季節特別編『年末トラブル』
アユルにも『年末年始』と言うのが存在する。
そんな大層なものではないが、年末に大掃除して正月を祝うと言った歴史ある文化だ。
当然俺らも年末年始に向けて準備の真っ最中。今日はそんな俺らの姿を見てもらおうと思う。
と言っても、俺は普段橋の下で寝泊まりしてるから、掃除と言う掃除は無い。
だから二人の掃除の手伝いとかするために今回はヴィラの家にやってきた。
「はーい…あれ?ヤマさんどうしました?」
「様子見にな。掃除は順調か?」
「終わりましたよ?」
「え」
いくらなんでも早くね!?だが部屋を見ると綺麗になってるから嘘ではないんだろう。
「流石と言うべきか…やっぱり真面目だよな」
「はい!毎日の整頓は基本ですから!」
えっへんとした表情をして、ちょっと嬉しそうだ。
じゃあ残りの時間はどうするのかと聞こうと思ったら、拭くものと幾つかの研磨用アイテムが置いてあった。
「武器を綺麗にしてたのか」
「はい。これからもお世話になりますし、しっかり汚れは落としてあげないとです!」
そういえば会った時からずっと同じ剣を使ってたな。
俺の為にもしっかり強くなって貰わんとだしな!
…あんまり強くなりすぎるとそれはそれで困るが。
ちょっとだけ部屋をキョロキョロしてたら、数冊のノートが目に入った。
ヴィラには悪いけど、ちょっと表紙を拝見…
「へぇー、日記か」
「はい、記録を残して読み返すのもまた楽しいんですよ」
「どれか読んでも良いか?」
「構いませんよ。お茶持ってきますね」
本人の許可も降りたから読ませて貰いますかねっと。
どうやらアユルに来てからほぼ毎日日記を書いてるらしい。今に至るまでの軌跡が事細かに記されていた。
当然だが俺の事も書いてある。要約すると『危なっかしくて守りたい人』とのこと。
別に無理に守らなくても肉壁にしてくれて構わないんだけどな。
持ってきてくれたお茶を飲みながら読んでいると、気になる日記があった。これだけ知らない文字で書かれてて表紙も本文もよく読めんな…
「…よし、こんなものですかね。ヤマさん、武器磨きも終わりましたのでそろそろネネさんの所にでも…」
「あぁ、分かった。それとよ、この日記だけ文字が読めないけど何か…」
その瞬間、俺の手から日記を思いっきり奪い取った。
「だ、ダメです!いくらヤマさんでもこれは見せられません!」
「あ、ああ、ごめん」
日記を抱き締めてる所を見ると相当大事なのだろう。
そもそもプライベートの事を読ませてくれてるだけでも奇跡なんだよな。普通は見られたくないはずだし。
そこまで執着してる訳でもないから、ここは素直に退いとこう。
「さあさあ!早く行きましょう!早く掃除は終わらせましょう!」
「分かったから!押すなって!」
よ、よし、次はネネだ。
***
「あ、危なかったです…こんなのヤマさんに見られたらもう生きていけません…」
「これは…本棚にでも隠しときましょう」
「…妄想の世界ではもっとカッコ良くなってるのになぁ」
『最強女剣士、異世界行っても無双する(自作)』
***
「誰にゃこんな時に…あ!ヤマ!…とヴィラだにゃ」
「私だけ反応に差がありませんか…?」
「気のせいにゃ」
勝手な思い込みだが、この二人は信頼こそしてるが普段の仲はそこまで良くない様に感じるんだよな。
大体は俺を介しての会話だし。
「よお、掃除の調子はどうだ?」
「ぼちぼちにゃ。ま、上がってくにゃ」
「お邪魔しますね」
中はまさに掃除の最中と言ったところで、物はがかなり散乱していた。
「二人とも手伝って欲しいにゃー」
「馬鹿言え、異性の部屋を漁るような真似できるか」
ヴィラの家で少し物色したのは内緒な。
「ヤマなら見られても気にしないにゃ」
「お前はもう少し恥じらいを持て」
「見られて困る物を置いとくのが悪いんだにゃ」
うん、その意見は間違ってないと思う。でも家だから多少はオープンになったって良いと俺は思うんよ。
まあゴミ捨て程度ならやっても良いか。これなら俺でも持てそうだし。じゃあこれを持ってっと…
ビリッ!
「うわっ」
「大丈夫ですか?」
「あちゃー、ちょっと詰め込みすぎたにゃ。新しい袋持ってくるにゃ」
やっちまったな…これは服か。見覚えのある服やとズボンと…
あれ、スカート?しかも新品。
そういえば履いてる所見たことないな。
「ヤマー、この中に入れて…」
「あ、どーもっす」
「ネネさんスカート持ってたんですね…」
スカートを持ってると、袋を持ってきたネネの顔がみるみる赤くなっていった。
「…悪いかにゃ!ネネだってカワイイのに興味あるにゃ!スカート持ってて何が悪いにゃ!」
ネネは基本的にショーパンを履いてる事が多い。本人曰く、『動きやすいにゃ』らしい。
今の時期とか寒くないのかと問いたいが、どうやら特殊な加工がしてあるらしく冬でも寒さを防いでくれる高性能な服だ。
まあ寒さが苦手であんまり意味は無いから別の対策を取ってるらしいが。
閑話休題(それはさておき)
別にネネがスカート履いたって誰も気にしないけどなぁ。ヴィラなんかほぼ毎日スカートだし。
本人のキャラ的に履きにくいってのはあるのかもしれないな。
「別に悪かないだろ。ネネの好きなのを着れば良いし」
「そうですよ!スカート履いても馬鹿にする人は誰も居ませんので!」
「ネネはそんなキャラじゃないにゃ…とりあえず全部捨ててにゃ」
「良いのか?」
「良いにゃ!!早く捨ててにゃ!!」
少し勿体ない気もするが、素直に従うことにした。
「よーし、これで綺麗になったな」
何だかんだ言いつつ結局手伝った。
「んー…見違えるほど綺麗になりましたね」
「二人のお陰で早く終わったにゃ。ありがとにゃ!」
これで全員の掃除が終わったな。後は…エルフの里にでも遊びに行くか適当に時間を潰すか…
「あとはヤマさんの所ですかね?」
「ちゃちゃっと終わらせるにゃ」
え?俺の所?
***
捨てるつもりだったスカートを履いてネネは鏡の前に立ったにゃ。
「やっぱり似合わないにゃ…でも尻尾の処理が楽なのは利点だにゃ」
「…」
「来年はもっと履いてみようかにゃ…?」
***
俺の所と言えばこの橋の下だ。
確かに葉っぱとか石とか結構散乱してるし、これは綺麗にしとく必要はあるな。
特に石は綺麗にしないと寝たときに痛いし。
「ずっと思ってたけど何で野宿してるんだにゃ。別にどっちかの家に来れば良いじゃにゃいか」
「いや、異性と一つ屋根の下は流石に…」
本当は死に活をする為だけど、これは黙っておこう。その死に活も最近出来てないし…
疲れが勝る事の方が多いんだよな。
「何か問題あるのかにゃ?」
「大アリです!!!」
それまで静かだったヴィラが突然大声を出した。
「その、ま、間違いがあった時にどうするんですか!!」
まあヴィラの言わんとすることは分かる。
手を出す気は毛頭無いが、そもそも年の近い女子と同棲するのは俺が恥ずかしいんよ。
「んにゃ、確かにヴィラがヤマを襲うことも考えられるにゃ」
「はい。入浴後に偶然を装って裸を見て押し倒したり、寝てる時にヤマさんの布団に忍び込ん……で………」
自分が何を言ってるか理解したヴィラはゆでダコみたいに顔が真っ赤になっていった。
「って、何言わせるんですか!!!!ヤマさん!!!!勘違いしないで下さい!!!!私はそんな事しませんからね!!!!」
「お、おぉ…」
あのクソ真面目のヴィラにもこんな一面があったのか。
無論、それで引いたりはしないが。
「にゃはは、根っからのムッツリにゃ」
ネネはめっちゃ笑ってるけどな。
「~~~~!!!!もう!!掃除しますよ!!」
「ぜぇ…ぜぇ…終わりました…」
「疲れてるのかにゃ?」
「誰のせいですか!!!」
なんやかんやあって掃除は終わった。これで気持ちよく新年を迎えられそうだ。
今回俺達が年越しする場所はネネの家だ。まあ特に意味は無い。
強いて言えば暖房器具が一番揃ってるくらいか。
残すイベントはオソバを食べるくらいだな。これはヴィラが作ってくれると言ってくれたから任せている。
「二人とも『オソバ』出来ましたよ」
「待ってたにゃ!」
「やってもらってありがとな」
「いえいえ!好きでやってますので!」
持ってる容器から良い匂いがしてくる。これは旨そうだ。
「はい!ヤマさんの…こっちはネネさんのですね」
…ん?ネネのだけ明らかに色が違うような…?ネネは気付いてないから気のせいか?
「頂きますにゃー!」
勢いよくすすった次の瞬間、すすったオソバを全てリリースした。
そして…
「辛いにゃあああああああ!?!?」
急に大声を出して騒ぎ始めた。
「な、何したんだ…?」
「香辛料を沢山入れました。さっきのお返しです」
ネネは大慌てで水を出してゴクゴク飲んでいる。汗も凄いから相当辛かったんだろう。
「にゃあ…酷いにゃあ!ネネが何したって言うんだにゃ!」
「先ほどヤマさんの前で大恥かきましたので、ちょっとした仕返しです」
さっきの根に持ちすぎだろ…別に俺は気にしないぞ?
「でもムッツリなのは事実じゃにゃいか」
「私はそんな破廉恥な女じゃありません!!」
「図星指されて焦ってるのかにゃあ?」
「んなっ…」
おっとぉ…?雲行きが…?
「別に恥ずかしがる事もないにゃ。その位の年ならそういう事に興味あって当然にゃ」
「ありません!勝手な事言わないで下さい!」
「押し倒すとか出てくる時点で説得力皆無にゃ」
「…その意味を知ってると言う事はネネさんも私の事言えないのでは?」
「にゃあ?」
おいおい…遂にヴィラからも喧嘩売ったぞ…
「ダメですよ?そういう事は成人してからですから」
「興味を持って何が悪いにゃ。それに知識だけならヴィラにも負けないにゃ」
「…年中発情期」
「…今のはカチンと来たにゃ」
売り言葉に買い言葉、二人とも今にも飛び掛かりそうだ。これ以上は流石にマズイな。
「表出ろにゃ。どっちが上か分からせてやるにゃ」
「良いですよ。欲情した獣なんかに負けませんから」
「ネネだって脳内ピンク女なんかに負けないにゃ」
遂にガチの殴りあいに発展しそうだ。あー…こいつら…!
「いい加減にしろ!!」
「ひゃっ…」
「にゃ!?」
これは俺も怒るわ。何が悲しくて最後を喧嘩で終わらんといけないんだ。
「何で最後の日に喧嘩するんだよ!最後くらい笑って終われねえのか!!」
「「でもネネさんが!!/ヴィラが!!「どっちも悪い!」はい…/にゃあ…」」
「全くよぉ…ヴィラはすぐ挑発に乗るな!ネネも必要以上に煽るな!」
一応俺の言葉にならちゃんと耳を傾けてくれるらしい。
そこら辺は素直で助かったわ。
「すみませんでした…」
「ネネも言い過ぎたにゃ…」
「まあ喧嘩するなとまでは言わんけどよ、もう少し上手いことやってくれ。こんな日にやられるとこっちも堪ったもんじゃないし」
「「はい…/にゃあ…」」
とりあえず解決、かな?
その後、ヴィラはちゃんとオソバを作り直して、ネネは満足そうに平らげた。
まあ最初はまた何か入ってるのかと警戒してたがな。
「これでやるべき事は全部終わったか?」
「そうですね。それに年越しまで残り僅かになりました!」
「いよいよ新年だにゃ!」
じゃあ最後にっと。
皆さん、よいお年を!
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