13話  連携

「今、巣美巣暴威は警戒を強めている」

敵のアジトの周辺地域に着く前に作戦を確認する。

「ヒューミリエさんがおっしゃっていたように見回りが増えているんですね」

真剣な表情でルーティが頷く。


「ああ、工場周辺を回っている。2人体制で動いているんだ」


「そこでヒューミリエとスンスンは全体を俯瞰できる位置をキープ、状況を常に確認し伝えてもらい、ヒューミリエには狙撃で2人組のうち一人仕留めてもらう」

「ヒューミリエさんは狙撃もできるんですね」

ルーティは驚いた様子だ。

「多芸な奴なんだ」

あいつはネットの情報収集はもちろん、狙撃も優秀だ。

人格以外は有能の塊である。認めたくないが僕より総合力は上だ。


「狙撃が終わったらもう一人が気づく前に僕がそいつをナイフで仕留める、ルーティは敵に気づかれない位置で待機、不測の事態が起きた時に僕のサポートに入って欲しい」

無論そんなことが起こらないようにするつもりだ。

「はい」

真剣に頷くルーティ。

「これを何度も繰り返して見回り組がいなくなるまで続ける」

「ある程度、削った所で工場内に入れるのでは?」


「それも間違ってはいない、だけど突入してから見回り組が後ろから来て挟み撃ちになったり、あるいは帰り道で不意打ちをされるリスクを減らしたい、逃げられる可能性もあるしね。」


「なるほど、わかりました。」

感心したようにルーティが僕を見つめる。


「あくまで今回はってのと、僕が心配性だからってのもあるから、他の専門家だったらもっと穏当に済ませる奴もいると思うけどね」


「じゃあ今回そのやり方をするのはひょっとして、生き残った人がいた場合、後から私一人の時に復讐で襲われるリスクも考えてのことだったりします?」

頭の周りが早い子はそれはそれでやりづらい。

半分は当たり、ルーティのためであるし、引いては僕が後から街中で襲われるのが嫌だという理由である。

「……想像にお任せします。」

適当にごまかしておく。


「じゃあ行動開始だ」

ーーーーーーーーーーー


物陰に隠れながら進む。既に3組は仕留めていた。

敵は見回りを行ってはいるが周囲に大して注意していない。

言われてからやっているといった風だ。

(強化用の魔薬を使われてた場合はやっかいなことになりそうだが…)

暴威の構成員達は皆、魔薬を所持しているが使用前にケリをつければ持っている意味はなかった。

「そこの曲がり角から構成員2人がっここちらに歩いてきている。普通に会話しているからまだ異常にはっき気づいてないよ」

ヒューミリエからの連絡がスンスンを通して伝えられる。

「了解、今までと同じように攻撃する」

ルーティは来た道を少し戻った所にある空き家の中に隠れるように指を指して伝えた。

(僕は……そこの塀に潜むか)

すぐ横の塀を乗り越える。塀に張り付いて道側からの気配に集中する。


「ああ、暴威さんにはおいしい思いさせてもらっているからなオレも文句はねーよ、ただ一々見回りするのがめんどくせー」

声が聞こえてきた。何も警戒している様子はない。

息を潜め自分の気配を消しタイミングを計る。


「プロ、プロね、まあ俺たち巣美巣暴威の敵じゃないと思うがな」


「っと定時連絡の時間だぞ、他の見回り組に連絡しろ」

声が塀の裏側で通り過ぎていく。

「あれっ繋がらねーぞ?」


(!!さすがに違和感を覚えるか?、急いだ方がいいな」

見回り組の足音がもう少し進んだことを確認。

(ヒューミリエ、スンスン、行く)

言葉少なに攻撃の意思を伝える。

返事は待たず、音を出せないように再び塀を乗り越えて道へと戻る。


「はあ!許せねーな!見つけ出して殴ってやろうか」


前を向いてそのまま進んでおり背後の僕に気づいた様子はなかった。

そのまま足音を立てないように駆け流れるようにナイフを取り出す。


パスっ

どさ


(ヒューミリエが片方を仕留めた)

構成員は倒れた相方の方に意識が向いている、

僕は勢いを殺さず駆けてーーーー





(よし、無事に仕留めたぞ)

僕は相手の呼吸が止まったのを確認し、ナイフの血を振り払う。

「もう出てきていいよ」

建物の影に潜んでいたルーティに声をかけた。

「すごいですね。マガツさんとヒューミリエさんの息がぴったりあってるように見えます。」

何故か複雑そうな表情で僕達を褒める。

「ああ、何度もやったことのあった攻撃スタイルだからね」

すごいのは僕でなくヒューミリエの方だ。

離れた建物の屋上(場所は僕も知らない)から狙撃しているのだが

ヒューミリエが撃ってから僕が動いているのでなく、僕が動き出してからヒューミリエが狙撃で仕留めている。

僕は特に考えず攻めれているのはあいつのおかげだ。

動き出すのに不安を感じないのは、これが信頼ってやつなのだろうか。


(いや単純にあいつの能力を知ってるからそれを計算して判断しているだけのはずだ。あいつを信じているのでなく数字を信じているのだ。)

(僕に誰かを信じるという機能はない)


スンスンから連絡が入った。これでアジト周辺を見回っている連中は全て片付いたらしい。

「これで見回り組は片付いた、いよいよ工場へ乗り込んでいくぞ」

ルーティというより自分に言い聞かせて気合を入れなおす。

ここまで順調だ。

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