第2話 絶対死なせません!

死ねば強くなると言ったけど、やっぱり死ぬのは怖いし、慣れる気がしない。


しかも死ねば強くなる保証はまだ無いし、死んでもまた生き返る保証もまだ無い。


だから可能な限り一撃で殺してくれるモンスターが居ると嬉しいんだけど…


お、ちょうど大柄なゴブリンらしいのが見えた。しかもあそこに住処らしいのが見える。


住処なら殺される→生き返る→殺される…の無限ループが出来るはずだ。他の人に気付かれる事も無いだろう。


「ヘイ!そこのゴブリンの群れ!ここに美味しそうな人肉があるぞ!」


手をパンパンと叩き、挑発に乗ってきたゴブリンの群れは一直線に俺に襲い掛かって来た。


良かった。これで死ねる。


覚悟して俺は目を閉じた。








でもいくら待っても痛みが来ない。てかゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。


「これで…トドメ!」


目を開けると剣を持った女の子がゴブリンの群れを倒していた。


余計な事を…


まあ、端からみたらゴブリンの群れに襲われてる男ってなるから当然っちゃ当然だけど。


「もう大丈夫ですよ!怪我は無いですか?」


「あ…うん。助けてくれてありがとう…?」


普通なら泣いて感謝すべき所になるが、俺からしたら強くなる機会を潰された事になる。


口が避けてもそんな事は言えないが、思う位ならバチは当たらんでしょ。


「とにかくここは危険です。一旦安全な所に避難しましょう!」


そう言うと手を引かれて見通しの良い場所に連れてかれた。


どうやらここにはモンスターが嫌がる植物が多く生息してるらしく、森の中でも比較的安全との事だ。


「改めまして、私はアユルに務める見習い剣士のヴィラと言います。貴方は?」


「ヤマです。ヴィラさん、ありがとうございました」


「ヤマさんですね。…でも武器も荷物も持たずにどうしてこんな所に?見たところ商人でも無いみたいですし…」


流石に死ぬ為に来たとは言えないし、スキルの事も言ったらややこしくなる。


よし、ここは誤魔化そう。


「アユルに行きたかったんだけど、迷ってしまいまして」


嘘は言ってないからな。行きたいのは本当だし。


「それなら私が案内します!それとタメ口で構いませんよ」


「分かった。じゃあお願いするよ」








しかし結構距離があったらしく、夜になってしまった。


なので今日は比較的安全な所で野宿する事になった。


「ちょっと待ってて下さいね」


そう言うと、俺を中心にした大きめな円を指を使って書き始めた。


「何してるの?」


「魔除けですよ。森とかで野宿する時は寝込みを襲われない様にするんです」


確かに普通なら必須の事だ。


俺には不要な物だけど、ヴィラには必要な物だ。大人しく従っておこう。


「少ないですけど、良かったら食べて下さい」


これは…確かアユルで売ってる栄養固形食料だっけ?パサパサしてるのが難点だけど、結構美味しかったような。


流石に餓死は嫌だし効率が悪いから大人しく貰って口にした。


食べていると、ヴィラのお腹が小さく鳴った。


「お腹空いてません?」


「だ、大丈夫です!1日程度は食べれなくても我慢しないと!アユルの剣士失格ですから!」


…これはチャンスじゃないか?


食べ物を取りに行くと見せ掛けて外に出る。そして死ぬ。


流石にヴィラが異変に気が付くと思うが、暗くて俺を見付けるのに苦戦するはずだ。


そして6時間が本当なら夜明け前には復活して、死に顔も見られない。


よし、これで行こう。


「近くに食べれる木の実が確かあったよ。お礼も兼ねて取ってくるよ」


「待って下さい!夜に動くのは危険です!」


確かに危険なのは分かる。でもな、俺はその危険な所に行きたいんだよ!


「俺なら大丈夫だから」


「ダメです!行かせません!もし行くなら私を倒してからにして下さい!」


そう言うとヴィラは俺の前に立ちはだかった。こりゃ無理だな。絶対勝てんし。


仕方ない。深夜か明日以降にしよう。


制限時間は無いんだ。ゆっくりやってこう。








「すぅ…すぅ…」


ヴィラの魔除けは結構優秀らしい様で、周囲に一匹もモンスターが出てこない。


モンスターに任せるのは不可能、外に出たくてもヴィラが確実に起きるからこれも無理。


よし、なら持ってきたナイフで首をグサリと行こう。


念のためヴィラに背中を向けといて…


一殺目、行きまーす!


俺はナイフを首に振り下ろした。


「何してるんですか!?」


首を切ろうとしたら止められてしまい、ナイフも奪われてしまった。


「…っ!返せ!俺は死ぬんだ!死にたいんだよ!」


「そんな事絶対させません!」


ヴィラは取り上げたナイフを遠くに投げ捨てた。


「どうして…!どうしてそこまで死にたいんですか…?」


「…ヴィラには関係ねーよ」


そうだ。この悩みは誰にも分かる訳が無い。絶対分かってたまるもんか。


「…分かりました。何があったのかは聞きません。でも、もう私が居ますから。こんなことは絶対にしないで下さい…」


今度は俺を胸元で抱き締めて泣いていた。あぁ、何て優しいんだろう。


しかも柔らかいしちょっと良い匂いもするし、普通だったら一生もんの思い出だろう。


でもそんな事はどうでもいい。とにかく少しでも多く俺は死にたい。死なないとクソザコも良いとこなんだよ。


とは言え、今日はヴィラが目を光らせてるだろうし、死ぬのは諦めた方が良いかな。


明日、また頑張ろう…










「おはよう…随分早いね…」


「当たり前です。もう絶対に死なせませんから!」


どうやら夜通しで俺の事を監視していたらしい。


あまり良くない傾向だ。完全に警戒している。


今後はそれらしい素振りを見せたら間違いなく阻止してくるだろう。


早いとこ解散しないとマズイ。一刻も早くアユルに着かないと。


「では準備が出来たら出発しましょう。あ、ヤマさんはゆっくりで良いですよ!何時までも待ちますので!」


しかしヴィラがどことなく俺に甘くなってるのは気のせいだろうか…?










出発して少しすると、遠くに大きな街のような物が見えてきた。


「見えてきましたよ!そろそろアユルに着きます!」


遂に来たか…!大都市アユル!


俺の野望の為に、物資や人が豊富なこの都市で何が何でも死んでみせる!

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