5話 始動
「ではさっそく捜査を始めるので当相談所の方でこの件は進めてさせていただきます。状況に変化があればご連絡をさせていただきます」
ルーティが落ち着いてきた様子を見計らい声をかける。
「待って下さい!」
食い気味に来られたので思わずのけずってしまった。
何か対応間違えたか。
「どうされましか?他にご質問、ご要望あればお伺いいたします」
できればない方がありがたいが。
「捜査に私も同行させてくださいっ!」
「うーん、一緒にですか?しかし、この依頼は犯罪が絡んでいますし荒事になる可能性が高いです。捜査内容に関しては進捗があれば都度連絡させていただくつもりですが…」
「…奪われた物は私のペンダントです。このまま一人自宅で結果だけを待ちたくありません。それに既に友達を巻き込んでしまいました。このまま何もできないのは嫌なんです。」
参ったな…僕の能力、というより人格は誰かと協力したり、守ったりすることに不向きなのだ。依頼人に途中で死なれては相談所の評判や報酬にも関わってくる。
話を聞いた限りただのチンピラであっても魔薬を持っているのであれば危険度は高い。
個人的には善人に思える目の前の少女に死なれては後味が悪いというのもある。
「うーん…」
どう説得するか考えていると、
「良い、同行を許可する」
「!」
「!」
突然の声に驚き声の主を探すといつの間にか暗羅様が部屋の椅子に座っていた。
「えっどこの子ですか?」
「………」
無視。暗羅様は基本的に下等生物(人間)とは会話しない。
自分の配下であればその時の気分で会話するが。
もちろん下等生物(配下)の返答は決まっていた。
「はい、了解しました暗羅様。」
「えっえっ!いいんですか?」
暗羅様は既に姿が消えていた。
僕が返答する前から透け始めていたのでちゃんと聞いていたかは怪しい…。
まあ聞くまでもなかったのだろう。
しかし、暗羅様が善意で人の頼みをわざわざ聞くことはないので後で真意を上手く聞く必要があるな。
依頼中に知らない内に暗羅様の機嫌を損ねる動きをしてしまってはまずい。
「あの方について詳しく聞くことは貴方のためにもならないので聞かないでください…」
「はっはい」
頭に疑問符だらけになっているはずだが、しつこく聞いて同行できるようになった所を翻されては困ると思ったのかそれ以上は聞いてこなかった。
一安心。
「とはいえ捜査に同行と言いましても、まずは上階にいる当相談所の情報収集担当に必要な情報を集めさせるため、動きがないので今日の所はお帰りください。私が直接、動く時には事前にご連絡させていただきます。」
~~~~
一人になりポットからコーヒーを注ぎ、飲む。
改めてルーティの話を思い返す。
(ペンダントが狙いだったことは間違いないだろう。恐らくリーヤタウンのケーキ屋に行った帰り道で襲われたのは偶然でなく、以前からルーティ周辺を探り襲いやすい環境が来るのを待っていたのだろう。となると敵はある程度、組織だって動いている。あるいは僕が今依頼を受けたように依頼された傭兵チンピラレベルみたいだがに類する職業を雇っているのかもしれないな)
気が重くなってきた。
そろそろ3階にいる相談所の情報・後方支援担当のあいつの所に行くとするか。
~~~~
僕は人とのコミュニケーションが得意でない。いや今のは卑怯な言い方だったかもしれない。
コミュニケーション能力が乏しく、他人と数分話しただけで非常に疲れる。
この仕事を始めて依頼人やフィクサーとの交渉を行うようになり少しは慣れたが、定型の会話の流れにないことが入るとアドリブが効かず焦ってしまう。
チンピラ数人を相手取った方がまだ気楽だと言えるくらい(何せその場合、無言でナイフや銃を振り回すだけで済むし、戦闘が終われば大体相手は話す状態ではなくなっている。色んな意味で)
老若男女問わず人間が苦手だったし、それは今の依頼人のように善人で正義感で美人であっても変わらない。悪人じゃないから乱暴に扱えない分、余計に疲れるかもしれない。
要は歪んでいるのだ。あるいは欠落しているのかも。
別に悲しい過去があったからとか、暗羅様と会って人間を半分辞めたからとかでなく昔からである。
何を言いたいかというとそんな僕がさっきのように会話が必要となる業務も担当している。
その理由は僕がこの相談所で一番コミュニケーション能力が高い人間だからである。
もう一度言う、僕はこの相談所で一番コミュニケーション能力が高い。
これは別に数秒前と矛盾することを言っている訳でない。
他のメンバーがそれほど壊滅的絶望的なのである。
表に出てはいけない人格のオンパレードだ。
ここの相談所で過ごしていると自分がまともで良識に富む優しい人間だと勘違いしてしまいそうで気持ちが悪くなる。
この相談所には暗羅様、僕、僕を超える陰険根暗女、畜生の4人(4妖?)体制である。
協力者は他に何人かいるが基本事務所にいるのはこのメンバーだ。
これからそんな我が愛するメンバーの一人である情報担当のヒューミリエに会いに行こう。
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