Episode4
「おい! こっちにも運べ!」
「各自、装備はしっかりと確認しておくように!」
「ポーター、ちょっとこっちに来てくれ!」
まだ夜も明け切らない薄闇の中、篝火やテントの隙間を縫うように、忙しなく冒険者たちが行き交っている。
周りに指示を出す者、装備を確認する者、荷物を運ぶ者、それぞれの役割を果たすべく奔走し、万全の状態へと準備を推し進めている。
「こんな朝早くから凄い活気だな……」
早朝五時だというのに、新宿ダンジョンの野営エリアは熱気に溢れていた。
前回来た時より慌ただしく感じるのは、丁度この時間帯に出発するパーティが多いからなのだろう。
あの時はこの空気に呑まれて尻込みしていたが、今回はそこまでの緊張感はなかった。
淀みのない足取りでゲートに着くと守衛のお兄さんから声をかけられる。
「見ない顔だな。新宿ダンジョンは初めてか?」
「はい、今回が初めてです」
実際は二回目だが、データ上は一回目のはずだった。
お兄さんとも会うのは二回目だが、やはり記憶にないようだ。
「なるほど。冒険者ライセンスを確認しよう」
持っていたライセンスを渡すと、守衛のお兄さんがそれをタブレットにかざす。
「ふむ。冒険者歴は三年。メインは六町ダンジョンで……潜った回数五七三回、凄いな……」
タブレットに表示されたデータを見て、お兄さんが目を細めた。
「六町ダンジョンは低ランクのダンジョンだが、これだけ回数を重ねているのであれば大丈夫だろう。装備は……自前のようだな」
「はい、自分の装備を使います」
今回の俺は自前の装備を持ってきていた。
体を覆うレザー装備一式と、腰にはショートソード。背中には水や糧食を入れたリュックを背負っている。
「帰着予定は?」
「日付が変わるまでには」
「承知した。初めてのダンジョンでは事故も多い。十分に気を付けるように」
「ありがとうございます、気を付けます」
お兄さんに目令して、ゲートをくぐり抜ける。
新宿ダンジョン入口の大穴が視界に入るが、前回とは違って、俺の心は落ち着いていた。
∞
三階層辺りまでは他のパーティが近くにいることも多かったが、六階層まで来ると行き違うことも稀となる。
先に進む組はひたすら先へ、手前の階層で狩りを続ける組はその階層に籠って延々と狩りを続ける。
出会う人々はほとんどがパーティで、ソロで潜っている俺に対して好奇の目を向けてくる人もいるが、話しかけられることはなかった。
必要な時以外はなるべく干渉し合わないというのは、冒険者間の暗黙のルールというやつだ。
「っと、あれはデビルスネークか」
道なりに進んでいると、遠くの方に体長3mほどの黒いヘビ型の魔物を見つけた。
向こうもこちらに気付いたようで、長い体を獰猛にくねらせながら接近してくる。
当然俺にとっては初見の魔物だが、一般に情報が公開されている敵のデータは全て頭に入っている。
姿、特性、スキル、そして攻略法――。
俺は剣を抜いて、右手に構える。
残り10m辺りでデビルスネークが飛び上がり、上空から牙を剥いて毒液を撒き散らしてきた。
俺は横に飛び退いて回避した後、すぐに後方に振り返る。
デビルスネークが着地した瞬間――その僅かな隙に接近し、魔気で強化された素早い振りでデビルスネークの頭部を切り裂いた。
胴体は斬っても再生されるため、確実に頭部を潰さなければならない、というのがこの敵の攻略法だ。
光の粒子となって消失するデビルスネークを見て、ふっと肩の力を抜く。
「六階層の敵でも戦闘に問題はなさそうだな。時間的には……あと一、二階層ぐらい進めるかどうかって感じか」
一階層からここまで来るのに大体五時間ぐらいかかっていた。
単純に計算すれば一階層につき一時間程かかっていることになるが、階層が下がれば下がるほど難易度は上がるため、攻略する時間は多めに見積もった方がいいだろう。
下に行けばダンジョンはより広く、敵の強さも上がっていく。
「おっと、今度はインプか」
デビルスネークを倒して間もなく、今度はコウモリのような翼を生やした小さな魔物が現れた。
様々な魔法を使ってくる厄介な敵だが、まだまだこのぐらいなら俺の相手にはならない。
今日の目的のためにも、一刀に斬り伏せて先に進もう。
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