20話 この世界のエルフとは
「遊ぶだけでお金が貰えるとか楽な仕事だにゃ~」
「本当に大丈夫ですかね?こんな都合の良い依頼は怪しいのでは…」
「俺、この依頼主知ってるぞ」
確か囮作成の後にアユルを案内して貰ったエルフだよな。この人なら信用しても大丈夫だろう。
「ほ、本当ですか!どんな方でしたか?」
「エルフで礼儀正しくて…ちょっと押しが強いかな?」
「なら信用しても良さそうだにゃ!」
違ったら違ったで構わないし、受けてみるか!
そして待ち合わせの場所に行くとやはり…
「あ!お兄さんお久しぶりです!私の事覚えてますか?」
「やっぱりセレナか。久しぶりだな」
間違いないな。あの時のエルフだ。
「あ…もしかして以前森でお会いした方ですか?」
「あ!剣士のお姉さん!あの時はありがとうございました!」
もしかして、あの時ヴィラが言ってたエルフってセレナの事だったのか。
「い、いえいえ!当然の事をしただけですから!」
「二人とも知り合いなのかにゃ?」
「前にちょっとな」
さて、依頼だから遊ぶ内容を考えてるのだが…
「遊ぶと言ったらやはり娯楽街ではないですか?」
「あ!最近新しいお店出来たからネネ行ってみたいにゃ!」
「おいおい…今回はセレナの依頼だろ…」
結局、数分話してもどこに行くか揉めて決まらないでいた。
「話しても決まりそうに無いですし、行きながら決めませんか?」
「そうだな。セレナもそれで…」
するとセレナな小さな声で呟いた。
「ごめんなさい…私は娯楽街に入れないんです…」
「え、何で?」
入れない?どういう事だ?前案内してくてた時は普通に入ってたよな?
「えっと…通り道としてなら入れるんですが、中のお店には入れないんです…」
…ますます意味不明だ。入れるのに入れない?訳が分からん。
「もしかしてこれの事ですか?」
通りかかった店に奇妙な貼り紙が貼ってあった。
『エルフ種お断り!!』
『エルフ立ち入り禁止!!』
何だこの貼り紙は…エルフだけお断り?
しかも娯楽街の割と色々な所に…
「ネネが聞いてみるにゃ」
「どうだった?」
「ネネが聞いた話だと…」
『貼り紙にあったけど、エルフ種お断りって何でだにゃ?』
『お前さん知らんのか?エルフは人間とか獣人を見下す偉そうな奴らだぞ?』
『ネネは最近来たから知らないにゃ』
『そうなのか?なら覚えとけ。エルフ種には絶対関わるな。相手するだけ無駄だからな』
『何故か最近は慈善活動とか演説とかやってるが、俺には何か企んでるとしか思えないな』
『もしかしたら、心を許したのを見計らってアユルに攻め行ったりするかもな』
『物騒な事言うなって…』
「こんな感じにゃ」
いや、エルフの印象めっちゃ悪くないか?でも前にアユルを案内してくれた時には別にそんな雰囲気無かったが…
「あの…エルフが世間でどう思われてるかご存知ですか?」
エルフが?そうだな…
「温厚な種族とか?」
「弓が得意…ですかね?」
「耳が長いにゃ!」
セレナは違うんですと首を横に振った。
「実はエルフってあんまり良く思われて無いんです。態度が傲慢って理由で…」
「傲慢?例えばどんなのだにゃ?」
「うーんと…同族以外にはお礼を言わなかったり、命令口調や見下したり…」
思った以上にヤベー種族だな…あれ?でも…
「ですがセレナさんもエルフですよね?とてもその様な風には見えませんが…」
「最近はそういう…うーんと…いじめ?は、良くないってみんなで話してるんです」
いじめとは違う気がするが…まあエルフ側も何とかしようとしてるって事だな。
それでセレナは親から『共存の心得』なる物を叩き込まれてるらしい。
例えば…
『エルフは至高の存在では無い』
『見下すのは悪い事』
『礼儀を必ず持て』
『身体差別は厳禁』
他にも色々あるらしいが、正直言って物心着いた子供に教える様な事ばかりだ。
「至って当たり前の事ばかりですが…?」
「その当たり前が出来ないのがエルフってお母さんも言ってました…」
エルフって面倒だな…
「里のみんなで頑張って、アユル辺りの人達からの誤解は解けたのですが…年単位のイメージはそんな直ぐには良くならなかったです。やっぱり悪く思う人もまだ沢山居ます」
「それが偶々娯楽街に集中してたって事か」
今度はネネが口を開いた。
「じゃあその耳隠せば平気なんじゃにゃいか?」
「私の耳って横に長いから隠そうとしても不自然に膨らんじゃって…」
「フード被るとかでもか?」
「はい…」
まあ確かにこの長さの耳だとフードが変に突き出た形になる。こりゃ困ったな…
「ちょっと待ってて下さい!私に考えがあります!」
ヴィラはそう言うと服屋に走って行った。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「わあ…!」
ヴィラが買ってきた服を着ると、セレナの耳はかなり綺麗に隠れた。これならエルフだとバレる事はまず無いだろう。
それにしても…
「兎耳フードの改造か。よく思い付いたな…」
「えへへ…私こう言うの得意なんです!」
頭の上に付いてる長めの耳を切って中をくりぬき、そこに耳が入るように縫い合わせたようだ。
多少は横に伸びてるが、この程度なら大丈夫な筈だ。
「獣人が増えたみたいで気分が良いにゃ!兎獣人はネネ好きだにゃ~!」
「ひゃっ!」
そう言うとネネはセレナに抱き付いた。よし、これで問題は無くなったな!
さて、耳も隠れたし準備は出来た。
行くぞ!娯楽街!
「今日はありがとうございました!とっても楽しかったです!」
結局耳はバレる事は無く、どのお店もウェルカム状態だった。
セレナも普段入れない色んな所に行けてかなりご機嫌だ。
「ま、遊びになら何時でも来な」
「何時でも来て下さい!」
「兎耳なら歓迎するにゃ」
「これ…お礼のお金です!受け取って下さい!」
そう言うとお金の入った封筒を取り出した。
「そ、そんな!お金なんて…「分かったにゃ。ありがたく受け取っとくにゃ」ネネさん!?」
ヴィラを押し退け、ネネはお金の入った封筒を受け取った。
「ではまたよろしくお願いしますね!」
そう言うとセレナは上機嫌で帰って行った。
「何で受け取ったんですか!?遊んだだけじゃないですか!!」
「セレナは依頼として出したんだにゃ。受け取らないと報酬未払いで今度はセレナが捕まるにゃ」
「あぅ…」
今回はたまたま知り合いだったってだけで、受け取らないとアウトだしな。俺らも慈善事業でやってる訳じゃ無いし…
ヴィラも渋々だが納得してくれた。
夜
俺は寝袋に入りながらエルフと人間についての考え事をしていた。
セレナの言ったエルフ像が本当なら、配達の時に居たのはエルフだったんじゃないか?
本当なら辻褄は合う、相当人を下に見てるってのも分かる。
…いっそのこと、エルフの里に行って殺して貰うとか?
ははっ、たとえ人間嫌いでも流石に殺しはしないか!
さて、今日は致せる物も無いし、明日も早いからもう寝て…
『お前がヤマだな?』
「は?だれだ…」
その瞬間、俺は急な眠気に襲われて意識を失った。
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