Episode25


 ──その日の夜。


 ベッドに就いた俺は夢を見ていた。


 とても嫌な、恐ろしい夢だった。


 街が魔物たちに襲撃されている夢だ。


 燃えていた、何もかもが。


 空が赤く染まり、建物が崩れていくのが見える。


 どこからか、助けを呼ぶ声が聞こえた。


 ――リンさんだ。


 リンさんが火の中で助けを呼んでいる。


 助けなければ。


 俺はリンさんを助けに行こうと足を踏み出す。


 でも、動けなかった。


 下を見る。


 俺の足は、恐怖に震えていた。





 目を覚ました時に、大粒の汗をかいていた。


 ゆっくりと起き上がって汗を拭う。


 鮮明な夢だった。


 崩れていく街の光景や火の熱さまではっきりと覚えている。


 意識が完全に覚めていた。


 ベッドから抜け出して、一度風に当たるために窓を開けた。


 涼やかな風が吹き抜ける。


 熱をもった身体と意識がゆっくりと冷やされていく。


 視線を下げれば、庭の桜の木が見えた。


 花弁が半分ほど散った寂しげな木の姿が、家の前にある街灯によって淡く照らされている。


 散っていく花びらは横を流れる用水路に吸い込まれて、ピンクの水面を作っていた。


 目に映る景色は何も変わっていない。


 だが、妙な胸騒ぎを感じていた。


 どこかで予感がしている。


 何かが起こる。


 この日常は失われる、と。


 俺は早く、強くならなければならない。

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