21話 戦闘

ぐちゅるぐちゅるぐちゅる

「!」

ここに入ってきた時と同じように床が肉のようなピンクがせり上がってきた。

「いい加減にしろやクズ共が!!無駄に抵抗しやがって!!雑魚はさっさと死んどけよ!」

口調から相当苛立っていることが良くわかる。 どうやらこちらの様子をどこかから見ていたようだ。

「君が楽しんでねって言ったんだろ、いい運動になったよ」

「ハッ!言うじゃねえか!半死人のくせによお」

「君たちのおかげでね、それでもうアトラクションはお終いかな?」

「……そうだな、どうやら使えねえ部下どもじゃなく、この俺が直々に相手をしてやろうか」

こちらが弱るのを待ってたなコイツ、だがボスが直々に会ってくれるならこちらとしても都合がいい。

「御託はいいから案内しなよ、もう疲れて帰宅したい気分だからね」

ぎちぎとと近くの壁が蠢いて開く。隠し通路か、創った奴は相当愉快な性格をしている。

「マガツさん…」

スタンロッドを握りしめてこちらを見つめてくる。だがその目に弱気は見えない。

「ああ、いよいよ最終決戦だ。行こう」

多くは語らず僕は頷き、先へと一緒に歩き出した。




2人で無言で進む。やがて突き当りの扉を開けると屋外へと出ていた。工場の外へ出られた…わけではなく異界内に屋外に見せかけた場所があるのであろう。

その証拠に空が現実とは思えないほどに赤かった。

目線を正面へと向ける。そこには瓦礫の山の上に腰かけた厳ついスキンヘッドの男、隣には高級そうなスーツを身にまとった老紳士が立っていた。

「皆さま、ようこそいらっしゃいました。ご活躍のほど拝見させていただきましたが想像以上にお強く、このゾラ感服いたしました」

老紳士が恭しく頭を下げてくる。

「見物料代わりにペンダントを返してくれないかな」

この状況では煽ってきているようにしか思えない。大人しく言うことを聞くわけがないだろうと思ったが要求は伝えた。

(お互いここまでやった以上、平和的解決はありえないな…)

「ふっふっふっふ、そうですねえ、もし貴方たちも私の協力者に…」

「断る」「お断りします」

迷うまでもなく僕たちは告げていた。

「そうですか、それは残念で」

「ゾラ、もういいだろが機会は与えたぞ」

しびれを切らした暴威がゾラの発言を遮った。額には青筋が浮かんでいる。

「はっ!俺の役に立ったゾラが部下にしてやったらどうか、っつう提案するから念のため聞くことを許しただけだ。断るんなら容赦しねえ。もっとも提案を受け入れても片方はぶち殺すことはもう決めてたがなあ」

ふらりと不気味に立ち上がった。

「しかしですねえ、暴威君彼らほどの強さは…」

ガツン、裏拳でゾラが殴りつけられる。しかし痛みを感じていないのか微動だにしていない。

「やれやれ短気ですねえ、わかりました暴威君の好きにしなさい」

「うるせえ!お前はもう下がってろ!俺が今からこいつ等をぶち殺してやる!!」

ブチ切れながら取り出した注射器を自身の首筋へと刺す。

「こいつで俺の強さは更に上がる!!誰にも到達できない高みへとなあ!」

じゅくっずくずっううう。暴威の全身から赤黒い液体が吹き出した。全身を包むかのように液体は繭の形をつくる。

「っこれは!?」

ルーティが驚愕した声を出す。おそらく考えてることは僕と同じだろう。

(僕の異形化の際の現象に似ている…)

液状だったものは既に金属質の繭へと変貌していた。バキッっとヒビが入りそこから歪な赤い鱗が生えた手が出てくる。

バキッビシッビシシシッ手が周囲の繭を砕きやがてその全貌が露わとなった。

暴威は全身に赤く禍々しい鱗が生え、顔だったものがある場所にはぎょろりと一つ大きな目玉が腹には巨大な牙を生やした口が存在していた。

「あああ~はああああい~い気分だ。コレが完全に人間を超えたって感覚かあ」

腹の口から響くような声が聞こえてくる。

「…どちらかといえば人から外れた、だろ?いや人から外れてたのは元々だったかな」

内面に見合った醜悪な異形の姿だ、そう吐き捨ててやる。大きな目玉がこちらをギロリと睨みつけてくる。

「くっそどうでもいい理由で俺のアジトに乗り込んで迷惑をかけやがって!その言い草はなんだ!」

「ああなたはっ!よくそんなことが言えますね!あなたはどれだけ多くの人を傷つけ、奪ってきたと思ってるんですか」

身勝手な言い分にルーティは激高する。

「知らねーよ。俺よりが弱いのが悪りーんだよ、雑魚は命があっただけ感謝しとけカスが!お前らみたいな!雑魚がっ!何攻めて来てんだよ。俺の部下殺しまくって組織潰しやがって!あんな使えない雑魚共でも集めるのに苦労したんだっ!いらなくなったら!売り払って金にするつもりだったんだぞっ、なのになのになのにあんなに無茶苦茶しやがって!俺が可哀そうだろうが!さっさと男は死んで詫びろよ!女は俺が飼ってやる」

「………………………………………」

あまりの勝手な言い分にルーティが絶句している。

だが、悲しいことにああいう自分視点でしか考えられない、いつだって自分が被害者としか思えない奴はいるのだ。

「………」

僕は正直、安堵していた。こいつ相手に罪悪感を抱くことは一切なさそうだ。

暴威は既に勝った気でいるのかまだペラペラと何やら語っているが、付き合ってやる義理はない。

ルーティに目で合図を送り、僕はまだ異形化中の残った片方の黒腕を構えながら駆けだした。

あと2、3歩といった所で暴威はこちらの動きに気付き動き迎撃しようと目から赤い光線を撃ってきた。

(っ!!)

予想外の攻撃に動揺するが、それでも脚は止めずに横に体をズラして躱し一気に奴への接近に成功。相手は光線を撃ったせいで視界が狭まっている。

(この隙に機動力を奪う)

手の先を狭め暴威の大腿部に向け刃物のように突き刺す。だが、 ガキンッ

(固過ぎる!!)

僕の黒腕の爪先は赤い鱗を貫くことができずに弾かれた。ギロリ、半月のように細まり嘲笑っている形で巨大な目がこちらを見下ろしてくる。

急ぎ、その場を離れようと足を動かすが間に合わず暴威が振り下ろした拳が肩を掠めて僕は地面へと叩きつけられた。

(があっ!想像以上の速度とパワーだ。これをくらい続けることは不味い)

しかし、僕が立ち上がる前に暴威は追撃を行うために腕を振りかぶって拳の雨が降らせてきた。

「がっっ!ぐっがはっっげっが!」

倒れたまま下の地面が砕けるほどの勢いで殴られ続ける。口からは血がでてきた、逃れようと身を捩るが抜け出せない。

「やあああああああああ!!」

暴威の背後、ルーティがロッドから電撃を迸らせながら殴りつける。

「あ゛あ゛?」

暴威は全く動じず背後を見ることなく腕を横に振った。

「きゃあああああ」

それだけで彼女は何メートルもの距離を吹っ飛ばされることになった。地面へと打ち付けられてゴロゴロと転がる。アレではすぐには動けないだろう。

「ルーティ!!クソッ」

暴威が腕を振ったタイミングで拳の雨から逃れた僕は距離をとって体勢を立て直した。すぐにでも彼女に駆け寄り無事を確かめたいがコイツから目を離すことは危険すぎる。

僕を逃したことに気付いてはいるがすぐには追いかけてこない。その場でボクシングフォームをとり腹にある口を歪ませながらシュッシュッっと拳で空を切りこちらを煽ってきている。

「どうした~!俺の拳はそんなに痛かったか」

(余裕をかまして油断しているのは都合がいい…こいつが遊ばない奴だったら既にやられていた)

横目でルーティが蹲ったままだが肩が動いて息をしていることがわかり安堵する。

(僕が受けたダメージは小さくない。このまま嬲られ続けたら直に動けなくなる、短期決戦で残った力を振り絞り勝負を賭ける!)

「君のパンチは弱り切った片腕の僕を未だに殺せない程度の威力しかないようだけどね」

肩をすくめて挑発を続ける。

「中学生みたいなシャドーボクシングやってないでかかって来いよ。殺すパンチって奴を教えてやる」

内心、先ほどの痛みが限界に近く泣き出したい気分でいっぱいだったがここで弱気は見せられなかった。案の定沸点が低かった暴威が僕に向かって駆けてくる。

「言うじゃねえええええええか!!クソ雑魚君」

僕は右足を後ろに下げ、左足を前へ重心を腰の位置あたりまで下げた。暴威がもう間近へと迫り、奴も拳を振りかぶっている。

左脚を前へと勢いよく踏み込み、体を回転させるように右拳を撃ちこむ!!

ドゴンッ

鈍い音を響かせ僕の右拳と暴威の右拳がぶつかる!!!拳の間で衝撃波が発生、互いに一歩下がることとなる。

「おっおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

互いに拳を振りかぶり相手の肉体へと、乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打

肉を打たれ、骨を砕かれ、臓腑が潰れ、血を吐いても止まらない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

衝撃は拳からだけでなく踏みしめた脚からも発生し地面が砕け破片が飛びかっていた。


「はあっはあっ…がはっ…げえっ…俺の勝ちだな、はあっはあ」

やがて永遠へと続くかと思われた殴り合いは終わりを迎えた、過負荷解放の時間が切れ通常の人間の腕へと戻った僕が暴威に首を掴まれ持ち上げられるという形で…。

「片腕の、はっはっ、はっクセ、はっに手こずらせやがって、はは、悔しいかああ~~」

暴威は勝利を確信して醜悪な笑みを浮かべていた。

「はっ、はあっはあっはっ…は別に、はあっ、片腕は承知で挑んだんだ文句は言うつもりはないよ」

「はっはあそりゃあ殊勝なことで、またビームの溜めが終わったぜ。せっかくだからコレで終わらせてやる」

巨大な目の中心にもやのような瘴気が集まってくる。僕は何も言わず目を瞑りその時を待った。





暴威は勝利を確信しながらも目の前の獲物が怯えを見せないことに不満を感じていた。

(っち最後までつまんねえ奴だ。最後くらいみっともなく命乞いでもしてみろよ、もっと嬲ってやろうか」

そう考えながらも自信に言うほどダメージを負い過ぎて余裕がないことは自覚していた。手早く終わらせようと光線を放とうと…

「さあ死っ」

「マガツさんっ」

ビカアッ、周囲が光で満ちて目の前にが真っ白になる。混乱するがあの女の電光だろうと即座に理解しまだ敵の男の首を掴んだまま離さないことに集中。

(馬鹿な奴らだ、俺が焦って取り逃がすとでも思ったか?浅知恵なんだよ)

視界が段々と戻ってくる。攻撃の続きを行おうと男の姿を見定めると、目の前に見えたのは銃口だった。



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