマガリウオの姿焼きにでもするか」


よし、全員決まったな。じゃあ呼び鈴を押して、と。





十分経過。


「…遅くないかにゃ?」


「俺達ちゃんと呼び鈴鳴らしたよな?」


「結構混んでますし、遅延でもしてるんですかね…」


周りの客もちょっとずつざわつき始めている。


「ま、別に急いでもないし気長に待つにゃ」


「そうだな…ん?」


厨房の方から何か声が聞こえてきた。


「…だと……から……だ…!!」


やけに厨房が騒がしいな。


何も無ければいいが…





四十分経過。


「いくらなんでも遅すぎにゃ!!」


結構待ったが未だに注文を取りに来ない。他の客も待ちきれないと帰る人が出てきた。


「私達も帰りますか?流石にこれは…」


「にゃあー…でもここまで待ったのに帰るのもにゃぁ…」


流石にここまで待ったなら食べたいよなぁ。


あ、でも客が減ったから空いてくるし、もう少し待つべきか…


「君たち!!」


「え?私達ですか?」


「ネネ達に何か用かにゃ?」


俺らより少し年上の男の人が俺達に話しかけてきた。


エプロンを着けてるし、恐らく店員だろう。


そんな人が俺達に何の用だと言うのか?


「今日一日だけ手伝ってくれないか!」









「つまり病気でウェイターが三人居ないと」


「ああ、コックは足りてるがそれを運ぶ人が少なすぎる。このままでは店が回らないんだ!」


「別に雇ってる他の人呼べば良いじゃにゃいか」


「当然ヘルプは頼んだ。けど来るまでに結構時間がかかるし、待ってくれたお客様の為にも閉める訳には…」


まあこんなに人が来てたら閉めるのは悪手だよな。


「でも何故私達に?別に他の方でも良かったのでは…」


「…私の第六感が感じたんだ。この三人なら何とかしてくれるって!」


滅茶苦茶な理由だなおい。


「頼む!報酬は弾む!ヘルプが来るまでで良い!」


「ほほぅ…して、報酬はどんなのだにゃ?」


あ、ネネが悪い顔してる。


納得いかなかったらつり上げる気だな?


「次来てくれたら無料サービスなのと、本来のバイト代の倍…いや、3倍は出そう!それで手を打ってくれないか?」


「よし!乗ったにゃ!」


「俺も賛成だな」


「私もです!」


そんなこんなで緊急のバイトを受けることになった。






一応接客業なので、俺達は店の奥で指定の制服に着替えていた。


「おお、中々カッコいいな」


「ま、たまにはフリフリの服も悪くないにゃ」


俺は白のシャツに黒の上着にネクタイを着けて、黒の長ズボンと黒メインの格好。


一方ネネは白のエプロンに黒色で膝程度の長さのワンピース、胸元にはリボンを着けていた。


ただヴィラは…


「なんですかこの破廉恥な格好!!!」


肩の部分がバッサリ無くなっており、超短いスカートでもはや服の役割を果たしていない。


紛うことなき痴女だ。


当たり前だが恥ずかしいらしく、手で胸元とスカートを押さえていた。


…目のやり場に困るな。


「す、すまない。君に合う服がそれしか無くてな…」


「いや…元々の人もこんな服着てたんですか?流石に露出が…」


「ああ、元々は魔族のサキュバス種が働いてたんだ。多少は露出が多くても問題無かったから客寄せで着てもらってたが…」


サキュバス種…基本無害で人間とも友好的に接するが、貞操観念が著しく低い事で有名な種族だ。


「あの卑猥な種族ですか…」


確かに間違っては無いけどさ…


「とにかく!こんな卑猥な格好で人前には出れません!辞めさせて頂きます!!」


ヴィラは短いスカートを押さえつつ、店の奥に戻ろうとしていた。


「おやおやぁ?ヴィラさんは依頼を受けた後に内容が嫌だと断っちゃうのかにゃあ?」


するとネネが肩に手を回し、煽り始めた。


「ネネさん…!」


「ちょっとヴィラを借りてくにゃー!」


そう言うと二人は店の奥に入っていった。



***


「いくらヤマさんやネネさんの頼みでもこればかりは!」


「良いのかにゃあ?ヤマをほっといても」


「何が言いたいんですか…」


「このお店、兎獣人やセイレーンとか可愛い子が結構来てるにゃ」


「だからそれがなんだと…!」


「ヤマが取られても良いのかにゃあ?ナンパされてコロッと着いてくかもしれないにゃあ?」


取られる…?ヤマさんが…


いえいえ!別に私の物では無いですし!取られたって!


取られ…




『どう?お兄さん。そんな剣士は捨てて私達と一緒に来ない?』


『ああ!いい加減こいつにはうんざりしてたんだ!これからは君達と行こう!』


『てことで、じゃあね~♪』


『そ、そんな!待って下さい!ヤマさん!ヤマさーん!!』



…ダメ!絶対ダメです!こんなどこの馬の骨とも知らない人にヤマさんは任せられません!


こんなの絶対ハニートラップですよ!騙されて悪い女に連れてかれない為にも私が着いてないと…!


「卑猥な格好がなんですか!どんな姿でも私がヤマさんをお守りします!」


「(相変わらずチョロいにゃ~)」



***



「お待たせしました!早速始めましょう!」


戻ってきたヴィラは普段通りに戻っていて、何なら普段よりやる気満々だ。


「何言ったんだ?あんなにやる気になるって…」


「内緒にゃ」


まあ、やる気になってくれたのなら良いのか…?


「ありがとう!何かあれば直ぐに対応する。君達はとにかく料理を運んでくれ!」


「はいよ」


「任せるにゃ!」


「はい!」


トラブルだらけの一日が開始だ。

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