プロローグ2

腕をクモの頭から引き抜き、離れる。




肉体は過負荷状態から戻ってきたが、痛みと精神への負荷を感じる。


(何とか解放が15%程度で済んでよかった)


戦闘の高揚が引いてくるとクモの汁が体についた自分の姿をみてげんなりする。


(早く帰って風呂に入りたいけどあいつらとフィクサーに報告しないとね)




クモのテリトリーから出ることにする。




出ようとした所で僕より陰気な異常者にでくわし更にげんなりとした。






挿絵(By みてみん)


「ひひひふへえひゃ……きょっ今日もだっ大活躍だねえ、マガツちゃん」


手入れしているのか怪しい波だった長い白髪、猫背に濃いクマ、街中であったら間違いなく目を合わせない、


気味悪く笑って話しかけてきたのは同僚のヒューミリエだ。




「ああ、何故か君の援護が途中から消えたしね。」


軽く嫌味を言ってやる。手柄より安全をくれ。


「ひっ…っちちがうよおお……わ私もクモに襲われたんだ、マガツちゃんのやつよりちいさかったけど」




「ホントだよ!私たちも襲われてたんだ!クモの結界のせいで途中から連絡もとれなかったんだ」


ヒューミリエの服にいたらしい。


小動物型の妖のスンスンもフォローしてきた。




マジか…。


「…あーあ~、それは今のは僕が悪かったヒューミリエ…許してくれ」


さすがに悪く思ったので頭を下げる。 言い訳くさくなるが過負荷後の僕は気が立って短気なんだ。




「ひへっへへ…いいよお…マガツちゃんと私のなっ仲だもんね」


どんな仲なんだろう?




「そっそれにクモと戦った後、っくクモに捉えられてチューチューされ済みの被害者、見つけたんだよっ…っしゃ写真もいっぱいとったから後で皆で鑑賞しようね。」


「………」


「………」


さっきのこともあるので僕は何も言わなかったし、僕らの仲で一番の人格者で善人(妖だけど)のスンスンも曖昧に誤魔化していた。


これが僕のどこに出しても恥ずかしくない素晴らしいチームだ。






山中から出た後はフィクサーの田中(確実に偽名だ)へと連絡をとる。


「ああ依頼終わったんだね、マガツに依頼して良かったよ」


電話越しに男の声がする。


「ええ終わりましたよ、田中さん」


根暗な僕は強気なことを言うのもキツイ言い方をするのも苦手なのだが、報酬の件もあるので精一杯怒ってますよ感をだしてみる。


「それが会ったクモ何ですがね、聞いてた話では脅威度E~D程度のはずだったのにあの能力の高さはC以上ありましたよ、ええ何度も死にかけました。嘘だと思うなら死体を確認してください」


一気に言い切る。


「これは報酬は倍………うんいや1.5倍はもらってもおかしくないのでは」


「いいよーじゃあそれで!現場の処理はこっちの業者でやるからこれで終わりでいいよ」


(えっあっさりすぎない)


「わかりました。」


電話を切る。


切ってから思ったが、これ最初から分かってて下のランク報酬を提示したので?そんでさっきの1.5倍でも適正価格より下だったからさっさとOKしたとか?


僕の性格が歪んでるからそう思うだけか?


腑に落ちないものがありながらも帰路についた。






ーーーーーーー




自宅兼仕事場の四凶相談所へついた頃には朝になっていた。


(そろそろ寝るか)


あくびを噛み殺し自分の部屋へ向かおうとすると




挿絵(By みてみん)


「遅かったな、さっさと我の朝食を作ることを許す。」


我が主、暗羅様がおかえりの抱擁と慈愛のセリフで迎えてくれた。感無量だ。


今の暗羅様の姿は僕よりも年下、というより子供の姿をしていたが、「お前たち人間がウホウホ言っていたころには存在していた」というセリフを否定できない程度には長生きされていらっしゃった。人間の食事は本来必要ないが、趣味で食べるのだ。


ちなみにその時々で大人の姿にもなったり、完全に別人にもなったりするので本当の姿を僕はしらない。




慈愛のセリフに僕ももちろん、温かいハグと朗らかなただいまで返そう。




「もちろん、ただいまより朝食のご準備をさせていただきます。」


僕は簡単な食事しかつくれないが僕なりに頑張って料理する。


朝食の準備が済むと暗羅様の元へ運ぶ。


「我の口へと運ぶことを許す」




食事が終わると暗羅様は


「此度の依頼はよくやった。褒めて遣わそう」


抱きしめながら頭を撫でてくれた、それだけで浮かれてしまう自分のちょろさを呪う。


「エサもやろう」


赤い液体の入ったシリンダーを僕にくれた。






これが僕の日常だ。僕は英雄でないし魔王でもない極めてありふれたなフツーな奴でしかない。…まあ少し人より捻くれてるけど。


特別な力があってもそれは暗羅様に与えられただけのものであって僕自身が特別な人間ってわけじゃない。


だから僕に物語があるとするなら、きっとそれはフツーの奴がフツーに毎日を生き抜くだけの日常話だろう。

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