第13話 命乞い

「ネネが木の上から叩くにゃ!下は任せるにゃ!」


「了解です!」


ネネさんが木の上からナイフを投げつつ、私がエミリーと正面対決を始めました。


まだ油断してるのか、それなりに優勢だと思います。今の内に可能な限り負荷をかけないと…!


「痛くは無いけど…小賢しいわね!」


そう言うと何かを地面に投げつけ、辺り一面が煙で覆われ始めました。


「にゃにゃ!?煙玉だにゃ!」


「けほっ…煙いですね…」


視界を奪って、その隙に攻撃すると言う算段ですね。


ですが作戦が分かっても、避けれるかと言うと話が違います。


せめてエミリーの位置が分かれば…!







キーン…







『こ…で………よ…!』







…!左から声が…!あの時と同じ…!


なら!


私は咄嗟に一方引いた瞬間、目の前でエミリーの剣が振り下ろされました。


「なっ…!避け…」


「そこです!」


「ぐっ…やるじゃない…」


「貰ったにゃ!」


ネネさんは畳み掛ける様に、ナイフを構えました。ですが…


「あら危ない」


エミリーは縛られてるヤマさんを盾にしてきました…!


「にゃ!?卑怯だにゃ!」


当然そんな事されてはナイフは投げれません。


「隙だらけよぉ!」


今度は私に背を向けたかと思えば、ネネさんの構えてる木に向かって大ジャンプをしました。


え!?待って!?ネネさんが危ないです!?


「にゃ!?そんなのありかにゃ!?」


「まずはあんたよぉ!」


そう言うと、ネネさんのお腹に強烈な蹴りを入れて来ました。


「にゃああああああ!?」


攻撃をモロに受けたネネさんは地面にぶっ飛びました。


まさかあんな大ジャンプをするとは…


「これで鬱陶しいのは消えたわね。さ、続けましょ」





エミリーが少し本気を出してきたのか、防戦一方になって来ました。


大丈夫です…!まだ私は戦えます!


しかしそんな私を嘲笑うかの様に、私に語りかけて来ました。


「せっかくだから教えてあげるわぁ。あの女を殺したワケを」


「…!!何故…マリアさんを殺したのですか!」


「尻尾捕まれちゃったんだもの。ただの口封じよ。く・ち・ふ・う・じ」


尻尾…?もしかしてマリアさんは証拠を掴んでたのですか!?


そんな身勝手な理由で…!


私は怒りが沸いてくるのがはっきりと分かりました。


「リュックも便利だったわよぉ。食料も薬も山のようにあるんだもの。だから殺す前に言ってあげたわ」


それは悪魔の一言でした。


「私の為に死んでくれてありがと!ってね」


「エミリィィィィーー!!!」


私は後先も考えずにエミリーに突進しました。


「単調ね」


「がはっ…」


怒りで我を忘れた私は、エミリーの攻撃で近くの木に吹き飛び、全身に強い痛みが走りました。


そのまま私は倒れ込んでしまいました…


「死んだわね。次はあの猫獣人にトドメよ」


ダメ…!絶対行かせません…!


私は痛みに耐えながら、エミリーを足首を掴みました。


「…」


それが鬱陶しかったのか、エミリーは私を蹴り飛ばしました。


ですが…!ボロボロになっても、みっともない姿でも!私は最後まで抗います…!


私は再度足首を掴みました。


「ああもう!」


エミリーは私の首を掴み上げて来ました。


「うぐ…」


「そんなボロボロの姿で何が出来るって言うの!?そんなに逝きたいなら今すぐこの手で…!」


「ぐっ…私は…最後まで…絶対諦めません…!」


私は左手でエミリーの顔にパンチを繰り出しました。


「何したのかしら…?大ハズレよぉ?」


「いいえ…これはパンチじゃないですよ…!」


「はぁ?」


私は左手を強く握りしめました。


「何?この茶色の煙は…うっ!?臭!?くっさあ!?」


「臭玉です!いくら強くても、悪臭となれば話は別でしょう…!」


倒れた時にこっそり手に仕込んどきました…!流石にこれは不意討ちだったみたいですね…!


エミリーがのたうち回ってる今の内です。私はネネさんの元に駆け寄りました。


「ネネさん!大丈夫ですか!」


「大丈夫にゃ…でも臭いにゃぁ…」


私の左手からは今尚、異臭がしています。


「それは…すみません…」


「でも臭さで頭スッキリしたにゃ。まずはヤマを助けるにゃ」


ですが異臭で動けない内に、縛られてるヤマさんを助け出す事には成功しました。


これで利用される事はもうありません!


「ヤマ、ちょっとだけ待っててにゃ。すぐぶっ倒してくるにゃ」


そう言って、ヤマさんを少し離れた木陰に休ませました。


ですが、モンスターに襲われる危険性がまだ残ってます。


私もネネさんも限界です。速攻で決めるしかない!


「あんたも手伝えにゃ。作戦があるにゃ」


そう言ったネネさんの作戦に、私は耳を傾けました。





「やってくれたわねぇ…!今度こそ確実に殺ってやるわ!」


「決着を着けましょう…!お覚悟!」


ですがもう、全身が悲鳴を上げています…


ここで決めます!


エミリーが斬りかかって来ましたが、私は両手で刃を押さえる事で何とか持ちこたえてます。


「ぐうぅ…!」


「そんなボロボロになって力勝負!?舐めてるのかしら!?」


刃が食い込んで手から血が流れ始めましたし、長くは持ちません。ですが…!


「いえ、充分です!」


その瞬間、エミリーの後ろから何かが飛んで来ました。


「あら?肩に…なっ…体が…痺…れ…!」


「にゃはは…!切り札はここぞの時に使うもんだにゃ!」


エミリーの肩には、ネネさんの痺れナイフが刺さってました。


このチャンス…絶対無駄にはしません!


「終わりです!」


「くたばれにゃ!!」


私は正面から切り裂き、ネネさんは背後からぶん殴りました。


「ごふっ…」


完全に無防備な状態での渾身の一撃です!無傷では居られないでしょう…!


「た、倒したのかにゃ…?」


「いえ、油断は駄目です。せめて武器は回収しましょう」


私はエミリーの落とした剣を拾い、破壊しました。


簡単に壊れたので、手入れをかなり怠ってたのでしょう。


「さっさと帰るにゃ…もう疲れたにゃ…」


「そうですね…ヤマさんも治療しないとですし…」


私もネネさんも肩で息をしていますし、怪我も酷いです。

ヤマさんの治療もありますし、早く戻らなくては…!


「何終わった気になってるのかしらぁ…?」


完全に勝利ムードでしたが、エミリーが再び立ち上がりました。


「…っ!まだ…!」


「ゾンビみたいな奴だにゃ…」


「剣は壊れたけど…あんたら程度なら素手で充分よ…!」


だめ…!もう力が…


「死になさい!!」


ぽすっ


「あれ…?」


ぽすっぽすっ


全然痛くない…?


「ま、まさか…!強化魔法が切れて…」


「…あの異常な強さはそういう事だったのかにゃ」


強化魔法は一時的にかなり強くなれますが、その反面、常に魔力を消費し、使えば使うほど反動が大きく出ます。


こんなに長く魔法を使えば、当分は赤ちゃんみたいな力しか出せない筈です。拘束するのも訳ないでしょう。


「…ネネはまだやれるにゃ。まだ殺りたいなら相手になるにゃ」


そう言うと、ネネさんは手をポキポキ鳴らしました。


まあハッタリだと思いますが、今のエミリーには充分過ぎる程効果があったみたいです。


「……ちょ、ちょっと待って!ヴィラちゃん!ネネちゃん!話し合いましょう!」


「……はい?」


「にゃん…?」


「降参します!もう抵抗しませんし、今回のことも、心から謝ります!で、ですからどうか、どうか命だけは!」


エミリーは土下座の状態で、ほとんど半泣きの声で、私に訴えかけて来ました。


「…何言ってるんですか?」


「それはちょっと虫が良すぎるんじゃないかにゃ?」


先程の余裕ぶって見下してた態度とはかけ離れた姿に、私はそんな言葉しか返すことが出来ませんでした。


「…も、もちろんタダでとは言いません!も、もしも助けてくれるなら…あなた達の奴隷になります!」


「…は?」


「にゃんだこいつ…」


「わ、私の身も心も、今までの功績も!二人に全て差し上げます…!わ、悪くない取引でしょう!?」


それからもお金を全て差し上げるとか、嫌いな人が居たら殺してあげるとか、必死に命乞いをしてきました。


こんな人の為にヤマさんは…!マリアさんは…!


「見苦しいヤローだ…」


振り向くと、木陰に休ませてた筈のヤマさんがこちらに来ていました。


「ヤ、ヤマさん!まだ立ち上がっては…!」


「大丈夫だ…それよりヴィラ、鞘を貸してくれ」


「…?良いですけど…」


剣なら兎も角、鞘…ですか?何に使うんです…?


「えっと…ヤマくん…いや、ヤマ様!私の事は好きにして良いので、どうか命だけは!ほ、ほら!私って結構良い肉付きしてますし、この体を自由に出来ます!男の子なら夢みたいな条件ですよ!」


どこまで必死ですか…


そんな下衆な願いをヤマさんが受け入れるわけ無い…ですよね…?


「二人を怪我させた分、マリアを殺した分、そして…俺を…分…!」


最後の言葉は聞こえませんでしたが、私達の為に怒ってるのだけは理解出来ました。


「くたばれ!!!」


「おごぉ!?」


ヤマさんはエミリーの脳天を鞘でぶん殴り、完全に延びてしまいました。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る