21話 処刑開始

「くっ…何が…」


目が覚めたが、体には違和感を感じた。


まず手足が動かない。これは恐らく縛られてるのだろう。それに暗い…と言うか何も見えない。ここはどこなんだ?


「こっちに来い」


「うわっ」


誰かが手を縛ってるロープを引っ張って来た。しかもそのまま引き摺るから結構痛い。


「痛たたたた!!お、おい!どこに連れてく気だ!」


「黙ってろ」





「痛いにゃ!!もっと優しく引っ張るにゃー!!」


この声…ネネか?


「や、止めて下さい!何をする気ですか!?」


反対からはヴィラの声が聞こえる。


「ヴィラとネネか!?何でここに!?」


「その声はヤマかにゃ!?知らないにゃ!寝てたら連れてこられてたにゃ!」


「あの!状況が飲み込めないのですが!ここはどこですか!?」


慌てる俺とネネに比べ、ヴィラは比較的冷静に質問をした。しかし…


「答える必要は無い」


何1つ分からないまま、俺達はどこかに連れてかれた。






「目隠しを外してやれ」


目隠しを外され急な光に目を細めたが、徐々に視力は回復して行った。そして周りの様子を見ると奇妙な光景が広がってた。


ここには十字架が大量に立っており、そこには何かが大量に張り付けられていた。


ただ張り付けられた物は既に朽ちてしまったのか、何なのかさっぱり分からない。


ただ…直感で録でもない物って事だけは分かった。


「これより、姫様を誑かした人間2名、及び獣人1名の処刑を開始する!」


は、はぁ!?処刑!?


おいおい…こんなのって…


こんなのって…



最高じゃねえか!!


今までと違って確実に殺してくれる!そうだよ!俺はこの時を待ってたんだよ!


けど…


「にゃ!?処刑って何にゃ!?ネネ達何もしてないにゃ!!」


「聞いて下さい!私達悪い事はしてません!」


二人も巻き込むとか聞いてねえそ!!


あくまで死に活には誰も巻き込まないのがポリシーだ。このままだとマズイ。


だったら…


「俺がこいつらの罰も受ける!だから二人は解放しろ!」


だがエルフはそれを受け入れようとはせず、俺の頭を踏みつけて来た。


「ぐあっ…」


「何で私達が寿命も耳も短い底辺種族のお願いを聞かなきゃいけないの?身の程を知りなさい?」


セレナからエルフが傲慢とは聞いてたがここまでかよ…!てか寿命も耳も偉さとは関係無いだろ!


「十字架に張り付けろ!」


俺は乱暴に十字架に張り付けられた。おいおい、もしかして…


「まさかあの十字架って…!」


「あら、人間にしては賢いのね。お察しの通り、人や獣人とかの成り果てよ」


やっぱりか!いったい何人犠牲になったんだ…


だが俺も他人事じゃない。弓矢だから生き返るとは言え、自力で脱出出来るまでは張り付けっぱなしになってしまう。


「構えろ!」


上からだと周りが良く見えるな…


どうやら弓矢を射つのが男エルフで3人、見張ってるのが女エルフで3人らしい。


こりゃ逃げれそうにないな…


「射て!」


「ぐあ…」


まずは腕か…!


「第2射!射て!」


「うっ…」


今度は足かよ…!とにかく痛め付けるのが目的って事か…!


しかもこの痛みじゃ死ねないし、エルフ達はゲームでもしてる感覚なんだろうな…!


「…もう止めて!止めて下さい!どうしてそんな事が出来るんですか!」


「どうして?我らの姫様を人間色に落とした。これだけで十分じゃない」


「何言ってるのかサッパリだにゃ…」


ネネ、安心しろ。俺もサッパリだ。


「あら、泥臭い獣には難しかったかしら?」


「ふしゃー!!ムカつく女だにゃ!!」


だから!何でいちいち煽るんだよ!


「よーく見てなさい。底辺種族がエルフに手を出したらどうなるかを」


どこまで腐った種族な事だ…エルフ至上主義ってのはこう言う事か。


そして次にどこを狙ってるのかはすぐに分かった。


頭、目、心臓…急所を狙うつもりだ。


「第3射!射て!」


「だめーー!!!」







「何をしておる!!!」


射たれる瞬間、子供の様な声が轟いた。声のした方を見ると、如何にも偉そうなエルフの女性がそこに立っていた。


「シャ、シャンティ様!何故ここに!」


「妾はこんな事を指示した覚えは無いぞ?何故殺そうとしている?」


「はっ!先日姫様を誘拐し、人の街に無理矢理連れ込んでいました!」


だから何の事だよ…!誘拐とか姫様とか!俺らはそんな事してねぇよ!!


「何の事だにゃ!昨日はセレナに頼まれて街で遊んでただけにゃ!」


「…セレナじゃと?」


ネネの発言を聞いた途端、品定めをするように俺らをジロジロ見てきた。


「もしかしてそなたら…ヤマとかヴィラとか言う者かの?」


「え?え、ええ…そうですが…」


それを聞いた途端怖そうな顔から一転、花が咲いた様な笑顔を見せてきた。


「おおー!主らがか!会いたかったぞ!…はっ!そんな事をしてる場合で無い!」


この発言を聞くに、このエルフは俺達の事を知っているのか?


セレナとか言ってたし、そこと何か関係あるのかもしれない。


「直ぐにこの3人を手当てせい!特に男は危険な状態じゃ!急げ!」


「はっ!」


俺達は数人のエルフにどこかへ連れてかれた。




***



「おいお前ら」


「は、はい!」


「こやつらは妾の客人じゃ。今後、手を出すことは許さぬ」


「し、しかし人間と獣人で、しかも姫様を…」


「妾の言う事が聞けぬのか?」


「…分かりました」


「そして…実行犯はお前らだな?」


「は、はい」


「貴様らには相当の罰を与える。覚悟しておけ」



***




結果的に私とネネさんはそこまで大きな怪我はしてませんでした。ですがヤマさんは話が違います。


急所は外れてましたが、あれだけの弓矢です。少し神経をやられてたらしく、今は数人のエルフが付きっきりで治療しているみたいです。


そして現在、先程止めてくれたシャンティ?と言うエルフとその場に居たエルフを引き連れて、頭を下げています。


「ほんっとうにすまなかった!妾の教育不足じゃったばかりに…おい!!貴様らも頭を下げい!!」


「「「「ごめんなさーい…」」」」


「…ふざけるでない!?それが人に謝る態度か!?」


謝るが相当嫌なのでしょうか、とりあえず頭を下げてる感じが凄いです。


「もう良いですので頭を上げて下さい…」


「謝罪とかもう良いにゃ。さっさと出ていってくれにゃ」


私達がそう言うと、嫌々謝ってたエルフ達を追い出してくれました。ここに残ったのはシャンティと言うエルフだけです。


「…二人の気持ちは良く分かる。じゃが…エルフが皆があんなのでは無いのじゃ。どうか信じてはくれぬか…?」


理屈は分かります。現にセレナさんはとても礼儀正しいエルフでした。


それでも…


「あんな事されて信用しろとか無理にゃ」


「…私もです。エルフがこんなに残酷な種族とは思いませんでした」


良く分からない罪でヤマさんは殺されかけて、更に底辺種族と何度も煽られました。


いくら怪我の治療はしてくれたとは言え、私でも関わりたくありません。


それに今は唯一の良心だったセレナさんですら関わりたくありません。


「…そうじゃの。それが普通の反応じゃ…すまない。少々驕りが過ぎたの」


私とネネさんが拒絶すると、とても悲しそうな顔をしました。


ですが…今回ばかりは…


「そもそもあんた誰にゃ?随分と偉いみたいじゃにゃいか?」


「自己紹介がまだじゃったな…妾は『フラテルニテ・シャンティ』このエルフの里の女王をしている者じゃ」


正体は何と女王様でした。

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