16話 集団戦
先は見通せない程遠く、外から見た時からは考えれないほどの広さを感じる。この分ではアジトの内部は建物そのものが変質していると考えた方がいいだろう。
(あらかじめ調べておいた工場の見取り図のことはいったん置いといた方がいいな)
歩くたびに足底からはにちゃにちゃと嫌な音がする。コンクリート等の感触ではない。
靴が引っ付く程の粘着性はなかったことに感謝すべきか。
平面であったはずの床はせり上がったり沈んだり所々に歪んでいる様子が見て取れる。
「……何だか、前の異界よりも気持ち悪さを感じます。」
「この異界を創った奴の精神が歪んでいるからかもね」
今までの経験上、歪な能力や異界ほど所有者の人格が破綻していることが多かった。
(そう考えると僕の能力はどういった精神の現れなのだろうね…)
つい余計なことまで考えてしまった。
「早くペンダントを取り返してこんな所、出ていきましょうね!」
「まったく、同感だよ」
どのみち長居したい場所ではない。家主とは確実に仲良くできないしね。
「ヴヴヴヴヴヴヴぁ」
「ヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁ」
唸り声のような声が横のドアから聞こえてくる。
さっそくアトラクションを体験させてもらえるみたいだ。ワクワクが止まらない。
「マガツさん、これはっ」
がちゃぎいいいいいっとゆっくり音を立てながら現れたのは肌が紫やまだら色に変わり口から涎を垂れ流し、体の至る所から棘のようなものを生やした男2人だった。
「あのデパートの時にも出た死体型の妖でしょうかっ」
ルーティは既に懐から取り出したスタンロッドを伸ばして戦闘態勢に入っていた。
「……………………ああそうだね」
彼女の手前名言は避けたが、恐らく魔薬を使用し続けた結果肉体が永久的に妖化し更に正気を失った巣美巣暴威の構成員だろうと予測していた。
どのみちこうなったら元には戻れない、知性無き怪物と相違はなかった。
僕も銃とナイフを取り出して戦闘態勢へと入る。
「僕が前へ出る。ルーティはサポート…」
「いえっこの狭い廊下では私がロッドで攻撃、マガツさんが銃でサポートした方が効率がいいです」
「……うーん」
一応、理のある提案だ。しかし彼女が前に出るってのは…。
「お願いしますっ!私もここに来た以上は一緒に戦いたいんですっ」
びたっびたっ
と妖化した構成員2人が近づいてくる気配がする。
(口論している暇はない、か)
「わかったルーティ。君が前で攻撃して、ただし危なくなったらすぐ下がって!」
「があっ」
返事を聞く前に突如構成員達が駆け出して襲い掛かってきた。
まず、片方を銃で撃ち牽制、脚を撃ち抜き相手を転ばす。
もう片方はルーティへと襲い掛かるが、僕は構成員の腕を撃ちそれを阻止。彼女は振りかぶったロッドを横なぎにして襲撃者をものともせず壁へと叩きつけていた。
「あああ、があああ…」
「うううううう……ううううう」
構成員達は体勢を立て直そうともがく、そうはさせまいと止めを刺そうと銃とロッドを構えたが振り下ろしたロッドと放たれた銃弾はせり上がってきた肉の床によって防がれた。
こちらの足元からも肉の床がせり上がり、強制的に距離をとらされる。
こちらが肉の床への対処に手こずっている間に構成員達はよろよろと立ち上がる。
「ヴヴヴヴヴ」
気のせいか唸り声に先ほどよりも怒りを感じる。先ほどは何も持っていなかったが思い出したかのようにポケットから銃を取り出して
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
歪な笑みを浮かべこちらに自慢するかのように腕を持ちあげて手の中の銃を見せつけてくる。
もう一人の構成員もそれを見て真似するかのように銃を取り出してこちらに向けて銃を構えた。
「ルーティ!せり上がった肉の床を遮蔽物に」
言い終わる前に彼女は既に動いていた。
構成員はグッっと力を入れて引き金を引こうとする。
グッグッグッグッグッ
が、一向に銃弾は飛んで来ない。涎を垂らしながら不思議そうな顔で銃を見つめ相方の構成員と目を合わせる。
その隙を逃すような僕達ではなく、電撃と銃弾により2人の構成員達は床に這いつくばることとなっていた。
[ナイスアタック」
「連携上手くいきましたね!!」
戦闘後にルーティが嬉しそうに手を上げてきたのでそれに合わせてハイタッチを交わす。
「でもこの2人どうして撃たなかったんでしょうか?」
疑問の声が上がる。僕は呆れたように息を吐き、
「薬のやり過ぎで銃の安全装置を外すのを忘れていたんだよ…」
と何ともしまらない種明かしをした。
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