成長の行方

Episode1


 ――西暦2042年4月17日、午前8時。


「ふぁ~あ……ねむ……」


 疲れの抜けない身体を引きずって、一階へと下りる。


 昨日は風呂にも入らず寝落ちしてしまったから、とにかく早く汚れを洗い流したかった。


 ここ数日の間はひたすらスキルの使い方を磨くためにダンジョンに潜っている。


 お陰で様々な使い方を理解し、また新たな"進化”の可能性も見えてきていた。一体どこまで成長できるかのかと、追求するほどにワクワクは膨らんでいくばかりだ。


 風呂に入った後、シリアルの袋と牛乳を持ってソファに座る。


 そしてテレビを付けた。


「ははっ」


 思わず、笑ってしまった。


 朝の情報番組で、羅臼長官があからさまにダルそうな態度でMCの男性の質問に答えていた。


 しかしその回答があまりにも適当なので、MCの男性が半ギレしている。


 まるで、コントのような構図だ。


 日本のダンジョン庁のトップがこんなのでいいのかと、度々テレビなどで話題に上がったりもするが、彼以上の実力を持つ人がいないため、なんだかんだでトップを任される形になっている。


 まあ当の本人は、どうにかその地位を捨てたいと思っているらしいのだけれど。


「ホント適当だよなこの人」


 MCの煽るような質問に対し、飄々と煽り返す姿を見ていると少し不安にもなるが、それも全て計算でやっているのだと信じたい。


「それにしても凄いよな、ペルセウス……」


 ペルセウスが新宿ダンジョンを完全攻略したというニュースが連日報道されていた。


 羅臼長官もそのことについて、ここ数日はあちこちに引っ張り出されている。


 日本最高難度の新宿ダンジョン。


 結局、三十階層目が最後だったらしく、ペルセウスは僅か一週間で攻略して戻ってきた。


 あまりにも早い帰還だが、やはりそれだけの実力者が揃っていたということなのだろう。


「あ、ブチ切れた」


 彼らの帰還を見て日本中が沸き立ち、冒険者界隈の熱気もまた一段と上がったように思える。


 その熱気に呑まれて俺のやる気も上がってはいるのだが……実は、今だに次の攻略ダンジョンを決めきれずにいた。


 相変わらず六町ダンジョンに潜ってゴブリンやらコボルトやらを狩っている。


 東京都内でも無数のダンジョンがあるため、なかなか悩むところなのだが、流石にそろそろ決めないとな。


「……さて、今日の予定はっと」


 今日は午前中にヤマトの稽古をして、それが終わったらセンターにエナジーの買取をしてもらいに行くつもりだ。


 その後でまたスキルの練習に六町ダンジョンに行くか、あるいは次の攻略ダンジョンを真剣に考えるのもいいだろう。


 何となくの算段を立てながら、俺は食べ終わった食器を台所へと持っていく。


 そして食器を流しに置いた、その時だった。


「ぐぁっ……!」


 唐突に、胸に痛みが走った。


 あの時の――センターで倒れた時の苦しみが来たのだと瞬時に理解する。


 反射的に右手で胸を抑えながら、左手でシンクの縁に捕まる。


 また意識を失うという可能性に焦るが、しかし、あの時のように圧倒的な苦しみではなかった。


 歯を食いしばり耐えていると、次第に痛みは消えていった。


「はあ……はあ……」


 ――まさか、いや、来るとは思っていたけど……。


 もっと間隔が空くものものだと思い込んでいた。


「やっぱりまだ、この苦しみは続いているんだな……」


 改めて自らの、力の代償とも言えるこの呪いが終わっていないことを認識する。


 それでも、毎回意識を失うわけではないというのが分かったのは、不幸中の幸いと言えるのかも知れない。


 この程度の痛みならまだ、起きたところで耐えることができる。


 深く呼吸をして、滲み出た汗を拭う。


「よし、大丈夫そうだな……」


 完全に快復するのを待ってから、食器を洗って出掛ける準備を始めた。

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