Episode26
――新宿、中央合同庁舎第11号館。
東京を一望出来る高層ビルの六十八階。
そこの一室で男は窓際に立ち、視認できるはずのない先にある光景を視ていた。
世界中のあらゆる場所を見通すという"千里眼”。
その目を以て彼が見ていた場所は、新宿ダンジョン。その入口。
夜中にも関わらず異常な熱気を見せる現場に対して、しかし彼の気持ちは極めて冷めていた。
「おいおい、いくらなんでも早すぎねえか……」
呻き声にも似た声が漏れる。
嫌そうに顔を歪めて、初老を迎えたばかりだというのに、ほとんどが白髪に染まった頭を雑に掻きむしった。
彼の頭には既にこれからの展開がイメージされていた。
その展開を回避できないかと頭を働かせるが、回避しようとすればするほど、余計に面倒になるという結論にしか至らない。それがまた腹ただしかった。
――まったく、面倒な立場になっちまったな……。
心中で愚痴りながら、重い何かを吐き出すように息を一つ吐く。
そこへ、扉を叩く音が三度響いた。
どうぞ、と男が声をかけると、扉から入ってきたのは若い女性。
黒のスーツ姿で、長い髪を後ろで一つに纏めている。切れ長の整った目は、深い知性を感じさせると同時に、どこか冷たさを印象付けていた。
失礼します、と告げる声も色がない。
室内に置かれた長机や書棚を通り過ぎ、奥にあるデスクの前に立つと、女性が簡潔に要件を伝える。
「ペルセウスのメンバーが新宿ダンジョンを攻略しました。メンバー全員が――」
「あーはいはい。見てるから大丈夫」
しかし、その言葉を遮るように窓の外を見つめる男が言った。
無作法にも思えるが、その態度に慣れているのか、女性は特に気にした風もない。
「明日以降、相応の対応が必要になるかと思います」
続いた女性の言葉に、男が振り返る。
如何にも気だるそうな表情だった。
「代わりに君がやってくれたら楽なんだけどねえ」
「それは出来ません」
期待して言ったわけではないが、女性の淡々とした返答にがっくりと肩が落ちる。
それから、男は再び視線を窓の外へと向けた。
「長官、面倒だとは思いますが、どうか誠実なご対応を」
長官と呼ばれたその男――ダンジョン庁長官、
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