16話 ヴォドニーク

それから俺らは際のヘドロだけでも回収をした。


したのだが…


「外側だけ綺麗にしたらより汚さが目立つにゃ」


「やらなきゃ良かったかもな」


中心部分だけ汚くて周りは綺麗と言う何とも歪な感じになってしまった。


無駄作業だったと思うと、何か疲れが一気に出てきたな…


「一旦休憩しましょう。袋の整理もしないとですし」


「お腹も空いたにゃ~」





今日の昼飯は事前に買っておいた栄養固形食料だ。


この近辺では釣りは出来ないし、木の実も多くないから仕方ない。まあこの程度なら大した出費でもないしな。


「…それにしても、やたら人工的なゴミが多いですね」


「そういやそうだな…」


食べ物の袋や錆びた武器、汚れた服にアイテムまで。とにかく色々な物が落ちている。


「誰かがゴミ捨て場にしてるのかにゃ?」


「ありえそうな話だな」





「旨かったにゃ~」


「ネネさん。ゴミはこちらにお願いします」


「はいにゃ…にゃ!?」


だがその瞬間突風が吹いてきて、ネネのゴミを吹き飛ばしていった。


そして飛んでいったゴミは湖の上に落下した。


「…ゴミ掃除に来たのに自分で増やしちゃ意味無いにゃ」


ネネはゴミを拾おうとした…が、それは叶わなかった。


ズブッ


「にゃ!?」


あっという間にゴミが湖に吸い込まれた。


「おい、どうしたんだ?てかゴミはどうしたんだよ」


「湖に吸い込まれたにゃ!絶対湖の中に何か居るにゃ!」


そう言った瞬間、湖に大きな波が立ち始めた。


「二人とも離れろ!何か来るぞ!」


どうやらヌシみたいなのが居る雰囲気だ。これは肉壁になるチャンスだ!


二人を押し退けて俺は前に出ようとした。


「だからヤマは前に出るにゃ!」


「危険ですから下がってて下さい!」


お二人とも今日もお元気な事で…


そうこう言ってる内に、何かが湖から飛び出して来た…!


一体何者なんだ…!…ん?


「…何だ…こいつ?」


「カエル…?いえ、人…ですか?」


「気持ち悪い奴にゃ…」


身長170㎝程で、カエルをそのまま立たせて歩かせてるかの様な見た目だ。


モンスター…か?


『聞く…お前達は何しに来た…』


「しゃ、喋ったにゃ!?」


絶対モンスターじゃない何かだろ!


…いや見た目はモンスターだし、本当に何者だ?


『もう一度聞く…お前達は何しに来た…』


「掃除にゃ!別に悪さしに来た訳じゃ無いにゃ!これが証拠にゃ!」


俺とネネは雑草やゴミを入れた袋をこのカエルらしき者に見せ付けた。


『そうか…ではそれをどうする気だ?』


「え?普通に持って帰るつもりだけど…」


『ふむ…悪さをしに来た訳では無い様だな…』


このカエルは何でこんなに偉そうなんだ…


「それより…貴方は何者ですか?それによっては倒さなければなりません」


そう言うとヴィラは剣を構えた。


『私はヴォドニーク。そうだな…君達の言葉でモンスターとでも言っておこう』


「モ、モンスター!?なら退治を…」


『案ずるな。襲う事に興味は無い』


信じて良いのかは分からんが、こんな状態でも手を出してこない所を見ると多少は信用しても良さそうだ。


まあ何かあれば俺が盾になれるし。


「ヴィラ、敵意は無さそうだ。剣はしまっとけ」


「…分かりました」


少しして落ち着いたのか、大人しく剣をしまった。


悪い奴では無いのか?


「敵意が無いのは分かりました。ですが、この汚さと最近行方不明者が出てるのには関係あるんですか?」


『あぁ、あの集らか。それなら肉体と魂を分離させ閉じ込めてる』


やっぱり悪い奴じゃねえか!


「でしたらその人達を返してくれませんか?」


『駄目だ』


「っ!どうしてですか!」


『こいつらは自然を冒涜し水を汚した。ならばその罪は生命で払うのが道理と言うものだ』


あのきったない湖はそういう理由で出来たのか。なら、やたらと人工物が多いのも納得出来る。


それを知ったら腹が立ってきたな…


『この現状を見ただろう?この汚れの殆どが人間達だ。何故私達が我慢せねばならんのか?』


「分かるにゃ。悪いことしたから報いを受けた。別に普通だにゃ」


ネネはうんうんと頷きながら、ヴォドニークの意見に肯定的だ。


やったらやり返される、だな。普通に襲われてるかと思ったけど、非があるなら仕方ないのかな?


『ヴィラと言ったな』


「は、はい。何でしょうか?」


『君は優し過ぎる。時には非情になる事も大事だ。だが…それは君の良さでもある。決して忘れてはならんぞ』


「あ、ありがとうございます!」


モンスターに説教されるってどんな状況だ…


「(モンスターに諭されるとか変わってるにゃ)」


「(ほっといてやれ)」





『さて、掃除に来たと言ったな。なら私も協力しようではないか』


そう言うと俺達の足が光だした。


光は暫くして消えたが、すると不思議な事が起きた。


「み、水の上を歩いてるにゃ!」


「こんな事があるんですね…」


まさか水の上を歩くとは…これなら確かに掃除は出来るな。


『では思う存分するが良い』


「てか薬はどうなったんだにゃ?あんたなら気付いてるんじゃにゃいか?」


そう言えばそうだ。来た時にネネが全部入れた筈なのに、全く効果が出てない。


『とっくに無力化した。確かに汚れは取れるが、生物には害が有りすぎる。悪気は無かった様だから特別に見逃そう』


このカエル…見た目の割には結構強いモンスターだな…


敵認定されれば殺して…駄目だな。魂抜き取られたら完全に終わりだ。


前言撤回。敵認定されなくて本来良かったわ。


「それより今まで何してたんだにゃ?一人で片付けとかはしなかったのかにゃ?」


『していたさ。だがゴミの行き場が無く中々進まなかった。森に捨てる訳にはいかないしな。精々端に寄せる程度だ』


「とにかく手分けしてやりましょう!」


でも水の上を歩いたとは言え、深い所は流石に届かんし…


『私は水中のゴミや汚れを水面まで浮きあげる。回収は任せたぞ』


めっちゃ頼もしいな。こうなったらやってやろうじゃんか。


「とにかくやるぞ。袋に入らない大物は一回陸に置いといて、どんどん回収しよう」


「ならネネに任せるにゃ。猫獣人は結構力持ちだにゃ!」


「なら私は水中の汚れを掬いますね!」


三人+一匹での大掃除が始まった。






「お、終わった…」


「疲れたにゃあ…」


「私も限界です…」


ゴミだらけで水も汚れきった状態だったのに、今ではゴミもほぼ無くなり湖もかなり綺麗になった。


袋も大量のゴミで埋まり、限界ギリギリだ。


『まさかここまで…代表して礼を言おう。さて、恩を受けたなら私も何か返さねばならんな』


「そ、そんな!お礼なんて!元々は私達人間のせいですし…」


『駄目だ。ここまでされて無視は出来ん。少し待ってろ』


そう言うとヴォドニークは水の中に入って行った。


「何くれるのかにゃ?」


「さあな。まあ湖の守護神みたいな感じだし、多少は期待出来るんじゃないか?」


一番欲しいのは強さだけど…流石にそれは無理だな。無難に金があると嬉しいかな?


「ネネは何か美味しい物が欲しいにゃ!」


「俺はそうだな…水中のレア物とかかな」


売れば金になるしな。


「ヴィラはどうなんだ?」


「わ、私ですか?私は感謝の言葉があればそれで…」


「…夢の無い奴だにゃ」


そう言ってるとヴォドニークが湖から出てきた。


『待たせたな、受け取ってくれ』


こんなに頑張ったんだ。少しは期待しても良いよな?


「…何だこれ」


『石だ』


「要らんにゃ!!!」


期待した俺らがバカだったよ!

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