17話 落とし穴

「がっ…う」

僕は都合何人目になるか分からない妖化した巣美巣暴威の構成員の喉からナイフを引き抜き、後方を向いた。


そこではちょうどルーティがスタンロッドを振り下ろし別の構成員を膝から崩れ落ちさせていた。

「動きは前から見させてもらっていたから強い方だとは思っていたけど、更に強くなってるね。」

と感想を述べる。お世辞ではなく本心だった、学習能力が高いのか明らかに数週間前よりも動きにキレがある。天才の類だろう、何ともうらやましい話だ。

「そんな、マガツさんの動きとは比べ物になりません」

謙遜しながらも嬉しそうに言う。

「はは、そりゃ僕は半分人間辞めてるからね、身体能力が同じだったら、とてもルーティにかなわないよ」

「もうっ、また自分を卑下するようなことを言わないでください」

怒らせてしまった。

「ううん…ごめん」

僕はその性格は変わらないと思うし、事実を言ったまでなんだけどなあ。


「それはともかく、奥に進むにつれて敵と遭遇する回数が増えてきたね、どこででも待ち構えている気がする。」

「………彼らのボスは仲間のことを何だと持っているのでしょうか」

ルーティはもう既に相手が自分の組織の構成員をあんな風に変異させ使っていることに気づいているようだ。

純粋なルーティは正気と元の肉体を失わされて戦闘に用いている外道な戦略が許せないためか怒りと憐憫を感じる。

「敵に改心は期待しないほうがいい。あまり深く考えず目の前の危険に対処することだけを考えて相手にしていこう。それに奥に進むにつれて敵の強さが上がってきている、これから先はもっと強い相手が出てきてもおかしくないはずだ」

瘴気の濃度も濃くなり続けている。とっくに元の工場の直径の倍は歩いたと思うが終わりが見えてこなかった。



「これまでは僕が探知し敵を見つけたら、すぐにこちらから攻撃をしかけ相手にまともな反撃もさせず、戦闘態勢に入る前に仕留めてきた。だけど敵も馬鹿じゃない。もうそろそろこちらのやり方に対応してくるはずだ。今までのような不意打ちは難しくなる」

「強さだけでなく知能も最初の方達よりも上がってますからね…」

「新型の魔薬の効果も気になる。まさかあんな正気を失わせ妖化させるだけなら前の魔薬の方がマシだったろう。きっとまだ何かあるはずだ」

ヒューミリエが調べた情報では新型の魔薬は従来の魔薬より強化値が上がっていること以外の詳細は分からなかった。



「まあ僕もまだ過負荷解放は使ってない。相手が強くなってもそれ以上に強くなれれば問題ないさ」

ポンと自分の胸をたたく。


「ふふ、頼りにしています!」

良い笑顔だ。その信頼を裏切らないようにしないとね。



暗く瓦礫のちらばった道を進んでいくと五感が気配を捉える。

間取りで確認していたこの先の大部屋に

ドアの向こうに銃を構えた構成員達(これは10人はいるか?)がいるみたいだ。

やはり気づかれていたか。


無言でルーティに視線をおくり、銃とドアを指さし注意を促す。


「僕がドアを開ける、ルーティは僕のことは気にせずにスタンロッドの範囲攻撃を」

小声で支持を出し、ルーティが頷くのを確認。

(さっそくだけど注射を使わない範囲での解放はしておいた方がいいな)

意識を集中し、

(過負荷解放5%!!全身強化)

肉体に力が満ちてくる。

僕は静かにドアの前に行き、端と端を掴むと、

グカッ

ドア掴んで押し出し、盾のようにしたまま部屋の中に突進した。


「いきます!」

ルーティが勢いよく地面にスタンロッドを当てる。

スタンロッドの先から前面に向かって電撃が構成員へ走る。


僕はドアを斜めに構えると、地面に倒れる前に速度を上げドアを駆けそのまま空中へ退避。

天井の電球を掴みそのまま止まる。


「なにっ!」

「ああ!」


この部屋の構成員達はやはりまだらや紫の肌で魔薬によって妖化していたが、知能は人間のままらしく銃をしっかりと構え、言語能力も維持していた。

だが構成員達は知性があっても突然の事態に反応できていない。


バチッバチバチチチチチチ、ルーティがスタンロッドから放電を行う。


「がああああああああああ」

「ひぎゃあああ」

「ぐうううう」


人が焦げる匂いがしてきた。僕には旨そうな匂いに感じられ逆に気分が悪くなりつつも様子を伺う。

バンッ

一人が電撃で焼かれながら銃を撃ってきた。

「ぐっ!」

やはり魔薬による強化レベルが先ほどより高く肉体が頑丈だ!ダメージは受けたが、まだ動けるようだ。

肩に当たり痛みが走るが問題ない。まだ動けるっ


地面に降りるとそのまま前傾姿勢でダッシュ構成員達の懐に飛び込む。

これで同士討ちを恐れ容易には撃てなくなるはずだ。先ほどの電撃のおかげで動きも鈍かった。


「撃てーー!撃て」

「やれっ!やれっーーーーーーーーーー!」


「遅いよ」

パンッ  パンッ

頭と胸を撃ち2人を仕留める。


「せいッ!やッ」


ルーティも部屋に入り構成員達へ向けてスタンロッドを振り回す。


電撃がロッド全体から迸っている。近づけば痺れさせられる上に、電撃のフラッシュが点滅しているせいで構成員達はろくに狙いも定まらない。先ほど喰らった電撃の恐怖も蘇っているのだろう。


ルーティを気にしつつも僕は残りの連中を。


ヒュッ

僕の頭があった位置をナイフがかすめる。

一人動きのいい奴がいるな。


「ふー、ふー、ふー」

鼻息荒く僕に近づいてくる。周りの構成員達は僕を牽制するように射撃を行ってくる。

「があああ!ぐってて」

何度も切りつけられる。まだ動きに問題ない…はず

僕もナイフに持ち替え応戦。


キインッ

互いのナイフを打ち付けあう。

ガッキ、キッ、キッ、キッ

ケリがつかない

(くそっやりづらい)


「だらあっ!」

ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッ

奴らの射線上に立たないようにナイフ使いの陰に隠れる形で躱す躱す躱す躱す躱す躱す


ここだっ

ザクッ

ナイフを腕で受けてやり、僕の体に突き刺したままの状態で肘を絡めて相手の手から奪う。

そのままこちらのナイフで相手の心臓に突き立てた。


相手が倒れるのを確認すると。


バチチチチチチチチチチチチチチチチ


こちらを撃ってきていた構成員達はルーティにより全滅させられていた。


「はっはっはっはっふ」

「やああっふっふっふ」

僕達は息を切らしていた。


「っなんとか、倒せましたね」

「ああ、援護助かっ」





ぐちゃっ

ルーティの下の床が突如左右に開いた。

「えっ!?なっ」

「!!!手を!」

落ちる前に止めようと手を伸ばすが、バチンッ その手を壁から伸びてきた肉の触手にはたかれた。

「マガツさんっ!!」   そのまま落ちていく。

すかさず僕も穴に飛び込もうとするが ぐちゃっ   床が閉じられる。


「ルーーーーーーーティイイイイッ」




飛びついたが固く閉じられた床は開かない。

(クソっ!やられた、分断された)

自身の油断に腸が煮えくり返っていた。だが今は後悔している暇はない。

「ルーティも無力なわけじゃない…すぐにやられるってことはないはず。それまでに見つけて合流できればっ」

意味もなくフロアをグルグルと回りブツブツ独り言をしながら思考を続ける。

(下に落ちたってことはこの異界は奥に進むだけの平面な世界でなく下が存在する立体的な世界ってころだ)

奥に進めば核にたどり着けるというわけでなく、正解ルートは下なのかもしれない。

(だが、どうする床は閉じられた…この先、あるかどうかもわからない下へと続く階段や穴を探しても、それまでルーティが持つかどうか)

………………………ある………………………………下へと行く強引な方法は………………………………だが……………………今切り札を…………………

ゴンっと自身の頭を殴りつけた。

(僕は馬鹿か、彼女を守るって決めただろーが!自分の安全を考えてどうする!ここで引くのは慎重でなく臆病だ)

いつものように後ずさる自身の精神を叱咤する。注射器を取り出して右腕へと突き刺した。


(過負荷解放(オーバーロード)30%!!両腕強化ああ!!)

じゅくっずくずっううう

両腕からは漆黒の液体が染み出し肩から腕にかけて肥大化し固い殻に覆われていく。

そこには肩からは黒い棘が飛び出し、手からは黒く巨大な爪が生え異形と化した僕の両腕があった。

手を貫手のように尖らせ体の中央に両手とも寄せ、その位置のまま床へと突き刺した。

ドガアアアア   

左右へとこじ開けるように力を込めて手を広げていく。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアああっ!!」

ぎちぎちぎしいっ

徐々にだが床が強引に開かされていく。更に力を加えて

「開きっ!やがれえええええええええ」

ぐちゃっ

床に穴を異形と化した腕で強引に作る。体のサイズまで開いたことを確認し、

「!!おおおっ」

素早く穴へと身を滑り込ませ飛び込んだ。

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