Episode23
「なるほど、そうだったんですね……」
俺の話を聞き終えたリンさんが、思案げな表情で頷く。
突拍子もない話ではあったが、リンさんは疑う風もなく真剣に耳を傾けてくれた。
誕生日に訓練場で戦いに敗れ、新宿ダンジョンに行き、レイスに殺されて知らずの内にスキルが発動――リセットが起きたこと。
そして、リセット前に河川敷で偶然リンさんと出会ってリンクをしたことも伝えた。
「すみません、俺がもっと慎重になっていればリンさんの指輪も壊れなかったのに」
「あ、いえ、それはいいんですけど……。とにかく、ミクルさんが無事で良かったです」
リンさんが、俺の目を見つめながら言う。
「本来であれば、センターの皆さんにも話をされた方がいいと思うのですが、やはりまだ話すのは躊躇われますか?」
真剣な眼差しを向けるリンさんに、俺は少し考えてから、
「そうですね。今はまだちょっと……」
何度も考えてはいる事なのだが、やはり俺の答えは変えられない。
「わかりました。でも、何かあればすぐに伝えてくださいね。センターはきっとミクルさんの力になってくれるはずです」
しかし、そう言って優しく微笑むリンさんの表情を見ていると、素直に打ち明けていいのかも知れないという気もしてくる。
――センターはきっとミクルさんの力になってくれるはずです。
何よりも、リンさんがそう言っているのだ。俺が勝手に閉鎖的になっているだけで、センターに相談すればもっと上手く事が運ぶのかも。
うーん、どうなんだろうな……。
と、そんな風に俺が悩んでいると注文していた料理が届いたので、そこで一旦俺の話は切り上げとなる。
料理を食べながら、他愛もない話をしつつ時間が流れていった。
いつもなら、ほとんど俺が話してリンさんが聞いていることが多いのだが、今日は珍しくリンさんの方が話し役で俺が聞き役に回っていた。
「それで、その時に作ったケーキが思った以上に上手にできて……」
「わあ、そうなんですね」
「昔から手先が器用な方ではないんですけど……」
「えっ、意外ですね」
「どちらかというと母よりも父の方がそういうのが得意で……」
「なるほど、お父さんの方が」
正直、対面でリンさんに見つめられてあんまり話は入ってこないが、とにかく変な空気にだけはしないようにと気を付けながら。
料理を食べる時も、緊張でこぼさないようにと気をつける。
――というか、普通にリンさんと一緒にご飯を食べられるなんて幸せ過ぎないか……?
話をしつつ、改めて今の状況を鑑みて不思議な気持ちになった。
センターには、リンさんのファンも多いはずだ……多分。
あんまりリンさんが他の人と話している姿は見かけないが、きっと大勢の人がリンさんに好意を持っていることだろう。
そんな彼等にこの場面を見られたら、一体どうなることか。ああ、考えただけで恐ろしい……。
と、そんな感じで和やかに話をしていると、いつの間にか料理を食べ終わり。
時刻は午後四時を回っていた。
「美味しかったですね」
「はい、俺もバリ料理がこんなに美味しいだなんて思いませんでした」
二人して感想を言い合いながら店を出ると、ひんやりとした春先の空気に包まれる。
「うわ、寒いっ」
店の暖かさからの落差で、思わず身震いがでた。
「空気が冷たいですね」
リンさんも両手を合わせて手を温めている。
太陽もかなり西に傾き、もうすぐに夜が訪れそうだ。
「センターにある資料の方で、同じような事例がないか調べてみますね」
道すがら、リンさんがそんなことを言ってくれた。
それから魔道具ショップでリンさんの指輪を受け取り、二人で帰るために駅まで向かっていった。
指輪の料金は遠慮するリンさんを俺が押し切って払った。
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