バイロンの手稿

バイロンの手稿3


 この世界の始まりから終わりまで、全ての事象、概念、真理が記録されている記録の在り処。


 それを人は、アカシックレコードと呼ぶ。


 人生の分岐点に立った時、もしもその分岐先の全てを見る事が出来たなら、道の途中で後悔することもない。


 先に起こる現象は全て既知のものであり、未知によって生じる恐怖や不安とも決別することが出来る。


 それは一種の安寧と言えるだろう。


 しかしそれが幸せであるかと問われれば、安易に肯定することは出来ない。


 物語の輝きは一度目の体験でこそ発揮されるからだ。


 そしてその体験こそが生命の真価を発現させ、世界に新たな熱量を与える。


 例え物語の途中で挫折や絶望があろうとも、その体験は初めから物語が終わっているという虚無には及ばない。


 全てを知るということは、ある意味最も不幸なことと言えるのかも知れない。


 完全なる事象として真理に溶ける塵の一片。


 あるいは、進化の価値を失った命の外輪。


 それでも人は、アカシックレコードを望むのだろうか。




 ――とある冒険者ジャック・ゴードン・バイロンの手稿47より抜粋

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