26話 断罪

「ま、今はこれくらいで勘弁してやるにゃ」


「のじゃ……のじゃ……」


数時間にも及ぶ謝罪の拷問の末、シャンティは脱け殻みたいになっていた。


謝罪だけで許した辺り、良かった…のか?


「ヤマはどうするにゃ?」


「え、俺?」


「ヤマさんは正直一番文句言って良いと思いますよ?」


文句ってもなぁ…別に大して気にしてないんだよ。


まあ強いて言うなら…


「朝から何も食べてないんだ。好きな物を食わせてくれないか?」


「ヤマ?遠慮は要らないにゃ。もっと言っても…」


その瞬間、ネネのお腹から大きな音が鳴った。


「お腹空いたにゃ…」


「じ、実は私も…」


みんな腹ペコだ。


「良いぞ。高級品だろうが何でも言っとくれ。存在する物なら何でも用意するぞ」


「じゃあネネはミツボシサカナにゃ!」


「では私は…ミツリンゴやアマメロンのタルトでも…」


ミツボシサカナは魚の中では最高級品と言われる魚で、ミツリンゴやアマメロンもそんな簡単には入手出来ないレア果物だ。


俺は…そうだな…


「食べたこと無い様な上手い肉…とかは駄目か?」


「構わぬぞ。とっておきを持ってこよう」






「「「おおーー!!!」」」


テーブルには俺達の要求した料理に加え、野菜に肉、パンにスープとかなり豪華な食事が置いてあった。


「持てる限り最大のおもてなし料理じゃ。遠慮せずに食べるが良い」


フルコースすら生ぬるいご馳走だ。俺達が数ヶ月働いて漸く食べれるレベルだろう。


「夢にまで見たミツボシサカナだにゃ…!こっちのお肉も美味しそうにゃ!」


「これは食べごたえがありますね!」


「うし!食うぞ!もう腹ペコだ!」





数十分後…


「これなんて魚にゃ?」


「これはサシミサカナと言って焼くより刺身の方が…」



「この飲み物、アマメロンを入れるととっても美味しいですね」


「あら本当!程よい甘味が出てます!」



「ほれ、雪山で取ったウェンディゴの肉じゃ。これは旨いぞ」


「お、確かに旨い」



結局食べきれそうに無いと悟った俺達はエルフの人達と一緒に食べる事にした。


ヴィラは俺が良いならと賛成したが、ネネはずっと反対してた。でも追加で高級魚料理を持ってくる&呼ばれた時以外は近付かない事で今回は我慢してくれるとの事。


もう謝罪とか何なんだって感じだが、楽しければヨシ!




そして朝まで飲み食いしてた俺達は、シャンティに送られて漸くアユルに帰る事が出来た。





数日後…


俺達三人は依頼も終わり、適当に夕方の街をぶらついていた。


すると遠くに見覚えのある姿が見えた。


あれって…


「こんなに集めたのにこれだけかの…?」


「はい。この薬草でしたら妥当な値段です」


「のじゃあ…一日働いてこれっぽっち…金を稼ぐのがこんなに大変とは…人間社会は厳しいのぉ…」


服装は違うし、剣を腰に付けてるが間違いない。シャンティだ。


「シャンティさん!」


「おー!お主ら!久しぶりじゃの!」


「一人でお出かけか?」


「特に問題ない日はアユルで人間達と同じ生活をしようと思っての。共存するならまず妾達が人間の事をちゃんと理解せんとな」


今度はヴィラが腰に付けてる剣に気が付いた。


「あれ?シャンティさんって剣使いましたっけ?」


「この辺りでは最もメジャーな装備と聞いての。ならこの機会にデビューするのも悪くなかろう」


シャンティは装備街で安売りしてる様な剣を持ってた。


「おお、そうじゃ。それより主らに報告があっての」


「報告?」


「あの問題児五人の末路じゃ」


あの処刑とか言ってきた奴らか。


「そういえば…どうなったんですか?」


「これじゃ」


「水晶…?」


シャンティは持ってた鞄から紫の水晶を取り出した。


「封魔水晶と言っての。本来なら悪鬼羅刹を封じるのに使うのじゃが…こやつらも封印出来てしもうた」


魂を分離させたって事か。てことはヴォドニークみたいな感じだな。


そしていかにクズだったって事が分かるな。


「本体はどうしたんですか?」


「売った」


「…へ?」


売った…?捨てたじゃなくて売ったのか…?


「二度と戻らんから別にもう要らんしの。ならさっさと処分するのが良いと思ったのじゃ」


「それで売りか…」


アユルって人身売買出来るのか…知らない方が良かったかもな…


「『底辺種族が…私はそんなに安くないわよ!底辺頭脳だから私の価値が分からないのね!あ~やだやだ!』とかこの水晶から言ってたりの。ここまで来ると呆れてくるわい」


「根っからのクズだにゃ」


クズとは思ってたが、ここまでとは…


本当に救いようが無いな。


「どれ、ちと遊んでくかの」


指をパチンと鳴らすと僅かに水晶が光った。


すると…


『おい人間!早く私の新しい体を持ってこい!お前らでもその程度出来るでしょ!』


恐らくエルフの声だろう物が聞こえてきた。


「水晶から声とは…」


「エルフの魂は頑丈じゃからな。魂だけでも意志疎通は出来るぞ」


『シャンティ様!何故人間程度の存在に…!』


声色からしてこれは女性だろう。


「妾は人と共に生きると決めたのじゃ。お主も古い価値観などさっさと捨てんか」


『そんな…目を覚まして下さい!貴女はこいつらに洗脳されてるんです!エルフが人の下になるなど…』


「いい加減にせんか!皆平等だと何度言えば分かるのじゃ!それに他人を傷付ける理由にはならんわ!!」


『し、しかし…』


「もう良い。お主には愛想が尽きた…ネネ、こいつを割ってやれ」


ネネは無言で水晶を地面に置くと、ゆっくりと足を上げ始めた。


『や、や、やめて! やめて下さい!分かったから!もう人間様に逆らいませんし罪も認めます!だから水晶を割らないで下さい!』


「ネネは獣人にゃ」


『あ、いや、獣人様にも逆らいません!死にたくないんです!お願いします!お願いします!』


「でもヤマは殺しかけたにゃ?」


「本当にごめんなさい!出来る事なら何でもします!お願いします!命だけは!」


数分間に渡り、エルフは命乞いしネネは遊び続けた。






「どうじゃ?ちっとはスッキリしたじゃろ」


「…まあまあだにゃ」


にやけが隠しきれてないぞ…


「五つあるから欲しければやるぞ?要るか?」


「「「要らん/ません/にゃ」」」


だろうなとシャンティはケラケラ笑った。


「さて、妾も行くかの。また里には気が向いたら遊びに来てくれ。主らなら歓迎するぞ」


「ま、魚くれるなら行ってやるにゃ」


「今はそれで良い。では…もし会ったらセレナも頼んだぞ。またいつかな」


シャンティは去っていった。




「嵐の様な数日でしたね…」


「これでやっと全部解決だな」


エルフに襲われる心配も無くなったし、また森の依頼でも…


「にゃーー!!」


「ど、どうした?」


「金貰ってないにゃ!」


金…?あ、もしかして…


『終わったら好きなだけ妾を蔑め!金だろうが妾の首だろうが何でもくれてやる!』


これの事か…?


「あのエルフ嘘つきやがったにゃ!今すぐ文句言ってやるにゃ!」


「止めて下さい!みっともないですから!」


無理やり行こうとするネネを必死にヴィラが止めている。


「ヤマさんも何か言ってあげて下さい!」


あ、でもここで貰っとけば家は一発で建ったかも…


貰えるなら貰っとくべきだったか…


「確かに金貰っとけば良かったな…」


「ヤマさんまで!?」


過ぎたもんは仕方ねえ、また今日から頑張るか。

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