第12話 決意

あー…痛えなぁ…


これなら首切った時とほぼ同じ条件だし、生き返れるはずだが…


ヴィラとネネは大丈夫だろうか…


「いやあああああ!!!!」


くそ…分かっちゃいたが、ヴィラがヤバイ事になってる。


俺は普段からお荷物なんだ!こんな時くらい役に立たせろ!


「ここは任せな…お前ら逃げろ!」


「…分かったにゃ!後で絶対助けに行くにゃ!」


抜けた腰が回復したネネは、ヴィラを担ぎ上げた。


「おいお前!今は逃げるにゃ!」


「いや!いやぁ!は、早く!早く助けないとぉ!!」


「ヤマが作ったチャンスを無駄にする気かにゃ!少し黙るにゃ!」


「あっ…」


暴れるヴィラを気絶させ、ネネは森の出口に向かって走り出した。


しかしそれを見逃す程、エミリーは優しくない。確実に追いかけるだろう。


だから俺は先制で、エミリーの足に今日買ったナイフを刺した。


「あら何かし…っ!お前…!私に何をした!」


「眠りナイフだ…!お前でもこれは効くだろ…!」


どうやらかなり即効性のある薬らしく、エミリーは目に見えてよろけ始めた。


くそ…俺も意識が…だがネネ達は逃がせたし、一死は達成出来そうだ…


これがどう響くか…楽しみだな…


一緒に地獄に行こうぜ…











「ここは…」


「目が覚めたかにゃ」


ネネに自宅まで連れてかれたヴィラは、布団の上で目を覚ました。


「聞きたい事は山ほどあるけど、とりあえずあの女はエミリーって事で良いんだにゃ?」


「はい…」


ヴィラは力無く答えた。


そして今度はネネに質問をした。


「すみません…何故お二方はエミリーの事をマリアさんと勘違いしたのですか?」


「あの女がマリアって名前の入ったリュックを持ってたんだにゃ。でも中は血でぐちゃぐちゃだったにゃ…」


「そうだったんですか…恐らく…マリアさんは…もう…」


二人とも、もう察してるだろう。


マリアがこの世に存在しない事に。


「少し一人にさせて貰っても良いですか…」


「分かったにゃ」


そう言うとネネは家から出ていった。


そして居なくなった途端、ヴィラは緊張が解けたかの様に泣き始めた。


「あんなに泣いたのに…!沢山後悔したのに…!私、あの時から何も成長してないじゃない…!」


「死んじゃったら…もう何も返せないじゃ無いですか…!」






「ぐ…」


俺は背中の痛みで目が覚めた。


一体どれだけ眠ってたんだろう?


一筋の希望にすがり魔法を発動してみるも、相変わらず湿らせる程度だ。


ここまでやって俺は死んでないのか…


どんだけしぶといんだよ…


「起きたかしらぁ…」


痛みに耐えながら顔を上げると、そこには不気味な笑みを浮かべたエミリーが立っていた。


「よくもやってくれたわね…!すぐ殺してあげようかと思ったけど…予定変更よ」


そう言うと、エミリーはどこからか縄を取り出した。


「…苦しめて利用して…最大級に絶望したら殺してあげるわ…!」









「落ち着いたかにゃ?」


「はい…ご迷惑おかけしました…」


マリアさんも、ヤマさんも、もう、居ない…


もう…どうでも…


「じゃ、行くにゃ」


「どこにですか…?」


そう言うと、ネネさんはナイフを用意し始めました。


今さらどこに…


「助けににゃ」


「ですが…!もうヤマさんは切られて、マリアさんも絶望的な状況で…」


「ヤマを勝手に殺すにゃ!」


そう言った瞬間、私はビンタされました。


「まだ剣で切られただけにゃ!死んだのをこの目で見るまでネネは諦めないにゃ!」


ネネさん…


「で?あんたはどうするんだにゃ?行くのにゃ?行かないのにゃ?」


…そんなの決まってます!


「当たり前です…!せめて…せめてヤマさんだけは…救いたい…!」


こんな思いは…三度としたく無いです…!


皆さん…ごめんなさい。私、少しだけ悪い子になりますね。


今度こそは…!絶対に…助けます…!


「うー!!にゃー!!行くにゃー!!ヤマ奪還作戦だにゃー!!」


「お、おー?」






「どこにゃー!どこに居るにゃー!」


森の中、必死で叫びながら探しますが、ヒントも無しに探し当てるのは無謀としか言えません。


ですが、こんな事で弱音は吐けません!足が折れても探さないと…!


「そっちは居たかにゃ!?」


「いえ!まだ全然です!」


何か…何か一つでも手がかりがあれば…







キーン…







『じ……縛…せて……わよ……』








…?今の…何ですか…?


エミリーの…気配…いえ…声…ですか…?


「どうしたのにゃ?」


「いえ…何故かあっちにエミリーが居るような気がしまして…」


何でしょう…?不思議と、声が…?


「良く分からんけど、行ってみるにゃ!そいつが居るならヤマも居るかもにゃ!」


と、とにかく行ってみましょう!今はこんなオカルトでも縋るしかないのです!




暫く進むと、見覚えのある姿が二つ見えました。


「あ、あれは!」


「ホントに居たにゃ!?」


間違いないです!見つかりました!


そんな中、エミリーはヤマさんに座りながら空を見上げてました。


随分呑気な者ですね…!


「見つけましたよ…!エミリー!」


「ヤマを返せにゃ!」


「あら、遅かったわねぇ」


エミリーはヤマさんの上に座ってますが、座られてるヤマさんさピクリとも動きません。


まさか…本当に…


「安心なさい。まだ生きてるわ。まあ、後どれだけ持つか…だけどねぇ…」


「…こんな事言うのもあれにゃけど、何でヤマは生きてるんだにゃ?」


確かにそうですね。功績が欲しいなら、ヤマさんを倒して事件をでっち上げる事だって出来たはずです。


「そりゃあねぇ…ここで殺してたら丁度良い盾に出来ないじゃない?利用出来る物は利用しないと…ね」


「外道ですね…」


「褒め言葉をどうも」


エミリーは余裕そうな表情をしながら言ってきました。


「この子は諦めて早く帰った方が良いんじゃないかしら?生きて帰らないとみんな悲しむんじゃないのぉ?」


…そうですね。ドルガー教官も言ってましたが、生きて帰れって言葉は間違いでは無いと思います。


ですが、それを理由に誰かを見捨てる事は…私には出来ません!


女には…命を賭けてでも、やらないといけない事があるのです!


「いいえ!ここで帰ったら…女が廃ります…!」


「覚悟しろにゃ!」


私は剣を、ネネさんは拳を構えました。


「格好いいわねぇ…王子様を救う女騎士って所かしら?」


そう言うと、エミリーはヤマさんから立ち上がりました。


「ならお望み通り…全員私の糧になりなさい!」


エミリーと私達の、戦いの火蓋が切られました。

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