22話 決着

ドンッ

至近距離で撃たれた暴威が倒れ込んでいく。僕の首を掴んでいた手にも力が抜け、異界の風景が透け始め元の世界へと戻っていく。

(ふうっ奴が核であってたか)

心中で一息つくもルーティの状態が気になりすぐに駆け寄った。

「ルーティ、大丈夫かっ?」

「まマガツさん…私たちの、勝ちです、よね?」

大分弱っていたが彼女は無事なようだった。(いや骨は折れてそうだけど)

ルーティが僕と暴威の殴り合いの最中に立ち上がったことには気づいていた。だが単純な怪物同士の殴り合いに入れるほどの攻撃能力は彼女にはなかったのだ。

しかし彼女の眼は諦めていなかった。片腕が人間へと戻った時、僕は内心絶望していたが一縷の望みにかけて彼女がわかるよう銃をしまってある部分を触りこれで伝わることを願った。(誰かを信じて託すなんて全く僕らしくもないやり方だ…)

結果は上々無事に策はなった。彼女の頭の回転の速さに敬意を抱ける、鈍い僕が逆の立場ならまず気づけない。何ならこっそり場を後にして逃げ出すことしか考えなかったかもしれない。

「ああ僕らの勝利だ」

パンパンパンと手を叩く音が聞こえた。

「!?」

倒れた暴威の傍らで戦闘中姿を消していたあの老紳士が優雅に手を叩いていた。

「そうだな…そうだったな…まだアンタがいたんだったな」

危うく気を抜きそうだった自分に舌打ちをする。ルーティも表情を引き締め直していた。

「いやいや見事なお手際。所詮チンピラ上がりの暴威君はここまでだったんでしょう。そう警戒しなくても私は戦いませんよ、荒事は下々の存在のすることです」

「…………ならどうするつもりだ?」

「別に何も?妖化の実験は成功しましたし、彼からペンダントを回収したのち消えますよ」

「っそれは私の物です!いえっそれだけじゃありません。自分だけあっさり逃げるつもりですかっ」

「どちらかといえば見逃してあげるつもりなんですが…今のあなた達」

老紳士が何を言おうとしたかは分からなかった。何故なら、

ガツッガツッバキイッグシャックチャクチャゴクン

「なっなあ!?あああああ!?」

彼の体は突如起き上がった暴威の腹の口に食べられたからだ。

「あっあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”、オッオレオレハシナネエエエエエエ、オワッテネエエエエエ」

「サイキョウサイキョウサイキョウサイキョウサイキョウサイキョウサイキョウナンダアヒャハハッハ」

巨大な目の弾丸によって空いていた穴が塞がる。それだけでなく全身が一いや二回りは巨大化していた、体から立ち上る瘴気は先ほどの何倍か分からない」

「オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”」

叫ぶと同時に衝撃波が全範囲へとまき散らされた。

「っぐ」「きゃあああああああ」

僕らはそれをモロに喰らって…


ルーティを庇うように前に立ったが衝撃波の威力に耐えられず弾き飛ばされ体が宙を舞う。

「がっあっぐっ」

重力により地面へと叩きつけられて肉体が削られるように転がる。

「ごっふ」

全身から血が流れ出しとまらない。


「GURURUOOOOOOOO!オレガサイキョウウウウウウウウ!」

暴威だったものはこちらを見てすらいない。



「HEHEHEGUUHUU!ゾラノヤロウウマイイジャネエエエカ」

「アヤカシニナルッツーノニ、ドウモチカラガタリネエエエトオモッテタンダ」

どすどす小躍りをしており、コンクリにひびが入る。元から大したことのなさそうだった知性が更に飛んでそうだ。


(はあっぐっはっはあっはっは…きつい、ゾラを喰ったことにより更に強化されたってとこか?)

状況の把握に努めるが、絶望的なことに変わりはない。

(まだアレがある…アレを使えば今の僕の限界を超えて過負荷解放できる…でも副作用で精神か肉体、あるいは両方が完全に壊れるかもしれない。…下手すれば廃人になったまま、不死になり永久にさまようことになるかもしれない)

(…もういしきが……いっそこのまま死ねた方が…)


僕は不幸な人間だと自分のことを思うし後ろ向きによく考える根暗な人間だ。だけど、だけどさ、やっぱりハッピーエンドが好きなんだ。悪党はコテンパンにされて、いい奴がちゃんと最後に笑って終わるハッピーエンドが好きだ。


この嫌な現実ではハッピーエンドなんて全然ないよ、いい奴が苦しむのはいっぱい見てきた。努力が報われなくて善意は仇で返される。悪い奴をぶっとばした正義が何もしなかった傍観者から悪党の烙印を押される


だから僕は何もしてこなかった、いい奴であろうとしなかったし、努力なんてめんどくさい、悪人は正義のためでなく金と自分の安全のために殺してきた、そんな空っぽ人間だ


だからきっと僕は善悪線分けするなら悪の側だ。不幸なのは因果応報でそこに理不尽はない。この後、クソ野郎マガツは同類の半グレにボコられ山に埋められました。めでたしめでたし、と書かれたって文句はつけられない


でも君は違う、家族のため、友達のため、正義のために動ける人間だ。僕は嫌な奴だけど君はいい奴なんだよ、僕はいい奴が不幸になるのは認めない。くだらない現実のせいで不幸で終わらせない、

僕は負けない、君は死なない、ペンダントは必ず取り戻せる、そんなハッピーエンドを僕が実現させてやる。


(約束したんだ…)


私のハッピーエンドはマガツさんも笑って終わることが絶対必要条件の一つです


嬉しかったよ。僕が幸せな方がいいって肯定してくれた君が。


「まっマガツちゃんならそう言ってくれるとおおっ思ってたよ、同志だもん」


嬉しかったよ。僕の歪んでいる部分を肯定してくれた君が。


「マガツ!マガツ!」


嬉しかったよ。暗い僕に明るく声をかけてくれる君が。


「よおし!それでこそ我が愛しの眷属じゃ!お前を拾った私の慧眼はやはり素晴らしいの」

嬉しかったんだ。僕にだけは自分から話しかけ呼んでくれる貴方が。


(会いたいなあ……せめて最後に皆を抱きしめたい)

(………生きたい!何て前向きなこと僕は考えられない。でも…でもまだ死にたくないとは思えてる…)

(仮にこれで…死ぬとしてもっ目の前のクソ野郎を勝ってから死んでやるっっ)


コートの裏の胸ポケットから暗羅様からいただいたエサ、暗羅様の血が入った注射器を取り出し自分の胸に突き刺した。


「…過負荷解放(オーバーロード)オオオオッッッ」


肉体に変化が起こった

ぐりゅりゅりゅぐちゅっびきききっびきっびき

体中から漆黒の液体が染み出てくる。

頭が、胸が、腕が、足が肥大化しドス黒く光り固い殻で覆われる。腰後ろからは金属質の羽が生え、足からは刃物状の突起が出現する。

数秒後、そこには黒い怪物が不気味に佇んでいた。


「GOOOOOOOOOAAAAAAA!GUUUUUUUUUU!ボウイイイイイイイイイイイイイイイイイコレガサイゴノイチゲキダアアアア!」


「!ナッナンダアアアテメエエエエハアアアアアアアアアアアアア!」

こちらの変化に気付いた暴威だったものが睨みつけて威嚇してくる。




「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

「GOGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

2匹の怪物が咆哮しあう。もう言葉は必要なかった。

お互いに全力で相手に駆けだす。歪な拳を握って渾身の一撃をぶつけあう。


ドッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ


「GUUUUU!あああああ?あああああ!」

数十メートルほど吹っ飛んだ赤い怪物の肉体は半分以上が消し飛んでいた。

黒い怪物には傷一つない。勝者は明らかだった。


「ひいっぐ、ひいっひいっあああああああああああ!!!!いてえええええええ!!!」

暴威が半身がなくなったまま人間へと戻る。


「あああ、たったすけて!はあ…はあ…俺の負…けだ、見逃してくれ」


「オマエハダレカヲミノガシタコトガアルノカ?」


「ああっある、もちろんっ」

「……」

「なあ…いい…だろ…」

「……」

「はあはあ俺だってやりたくてやったわけじゃない…犯罪に…手を染めたのも全部ゾラってやつのせいなんだ…俺は嫌だったのに…無理やり妖にされてこんなことに…」

「……」

「さっきのは…ごめんよ…そう…そうだ!部下がやられて…気が立ってただけなんだ、あいつらは…大切な部下だった…本当に…残念だ…改心することを誓う!…これからは人助けでもして生きて行こう!」


僕は腕に力を籠めて、

「…サイゴマデドウシヨウモネエナ」

そして、


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