18話 お世話になります
本来なら断ってさっさと抜け出してただろう。
けど…けど…!
「?」
滅茶苦茶罪悪感があるんだよ…
下心も悪意も無く、こんなに心配してくれたのは初めてだ。
「じゃあ今日だけ…」
こんなの断れる訳が無いだろ!!今日の死に活は中止だ中止!!
「はい。ではゆっくりなさって下さいね」
てことで、今日だけのニート生活が始まった。
さて、久々の完全な休みだが…いざこうなると何も思い付かんな。
レクイエムさんも常に居るわけじゃないし…
「失礼します」
ノックの後にレクイエムさんが入って来たが、その両手には本を何冊か持っていた。
「ずっとベッドで横になってるのも退屈だと思いまして、本を持ってきました。この様な場所ですので、余り面白いのは有りませんが…」
「あ、ありがとうございます」
本をテーブルに置くとレクイエムさんは静かに部屋を出ていきました。恐らく俺に気を使ってるのだろう。
しかもこの本の内容も…
『魂の安息』
『法の得心』
『Malus bonus』
いかにも教会らしい本が多いな…。最後のに至ってはそもそも読めんし。
でも折角持ってきてくれたし、この『魂の安息』ってのは読んでみるか。
「ふぅ…」
割と面白かった…
堅苦しい感じかと思ってたが、そんな事は無い。先入観とは恐ろしい物だ。
じゃあ今度は『法の得心』でも…
「ヤマ様、昼食をお持ちしました。失礼しますね」
…もう昼飯?
「どうかなさいました?」
「いや…本読んでたら時間経つのは早いなって…」
「ふふっ、楽しんで頂けたのなら何よりです」
昼食は相変わらず旨かった。
昼食の後、『法の得心』も読んでしまった。ラスト1冊は読めんからパス。
新しい本でも頼んで…
…
「静かだな…」
普段ならネネやヴィラが何だかんだで常に居た。
居なくなるだけでこんなに静かになるんだな…
「失礼します。ヤマ様、体調は如何ですか?」
本当にタイミングがバッチリだな…
「あの、レクイエムさん」
「何でしょうか?」
「もし時間があれば…話し相手になってくれないかなって…」
「構いませんよ。私で良ければ幾らでも相手になりますね」
それから俺は色々な事を話した。
訳あって実家を出た事。
森でヴィラと出会った事。
橋の下でネネと仲間になった事。
エミリーの事。
致した事以外は殆ど話した。
レクイエムさんは話の全てを泣いたり笑ったりと、兎に角楽しそうに聞いてくれた。
そしてそんな事をしてたら、もう外は暗くなり始めていた。
「すみません…そろそろ夕食の準備をさせて頂きますね」
「す、すみません。時間取らせてしまって…」
「いいえ、私もとても楽しかったですよ。よろしければ、また聞かせて下さいね」
夕食も相変わらず(略)
そして深夜。俺は何処と無く落ち着けず、眠れないでいた。
アユルに来てから基本的には野宿だったし、ベッドでゆっくり寝るのに違和感しか無い。
寝ようとしても直ぐに目が覚めてしまう。しかも今回は致したいとも思わない。
窓を開けて月を見るくらいしか、やる事もない。
「失礼します…」
するとドアがゆっくりと音を立てずに開いた。声も気を使ってるのか、かなり小さい。
「ヤマ様…?眠れないのですか…?」
「まあね…」
「…やはり明日には行ってしまわれるのですね」
そう言うと、レクイエムさんは俺の横に来てくれた。
「はい。あいつらを放っておく訳にはいかないので」
「ヤマ様が決めた事であれば、私はどんな事でも応援します。…ですが、一つだけ約束して下さい」
レクイエムさんは月明かりをバックにして、俺と向き合った。
「これから辛い事や悲しい事が沢山あると思います。ですから…ヤマ様も、何か辛い事があれば私を頼って下さい。必ず、力になります」
そう言うと手の甲にレクイエムさんの唇が触れた。…え?これってもしかして…
「ふふっ、本当は一人を贔屓するのはいけないんですよ?ですが、今夜だけは特別です。…さ、そろそろお休みになって下さい。夜風は体に悪いですよ」
…今思うと誰かに甘えるって経験した事が無かった気がする。
「あの…レクイエムさん…」
今日だけなら良いよな…?
「俺が寝るまでで良いので…そこに居て下さい…」
「分かりました。では…良い夢を…」
こうして夜は更けていく…
次の日の朝、久々に快眠出来た俺は絶好調と言えるほどに調子が良い。
今なら何度でも致せそうだ。
「ヤマ様…良ければこちらを…」
出された両手には小さな十字架を模した首飾りが置いてあった。
「私が祈りを込めたお守りです。きっと神がヤマ様を護って下さるでしょう」
別に守って貰う必要はあんまり無いけど…好意を無下には出来ない。ありがたく受けとっとこう。
「じゃあ…一日お世話になりました」
「ふふっ、何時でも来て下さいね」
レクイエムさんは小さく手を振って見送ってくれた。
「ヤマー!何してたんだにゃ!」
「探したんですよ!」
間もなくして、ヴィラとネネがやってきた。どうやらずっと探してたらしい。
その証拠に目の下にはクマが出来ていた。
「ちょっと教会に…」
「教会…?何故その様な所に…」
「怪しいにゃ…」
さて、何て説明するかね…
***
あれがヤマ様のお友達…ですかね?
ふふっ、とても仲良さそうでちょっと妬いちゃいます。
ですが…
少し会う順番が違えば
あそこには私が居たのでは…と
…
なんてね。
ふふっ、私も頑張らないと、ですね。
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