誰よりも弱い俺は周りから見捨てられるが死ねば死ぬほど強くなる事が判明したから何としても死にたい。~でも俺の周りがあらゆる手段を使って生かそうとしてくるが頼むから死なせてくれ。

のぞみん

第1話 ハズレスキル『成長阻害』

俺は生まれつき体が弱かった。


マラソンをすれば僅か数十メートルで息が上がってしまう。


剣を持とうとしても持ち上げるのがやっと。


魔法なんて出せるわけも無い。


何故かと言うと、俺の持つスキル『成長阻害』が原因だ。


これを持ってると成長が異常に遅くなり、落ちこぼれ確定のハズレスキルと言われていた。


こんなスキルを持ってれば俺への当たりが強くなるのは当然と言える。


「え~?お兄ちゃんこんな事も出来ないの?ならせめて私の役には立ったら?」


優秀な妹、リンには馬鹿にされてパシリにされた。


「ほら!男でしょ!この程度で何へばってんのよ!」


神童とも言われた幼馴染、シュリからは特訓と言う名の暴力をされた。


こんな生活が何年も続き、次第に俺は何で生きてるんだろうと思うようになった。


お先真っ暗で妹にはパシリにされ、幼馴染からは暴力をされる。


親も当然助けてくれない。


2人にしごかれ、僅かながらに与えられた本を読み、次の日またしごかれる。


そんな日が続いた。


そして15歳になる前日。


「ヤマ、お前が成人する15歳までは面倒を見てやるが、それを過ぎたら出ていって貰う」


「そうね。こんな一族の恥は早く居なくなって欲しいし…」


遂に両親からは勘当を言い渡された。


俺は絶望した。


外に出ればリン達に悩むことは無くなるけど、間違いなく生きては居られない。


どうあがいても地獄。


「そうだ。どうせ結末が同じならいっその事…」


俺は部屋にあったナイフで首を突き刺した。










可笑しい。俺は確かに首にナイフを刺した筈だ。


なのに何故死んでない?何故生きてる?


まさかリンかシュリが知らない間に蘇生魔法でも掛けていたのか?


死ぬことすら許されない。俺はベッドに項垂れた。


…喉渇いたな。


遅かれ早かれ俺は終わりだ。なのに喉は渇く。


こんな時に水魔法が使えればそんな悩みなんて無くなるのに。


「ウォーター…何てね」


苦し紛れに呪文を唱えてみた。まあ不発に終わるんだろう。


そう思っていたら、右手が僅かに湿った感触があった。


「濡れてる…?」


そんな筈は無い。俺はハズレスキルのせいで魔法は使えないはずだ。


「ファイア…」


今度は僅かに手が温かくなった。気のせいじゃない。魔法が発動していた。


もしかしてこのスキルは『死ぬほど強くなる』と言う隠し要素があったのか?


そうなら年単位で修行しても出来なかった魔法が急に使えるようになった事も説明も付く。


だとしてもこのスキルは乱用する事は出来なさそうだ。


刺したのは夜22時、気が付いたのは朝4時。起きるまでに6時間はかかってしまう。


死んだ人が起き上がるとか、誰かに見られたら面倒だし、人目には注意しないといけないな。


でもこれが分かった所で、今更この家に戻る気は無い。


リンやシュリとも今後関わる気も全く無い。


そして15歳の誕生日の今日、遂に俺は出ていく。


元々荷物は無いに等しい。ナイフ一本を持って家を後にしようとした。


「見送りは無しか…ま、分かってたけど」


スキルが分かってから居ないも同然の扱いだったんだ。あんな親に期待するだけ無駄だろう。


「どこに行くつもり?」


声をかけてきたのはシュリだった。


「今日も特訓でしょ?まさか逃げるつもりなの?」


最後の最後までシュリはこんな調子か…


どうせ二度と会うつもりは無いし、今までの愚痴を吐いて行くのも悪くない。


「シュリの言う特訓ってのは無抵抗の人を剣で叩き付けたり、魔法でボロボロにする事なのか?」


「そ、それは…体で覚えた方が早いと思って…」


「俺はお前の都合の良いサンドバッグじゃねえんだよ!!」


「ひっ…」


俺が怯えてた幼馴染はこんなに脆かったのか…

最後にシュリに一泡吹かせた事だし、心置きなく出発できる。


「もういいや。俺は行くからな」


「ま、待ってよ!もうしないから!もっと優しく教えれるように頑張るから!」


シュリが森に行こうとする俺の腕を掴んできた。


「それにヤマが森に入ったら死んじゃうよ!モンスターだらけの森をヤマが抜けれる訳が…」


「お前にはもう関係無い」


「あっ…」


掴んでた手を振り払うと、腰が抜けたみたいにその場にへたり込んでしまった。


「行かないでよ!ヤマー!私を一人にしないでよー!ヤマー!」


後ろでシュリが騒いでるけど、もう俺には関係無い。


家族も幼馴染も産まれ育った故郷も捨てて、俺は一からやり直すって決めたんだ。


とりあえず近場の森を抜ければ、大都市があったはずだ。名前は…確かアユルだったっけ。


到着するまで何回死ぬのか想像も付かないが、死ねば強くなる以上、いつかは着くはずだ。


それに俺だって剣や魔法で強いモンスターを倒したりしたい!


優秀な人になって周りからチヤホヤされたい!


その為には強くなる事が必須だ。


このスキルで最強になって、無駄にした時間を取り戻す!

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