10話 暴威サイド

廃墟と化したはずの工場で音がする。


元工場の内部には悪趣味な髑髏が書かれていたり、血の付いた武具が所どころに放置されていた。


巣美巣暴威ナワバリだ。




一室でスキンヘッドの男(暴威・カラシロ)が下っ端らしき男に怒鳴っている。


「ああ!たかが二人に全滅させられたって!」


どがっ目の前の馬鹿を殴りつけてやる。


「ぼ暴威さんっでもそうとしか考えられないんですよ、内藤の奴がナワバリから巣美巣を探ってるやつがいるって連絡が入って、内藤含めて行った2日前から10人全員が帰って来ないんです!」


殴られた痛みを感じないほど動転しているのか泡を飛ばしながら俺に喚き散らしてくる。




「死体は見つかってないんだろ、どっかで飲んだくれてんだろ」


「でも内藤が暴威さんに連絡なくいなくなるとは思えませんし付近の住民は発砲音を聞いたとも言ってるんです。」




「クソッあいつらに渡してた武具も魔薬も安くないんだぞっ!」


椅子を壁にたたきつける。




「ようやく組織も多くなって来て妖との繫がりも得られたってのに一度に十人も傷られやがって!馬鹿どもがっ」


イライラが収まらない。


「一山いくらの兵隊でもまた集めんのも面倒なんだぞっ」




下っ端(品川)に指示を与える。


「その探りを入れてきた2人組の正体を洗えっ!俺たちは舐められたらしまいだ!落とし前はつけさせてやる。」


慌てて内藤は駆け出していった。更に下の連中を動かすだろう。


それくらい俺が言う前にどうして動けないんだ。


全く使えない連中ばかりだ。


ゾラから更に新しく力をもらったらあいつ等は人身売買業者にでも渡して使える連中を雇おうか。


一人イライラしながら部屋を意味もなく歩き回る。




コツコツコツ、


「ずいぶん、怒っているみたいだね、唐城正男君、あいや今は暴威・カラシロくんだったかな」


「……ゾラか何しに来やがった。」


ドアが開いた気配もなくいつの間にか入ってきた者がいた。


近づきがたい雰囲気を醸し出した老年の男性が近づいてくる。


「貴方の顔が見たくて、…冗談ですよそんな顔はしないでください。」


殴りつけてやろうか。


「何やら困っているという噂を耳に挟んだものでね、貴方はいい働きをしてもらいましたし、これからも良い関係を築いていきたいと思っているのですよ」


ゾラは先日依頼で手に入れてやったペンダントを首から見せびらかしてくる。




「お前とはビジネスの関係だ、仲良くおしゃべりするつもりはねーぞ」




「ええビジネス、ビジネスですとも、だから魔薬も武具も仕入れてあなた方に特別価格で提供しているのですよ」




「貴方が妖の力を手に入れられたのは私のおかげでしょう?」


「要件をさっさと言え」


回りくどい奴だ。本気でこの場で殺してやろうか悩む。


「件の2人組ですが、あまり舐めない方が良い。正体はまだ掴めていないのですが、現場らしき場所を検証したところ強力な妖の気配を一つ感じました。」


「だったらどうした!あんな雑魚集団俺でも蹴散らせるわ!」


「ははぁ、確かに貴方は強い、私のおかげでね。彼らはどうやってやられたと思います?」


「俺が知るわけねーだろっ」




「住民の証言では発砲音や破壊音が数回、そして暴威が派遣したメンバーが十人、音がなくなるまで数分のことだったみたいですよ。現場にはコンクリでできた地面が砕かれていました。」


「で?」


「さらに現場を調べた所、暴威側には魔薬による覚醒者も発生していたようです。」




「だからどうしてたってんだ」




「人間を超えた覚醒者をも上回る戦闘力の持ち主がいた、ということです。つまり相手は最低でも一人は強力な妖か能力者。暴威君でも手こずるのでは?」


「………俺が!負けるっていいてえのか?あ?」


青筋が額に浮かび、我慢の限界を超えようとしていた。




「ですがご安心をなんとここに新製品がっ」


「ああ?」


「今までの魔薬は一時的に妖の力を得て肉体が変化し身体能力が強化されるだけのものでした。覚醒して妖化が進むのも運の要素が大きかったです。


しかし!この新魔薬は確実に!永久的に妖の力を得られるようになったのです!」


ゾラが懐から何やらシリンダーを取り出し見せびらかしてくる。


中には濁った色の液体が生き物のように波打ち蠢いていた。




「はっ!気持ち悪りいが、効果はいいじゃねえか」


「もっともリスクはあります。適合しなければ貴方は死にます。それでもやります?」


ニヤリと獰猛に笑う。


「当たり前だろが!俺はもっと上へ行く男だ、こんなところで死ぬ訳がねえ。さっさとそいつをよこせ。すぐに飲んでやる」




「さすがは暴威さん!、私が見込んだけはある!貴方と組めて幸せですよ、私は」


(いやほんと頭は残念な上、扱いやすいあなたで良かった)






暴威たちもまた新たな局面を迎えようとしていた。

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