プロローグ

AM01:04

まだまだ暗く人間の活動する時間ではない時刻

東和国のパガシティ から離れた山中に僕はいた。  


ヒュオッ

「くっ」

頭上を鋭い鎌が走り抜けた。

何とか回避したと思ったら今度は左脚の鎌が迫ってきた。


怯えを押し込み、後ろに飛びずさりたい所を奴の懐に飛び込み回避し

手に持ったナイフで20本ある奴の脚(多すぎだろ…)の関節部分を切りつけ、そのまま前方へ走り抜ける。


(これで自分の巨体で僕の体を少しの間見失うだろう)

呼吸を整えつつある程度の距離をとった所で奴の姿を確認する。



僕より大きい20本の脚をぎちぎち鳴らしながら僕の方を向き8個の眼で僕を見つめる。

そして外に飛び出した牙を動かす(威嚇のつもりか?)

肌は光沢があるにも関わらず小さな毛が生えている。

今回の討伐対象であるクモ型の妖である。


(しかし、聞いてたより大分でかい上に速くて固い、これで脅威度C以上はあるんじゃないか?フィクサーに報酬に色をつけてもらわないと)


クモの体が膨らむ

(来るっ!)

粘性のある糸を吐いてきた

前兆がわかりやすいので何とか躱せているが既に地面や木々に糸がへばり付いており、

触るとネバつき動きがとまってしまうため僕の行動範囲はどんどん狭まってきている。


(長引けばどんどん不利になる一方だな)

手に持ったナイフを意識する。既にこちらの飛び道具であったリボルバーは奴の糸に絡めとられ僕の手にはない。


つまり奴の懐に飛び込み、短期決戦で仕留める必要があった。


糸に当たらない僕に業を煮やしてクモが突っ込んできた。

鎌を振り上げ襲い掛かってくる。

再度、脚の関節を切りつけ、そのまま駆け抜け、

キインッ

(何度も切ってるが、クモの固さじゃないなコレ…何か金属音がするし)

通常のナイフであればすでに刃こぼれし、あるいは折れていても不思議ではなかったが、

使用しているナイフは刃渡り15㎝の妖武具の大手メーカー社のものであるため、今だ折れる気配はない。


だがこれで準備はもう終わった。

呼吸を整え能力を使用する準備を始め、

懐から取り出した注射器を腕へと刺し、

自身の肉体へ意識を集中する。

(過負荷解放15%)


じゅくっずくずっううう

肉体には力が満ち、これまでの戦闘で傷ついた肉体が再生する。

腕からは漆黒の液体が染み出し腕全体が肥大化し固い殻に覆われていく。

そこには右腕の上腕から手の先まで異形と化した僕の右腕があった。



「ぎゅああああ!?」

何か感じ取ったのかクモが後ずさる。


だが遅い。


今の僕にとってクモの動きはスローモーションだ。

糸を踏まないように駆け抜け、あらかじめ切れ目を入れておいた脚を高速で右腕でもぎ取る。

たまらずクモが残った足を振り上げ僕を狙うが、振り下ろした時にそこにはもういない。



「ぎゅぎゅぎゅううううがががあああああああ」

ノロノロしたクモの悲鳴が聞こえる。

正直悲鳴を聞いて可哀想になったが、ここで躊躇し解放状態の時間切れになってしまえば死体になるのはこちらだ。


高速で移動を繰り返し

無心で脚を奪う作業を続ける。


全ての脚を奪い動きがとれなくなったクモへ後ろから飛び掛かり、クモの頭へと渾身の一撃を叩き込む。


ドゴおおっ


クモの頭部はめり込み地面にはクレーターができていた。

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