17話 鎮魂
ヴォドニークは俺らに石を渡した後、さっさと湖に戻ってしまった。
一方、俺達は掃除して出たゴミを手分けして持ってアユルに向かっていた。
「にゃあー…あの詐欺カエル…次会ったらただじゃ置かないにゃ…」
「全くだ…こんな石ころで済ませやがって…」
「まあまあお二人とも…」
無駄に綺麗なのが逆に腹立つんだよな…
しかもゴミ重いしよ…
「ヤマさん、重くないですか?」
「だ、大丈夫だ」
量としては『俺2、ヴィラ2、ネネ6』と言った所だ。ネネは獣人だから兎も角、鍛えてると言っても年の近い女の子に力負けするのは流石に嫌だ。
だから必死に持って歩いている。
「辛かったら何時でも言って下さいね」
「ネネもまだ持てるにゃ!」
完全に弱々扱いされてる…意地でも頼らんからな!
さて、報酬金で寝袋は買えたし、野宿の準備は出来た。
ナイフは二人に没収されたが…今回は違う。
そう!あの掃除中に刃物の破片をくすねておいたのさ!
橋の下で夜。匂いが出る物も無いし、ヴィラもネネも今回は来ないはず!
完璧な条件だ!
…ただ、いざやるとなると割と怖いな。
だがこれも強くなる為の試練だ!俺は死をも超越してみせる!
いざ、参る!!
※※※
あー…やっぱり痛いなぁ…しかも段々眠くなってきた…
…ようやく…一…死……だ………
俺は静かに眼を閉じた…
「はっ!」
「目が覚めましたか?」
ここは…ベッドか?
…まさかまた死ねなかったのか?
「驚きましたよ。まさか自ら首を切っている人が居るとは思いませんでした」
ベッドの横に居たのは所謂、修道服と言える服を着た若い女性だった。
そして首には包帯が巻かれてあり、いかもに治療しましたと言わんばかりだ。
「苦しかったですか…?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「本当に危険な状態だったんですよ?今回は私が偶然通りかかったから良かったですが…」
あの橋の下って案外人目に付くのか…?ならそろそろ新しい場所も探さないとかもな。
「何か辛い事があったのかは私には分かりません。ですが、死にたがる人を前にして見過ごす事は出来ません」
修道女さんは一息入れた。
「どうか、私に思いをぶつけてはくれませんか?」
心配した表情で俺を見てきた。
…良いだろう。最近全然死ねなくて多少はストレスが貯まってんだ!
なら思う存分言ってやる!!
「俺はとにかく弱い。何ならいつも女の子に守られてる位だ。勿論特訓もした。でも、ダメなんだ!」
更に言葉を続けた。
「だからそんな自分に嫌気が差したんだよ!ならこの世から消えればそんな悩みも無くなると思ってな…」
大体は本当だ。弱いのも本当だし、守られてるのも本当。特訓した事もあるが、成長阻害もあり成果は無し。
死ねば強くなるからこの世から消えれば悩みが無くなるのも強ち間違いでは無い。
「お辛かったですね…今まで良く頑張りました…」
だが効果抜群だったようだ。
修道女さんは泣きながら俺を抱き締めている。更には背中を擦るおまけ付き。まさかここまでとは…
「私は神より皆様に安らぎと安息を与える使命を受けています。…お節介かもしれませんが、今はゆっくりお休みになって下さい」
そう言うと優しい表情で頭を撫でてくれた。
「そういえば名前…俺はヤマって言うが…」
「そうでしたね…私はレクイエムと申します」
そう言うと深く一礼した。
てか結構変わった名前だな…
「ふふっ、きっと変わった名前だと思ったのではないですか?」
やべっ、顔に出てたか?
だがレクイエムさんはその疑問に答える様に話を続けた。
「これは入信した時に貰った名前です。この教会に勤めてる間はその名前で名乗る事が義務付けられています」
割と教会も面倒だな…
「さて、お腹も空いたでしょう?朝食、できていますよ」
少しするとレクイエムさんはスープとパンを持ってきてくれた。そう言えば木の実や魚以外の飯は久しぶりな気がする…
「ふふ、いただきましょう」
スープは木の実や野菜が沢山入っていて、味も薄すぎず濃すぎない。加えて出来立てで暖かい。
パンは焼きたてなのかふかふかで、とても食べやすい。
「美味い…」
「それは良かったです。おかわりもありますので、沢山食べて下さいね」
ネネ達と食べた魚も格別だが、それ以上に美味い飯は初めてだ。結局俺はパンは2つ、スープは3杯も食べた。
「それと…ヤマ様に一つ提案があります」
「提案?」
「はい。ヤマ様は今までとても良く頑張りました。ですが…ずっと頑張る余り、体も心も限界を迎えています」
レクイエムさんは更に、でなければ自ら首を切ったりはしないと付け足した。
「どうでしょう。暫くここで過ごしませんか?」
一方その頃…
「これ…血だにゃ…絶対ヤマに何かあったにゃ!」
「もう乾いてます…一体夜中に何が…」
「とにかく探すにゃ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます