その後 

目の前が暗い。

うう…

僕は死んでしまったのだろうか。

やはり解放状態の負荷に体が耐え切れなかったか。


死にたくないとようやく自覚できた途端に死んでしまうとは僕らしい。

残念に思う気持ちはあれど後悔はなかった。


やるだけのことはやったと思うし、珍しく必死に生き戦ったと思う。

もう重苦しい現実に向き合わなくて良いという安堵も感じている。

最後はみんなの腕の中で死にたかったと思う気持ちもあれどそれは高望みだろう。


僕はあの世があればきっと地獄の方に落ちたはずだが、今のところ苦しみは…苦しみは

少しあるか?


腹部のあたりに重みを感じる。

確か石抱き刑という、体に石を載せられる拷問を聞いたことがあったよな。

いやでもあれは石を載せられるのは膝だったかな。

それにそんなにキツくないし。


つらつらと意味があるのかないのか分からない思考を重ねていると。


「起きたなら、ちゃんと私に挨拶するがいい。」


腹部の重みが急に増した。

「ふがっ」

僕はたまらず身をよじらせて目を開ける。

僕の腹部は妙齢の女性の椅子となっていた。

「あれっ、地獄まで会いに来てくれたのですか、暗羅様?」

目の前にいたのは我が愛しの主様であった。

わざわざ、大人の姿となって僕に座り起こしてくださったらしい。


「はあー、いつまで寝ぼけているのだ?」

呆れている。


鈍い僕でもさすがに気づく、どうやらまた僕は死に損なったらしい

「おはようございます暗羅様。どうやら何とか生き残れたみたいですね。」

「ふむ、我が眷属として不甲斐ない…と言いたい所だけど今回は誉めてつかわす。」

腹部から降り、横たわった僕の横で身をかがめ、頭を撫でてくださる。


「大体の事情は把握しているぞ。私のあげたエサを原液で直接心臓部に流し込み、限界を

超えて力を使ったのだろう、それで倒れたのはどうかと思うが他の魔の眷属に圧勝したこととは褒めてやろう。」

思わず頬が緩んでしまう。


「それと命令通りに上質な血袋の確保できたこともな」

ルーティのことかな?

「お褒めして頂き光栄です。えっとそれでルーティの方は」

まさか既に喰い殺されたんじゃないよね…


「アレは、ヒューミリエ達とマガツを泣きながらここに運んできて、私に助けを求めてきた。」

「血液を我に提供する約束をマガツとした、マガツを助けてくれるなら何でもするとな。」

「だから、その時に我への永久的な服従、継続的に血を我に貢ぐという契約を結んでおいた、無理やり奪ってやっても良かったが優雅さに欠ける上に無理矢理では1度で殺してしまう危険もあったので丁度良かった…どのみち勝った上で帰還した以上、間に合えば治療してやるつもりではあったがな…血袋らしく浅慮なことよ」

暗羅様は得意げに語ってくれた。とりあえず死んでいなかったことに胸を撫でおろす。


「それで無事に家に帰ったのですか?」


「いや、お前が目覚めるまで待つと言うので看病をさせておいた。今は階下で寝ておる。血袋の管理は今後お前がしておくように」

「ではな、此度の働き見事であった。」


言いたいことを言い終わったのか、暗羅様はスウっと消えて行った。


じゃあ1Fの事務所にルーティの様子を見に行こう。気まずいなあ





1Fに降りるとルーティがソファーですーすーと寝息を立てて寝ていた。

余裕がなかったためか、髪の手入れをしてないのかボサボサしており、目にもクマがあった。


(これ僕のせいだよな…)また気が重くなる要因が増えた。

起こすと悪いな。少し離れていようか。

「………ま、マガツさ…ん?」

やばい音を立てすぎたか。


「あ…あ…あ、マガツさん!マガっツさっん…うっっうっあああ!」

泣きながら抱き着かれる。


(参ったな…こういう時、気の利いたことが言えないのが僕なんだ。)

困ってしまいとりあえずポンポンと背中を叩く。


「!!!マガツーー!」

「ふひひ…マガツちゃん、ややっとお目覚めか」

スンスンがとことこと小走りで飛び僕とルーティの隙間にちょこんと乗る。ヒューミリエはいつの間にか近くに立っている。


「良かった。目が覚めたんだね!」

「ああ、おかげ様でね。」

もふもふが心地よい。


「皆、とっても心配してたんだよ、ルーティとスンスンはずっとマガツの傍で面倒をみてたし、ヒューミリエもドアの隙間からたまに寝ているマガツを凝視してた」

「ふへへ…」

それは少し怖いが。


「暗羅様は戻った時に治療してくれてたよ!あまりマガツを見に来てはなかったみたいだけど」


「暗羅様は人前にでることが好きじゃないし、主だから眷属の状態はわかるからわざわざ確認はしなかったんだ。目覚めた時に傍に来てくれただけで満足さ。」


「そっか!良かったねえマガツ」

スンスンも喜んでくれる。

「あの後は僕はどうなったんだ?」

「うえっふっ…ぐすっ」

「へへへ」

ルーティは泣き止まないし、ヒューミリエは言うまでもない、スンスンに聞く。


「大変だったんよ!スンスン達も異変に気付いたから工場内部へ向かってマガツをみつけたんだけど、ルーティが血まみれのマガツを抱きしめてたんだ。」

どうやらケリをつけた後、僕の肉体はやはり限界になり壊れかけていたか。

「体中から血が止まらない上に、変な黒くて固いギザギザが全身から飛び出してもいたんだ。」

「ひひひふっマガツちゃん中二感あってっかカッコよかった…」

「……」

「それで暗羅様なら治してくれるだろうって皆で相談所まで運んだんだ。暗羅様が治療をしてくれたんだけど内容は詳しくは説明してくれなかったし、血は止まっても体のギザギザはつい昨日までまだ残ってたんだよ」

どうりで僕の毛布やシーツがビリビリになっていたわけだ。

かなり皆に手間をかけさせたみたいだ。


「あ~…そのなんだ、3人ともありがとう…僕が今回、勝ったのも生きて帰れたのも君たちのおかげかもしれない」

あまりこういうことは良い慣れていないため顔を赤らめていないか心配になる。3人ともそれぞれ笑みを浮かべ、目に涙を浮かべながら黙って聞いていてくれた。


そうだ肝心なセリフを言い忘れていた。僕は僕の仲間たちに向けて改めて言う。できればこれからも言う機会があるといいな。


「ただいま…みんな」

「おかえりなさい、マガツさん」


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