23話 炎の檻

「見張りは何をしていたのじゃ!あれほど目を離すなと言ったであろう!」


「も、申し訳ありません!」


「とにかく探せ!大至急じゃ!」


やけに外が騒がしいな…


何かトラブルでもあったのか?


「何の騒ぎですか?」


「今回の首謀者六人が逃げ出したのじゃ!」


六人ってあの処刑しに来た奴らかよ!大問題じゃねえか!


「妾達はすぐに探しに行くが…お主らはどうする?ここに残るなら追加で見張りを付けるが…」


「ヤマはネネが担ぐからあんたに着いてくにゃ。ザル警備したエルフとか信用ならんにゃ」


俺はそもそも動きにくいし残っても問題無いが、ここはセキュリティに問題ありそうだし、残るのは悪手かなぁ。


それとネネ、助かるけど恥ずかしいからそんな堂々と言わないでくれ。


「…分かった。なら妾から離れるでないぞ」


俺はネネに担がれながら、シャンティさんの後に続いた。


「女王様なら探知魔法とかでチョチョイと見付けれないのかにゃ?」


「妾は人探しの魔法だけは使えんのじゃ…」


「肝心な時に使えないにゃ」


だが里をしらみ潰しに探すのは効率が悪すぎる。


…そうだ。


「おいヴィラ。聴覚強化で何か聞こえたりしないか?」


あれから少し修行をしてたのか、ヴィラは自力で聴覚強化を使えるようになってたらしい。


「やってみます!」





キーン…





『……復活…!我……バ…………様!』


『グルル…』






「何か聞こえたか?」


「えっと、動物…ですかね?その鳴き声と、復活って声が聞こえました」


動物…?いや、こんな所なら動物の一匹は居そうだけど…


復活って何の事だ?


「何やらキナ臭い感じがするのぉ。それは何処からか分かるか?」


「あっちです!」


俺達はヴィラの指差す方に向かって進み始めた。


「でも今はエルフを捕まえるのが先にゃ。厄介事はもうゴメンだにゃ」


「そうじゃな。様子だけ見たら引き返すとするかの」


ヴィラとネネはシャンティさんから随分と距離を取ってるが、本当に何があったんだ?


くそ…汗が…


「…なんか暑くないか?」


「結構歩いたからですかね?」


「いや…ここは寧ろ涼しいはずじゃ。やはり何かが起きてると見て間違い無かろう」


エルフの逃亡だけならず、別の問題も発生とは…本当に治安悪いな。


目的地に到着し、そーっと覗いてみると…耳の尖った見覚えのある女性が居た。間違いない、あの時のエルフだ。


それを見た俺達はすぐさま突撃していった。


「見つけたぞ!」


「シャンティ様…遅かったですね…」


その瞬間、奥から何かが歩いてきた。そして暑さもどんどん増してきている。


「あっついにゃ…」


「何なのじゃこの暑さは…」


本当に何だ…?


「さあ来なさい!」


その声と共に見たことも無い何かが歩いてきた。


黒い肌、黒い髪、そして所々に赤。


人ともモンスターとも言えない何かで、『化け物』と言う表現がピッタリだ。


「にゃ…にゃ…にゃんだこれー!?!?」


「何ですかこのバケモノ!?」


おいおい…何だよこれ…!


こんなの見たことないぞ!?


「バヤナカじゃと…!おいお前!これはどういう事じゃ!」


この様子を見るに自然発生でなく、このエルフが何かやったって事か?


ただ…とんでもなくヤバいモンスターってのは分かる。


「ふふふ…もうシャンティ様は不要と言う事ですよ…!これからはこの方と一緒にエルフこそ至高の種族と言う事を知らしめてやるのです!」


「そんな事させん!お前らはここで妾が食い止める!」


そう言うとシャンティさんは手を伸ばし前に構えた。


恐らく魔法で戦うスタイルだろう。


「こやつはそこらのモンスターとは格が違う!すぐに逃げろ!」


普段ならこんな凶悪そうなモンスターは喜んで肉壁になるが…


「二人とも!早く逃げましょう!」


「こんなの相手したら命が幾つあっても足りないにゃ!」


「そ、そうだな」


あまりにもヤバいモンスターを前にヴィラもネネもビビりまくってる。そう言う俺も正直怖い。


こんな未知のモンスターで死に活はリスクが高すぎる。ここはシャンティさんに任せて素直に撤退しよう。


そもそも手足は上手く動かんし…


しかし相手はそれを許さない。


「バヤナカ様!塞ぎなさい!」


「きゃっ!」


エルフが指示すると俺らを中心に円形に燃え始めた。


これで俺達は炎の檻に閉じ込められてしまった。


「…逃がす気は無いって事ですね」


武器も無ければ逃げ場も無い。相手は未知のモンスターにエルフ。過去一番の大ピンチだ…


こりゃ本格的にヤバいかもな…


「さあ!バヤナカ様!あの者達に裁きを!」


「…」


エルフが命令してもバヤナカは無視している。


「バヤナカ様…?」


「様子が変にゃ」


エルフが不思議そうに見ると、バヤナカはエルフの首を掴んで持ち上げた。


その刹那


「え!?バヤナカ様…何を…ぎゃあああああああ!!!!」


エルフが悲鳴を上げて燃え上がり、一瞬にして黒焦げになってしまった。


その姿を見て満足したのか、バヤナカは黒焦げのそれを捨てた。


「…っ!」


「やべーにゃ…」


「こいつ…!」


反応はそれぞれだが、何となく全員慣れてる雰囲気がある。


いや、慣れちゃ駄目だろ…


『足りぬ…足りぬぞ…!こんな雑魚では話にならん…!』


そう言うと今度はシャンティの方を向いた。


『私が欲するのは強者のみ…!楽しませてみよ…!』


「お主ら気を付けろ!こやつは炎を操る!」


その瞬間、バヤナカの口から火炎放射の様な炎が飛んできた!


「炎なら…水じゃ!」


しかしシャンティも負けてない。


突き出したシャンティの手から大量の水が勢いよく発射された。


そして、そんな攻撃がされれば当然周りにも被害が出てくる。


「凄い威力…!」


「つ、冷たいにゃ…」


見たところシャンティが若干だが優勢に見える。


そんな甘い相手には到底見えないが…それとも単純な実力差か?


『まだ足りぬ…窮地にならねば力が出ぬか?良かろう…手伝ってやる』


俺達の近くに魔方陣が現れたと思えば、中から変な白髪の女性が出てきた。


『アラ、今回はキミ達が遊んでくれるのかしら?』


何が普段と違うのかと言うと…その女性には足が無いのだ…


「ウィルオーウィスプ!お主ら気を付けろ!そいつは幽霊じゃ!」


「ゆ、幽霊!?」


「そんなのどうやって倒すにゃ!?」


幽霊なら俺達の攻撃はすり抜けるんじゃないか!?おいマジでヤバいぞ!?


「三人とも!受け取れ!」


するとシャンティさんが俺達に向かって何かを投げてきた。


「妾の魔力で武器を作った!すまないがそっちは頼む!」


ヴィラには剣、ネネにはグローブ、俺には盾を作ってくれた様だ。


二人は分かるが、俺は身でも守れってか?


「終わったら好きなだけ妾を蔑め!金だろうが妾の首だろうが何でもくれてやる!だから…今だけは頼む!」


「…その言葉覚えたにゃ!絶対死んじゃ駄目にゃから!」


「任せろ…!償う為にも、こんな所で死ぬ訳にはいかんからの」


…本当にこの三人に何があったんだ?償うとか金とか首とか…


「ヤマ、一回降ろすにゃ。もし流れ弾が来たらその盾で防いでてにゃ」


「まだ本調子でないみたいですし、私達に任せてゆっくりしてて下さい」


てか、また俺は女の子に守られるのか…


怪我もしてるし、どの道俺は戦力外だ。情けないけど今回も頼るしかない。


「すまん…今回も任せた!」


「「承知!/ガッテンだにゃ!」」


『作戦会議は終わったか?…さあ、宴を続けよう』


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