Episode11
「迷うなあ……」
こっちのロングソードは使いやすそうだけど、あっちのファルシオンは攻撃力が高そうだし……向こうにあるシャムシールも形が格好良いんだよなあ……。
でもやっぱ、値段を考えるとショーソードが一番良い気もするし……いっそダガーを選んで身軽に戦うのもありな気がする……。
……どうしよう、めっちゃ迷う。
目の前の壁一面にズラリと展示された刀剣を見て、俺は頭を悩ませていた。
もうかれこれ一時間以上は悩んでいる気がするが、見れば見るほど全部良さそうに思えてきて一つに絞ることができない。
日本最大手の武器屋、「コールブランド」の中でも最も大きな日本橋店、その店内には世界中から取り寄せられた武器が所狭しと並んでいた。
「うわ、かっこいい」
悩みながら店内を物色していると、ある武器のコーナーを見て目が止まる。
日本の刀のコーナーだ。
短刀から長刀まであらゆる刀が揃っていて、どれもシンプルなデザインながら洗練された格好良さを放っていた。
世界中で多くの冒険者たちが使っている人気の武器の一つだ。
「まあでも、今の俺には厳しいか……」
一通りコーナーを見た後、ちょっと使ってみたいと思ったけどやっぱり無理だよなと考え直す。
刀は他の武器に比べて値段が高く、戦闘で使うとなれば本格的な訓練が必要となる。
使えたら侍みたいで格好良いとは思うけれど、今はそこまでも訓練する時間もないし……。
「やっぱ、無難にショートソードかな」
やはり一番扱い慣れているショートソードが良い気がする。
というわけで改めてショートソードのコーナーに向かおうとした時だった。
突然、声をかけられた。
「あの、お客様……」
声の方を見ると、眼鏡をかけた女性の店員さんが傍らに立っていた。
さっき俺が自分のショートソードを買取カウンターに持っていった時に対応してくれた店員さんだ。
先日のファントム戦の末、見るも無惨なほど破損していた剣だったが、それでも五千円で買い取ってもらうことができた。本当に有り難い。
何故だか気まずそうな顔をしている店員さんに俺が応える。
「はい、何でしょう?」
すると、とんでもない言葉が返ってきた。
「申し訳ありませんが、当店の商品をお客様に売ることができなくなってしまいました」
「は……?」
え、なに、どういうこと?
俺に商品を売ることができない……?
あれ、俺なんかしたっけ?
頭に?マークを浮かべながら戸惑っていると、店員さんが申し訳なさそうに事情を説明してくれた。
「実は……当店の商品を全て買い取りたいと仰るお客様がいらっしゃいまして、上の方とも相談したのですが、どうやら売ることに決まったみたいで……」
「えっ、商品を全て買い取りたいって、そんな人いるんですか」
「はい、あちらのお客様なのですが……」
そう言って店員さんが向こうのカウンターを指し示す。
そこには一人の若い男性がいた。
何やらカウンターにいる店員の人と親しげに話し込んでいるようだ。
「なるほど、あの人が……」
白いシャツを着て、黒いズボンを履いたウェーブのかかったショートヘアの男性だ。
商品を買い占めたいというぐらいだから、どこの富豪かと思ったが見た目はごく普通の人に見えた。
というか、全てを買い取りたいって一体いくらになるのか……それに、買い取ったとして何に使うのか目的も不明である。
もしかしたら、どっかのYouTuberが動画の企画で買い占めにきたのかなあ、なんて思いながらまじまじと男性を見つめていると、俺の視線を感じたのか男性がこちらに振り返った。
その顔を見た途端、驚きが走る。
「あっ!」
向こうもこちらに気付いたようで、じっと俺を見つめていた。
慌てて俺がカウンターへと駆け寄る。
「カズトシさん! この間はありがとうございました」
男性はカズトシさんだった。
あの日の――誕生日の日に訓練場で俺の対戦相手になってくれた人だ。
強すぎて全く相手にならなかったけど、あの戦いは強く記憶に残っている。
まさか、こんなところで会うなんて。凄い偶然だ。
俺が久しぶりの再会に喜んでいると、カズトシさんも同じように喜んで……って、違った。
カズトシさんは何故か、怪訝そうな目で俺を見ていた。
そして、
「誰だお前? どっかで会ったっけか?」
……あれ?
覚えてないのか?
なんで……って、あ、そうか!
ヤバい、そうだった。
あの日の出来後はリセットされて、カズトシさんの記憶にはないんだ。
うわっ、完全に忘れてた。
「この間っていつの話だ? 会った記憶は全くないけどな」
カズトシさんが俺を探るように見つめる。
どうやら怪しんでいるようだ。
どうしよう……。とりあえず、適当に誤魔化さないと。
「すみません、勘違いでした。足立ダンジョンセンターの訓練場でよく見かけていたので、別の人とごっちゃになっちゃって!」
我ながらなかなか無理がある言いわけだが、カズトシさんは、
「あー、あそこに通ってる奴か」
と言って、ひとまず納得してくれたようだ。
「いつもカズトシさんの戦闘を見るたびに強いなあと思って憧れてたので、こんなところで会えて凄い嬉しいです!」
調子に乗って俺が捲し立てると、カズトシさんも満更でもない風に笑ってみせる。
「まあ、あそこで一番強いのは俺だからな」
「ですよね! 他の冒険者とはレベルが違いますもんね!」
俺が太鼓を持つと、カズトシさんの顔がさらに綻ぶ。
って、ちょっと待った。
……え、カズトシさんって一番強かったの?
マジか、だとしたら俺大分無謀なことしてたな。
冷静になって、カズトシさんの冗談なのか本気なのか分からない言葉について思案していると、
「いやだが、そんなに通ってる奴なら顔ぐらい覚えてるはずだけどな……」
カズトシさんが俺の言葉に疑問を持ち始めたようだ。
あ、マズい。話題を変えよう。
「そ、そんなことより! 店の武器を全部買いにきたって聞きましたけど」
そうそう、武器を買い占めるって話だ。
「ん? ああ、ちょっと頼まれてな。事前に店に連絡入れようと思ったんだけどつい忘れちまって。悪いな」
カズトシさんが悪びれる様子もなく言う。
なるほど、カズトシさんが買い占めるんじゃなくて別の誰かが買い占めたいらしい。
いや、その人も凄いけどそれを頼まれるカズトシさんも凄いよな。
どんな人が何のために買うのかちょっと気になるけど、流石にそこまで深入りはできないか……。
「まあでも、一本ぐらいならいいか」
俺が考えていると、カズトシさんが言った。
一本ぐらいならいいか……?
あ、もしかして。
「俺が一つ武器を買ってもいいんですか?」
「ああ、特別にお前にだけ売ってやるよ、裏行こうぜ」
そう言うや否や、カズトシさんは勝手にカウンターを超えて店の奥に入っていった。
「え、あっ、ちょっと!」
慌てて声を出すが、カズトシさんは立ち止まることなくどんどん先に進んでいく。
裏行こうぜって……店の裏のこと!?
どうしよかと戸惑っていると、今のやり取りを見ていたカウンターの店員さんが助け舟を出してくれた。
「あ、全然大丈夫ですので、どうぞ入って下さい」
え、大丈夫なの? と思いつつ、そう言われたらもう行かざるを得ないわけで。
俺は急いでカズトシさんの後を追いかけた。
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