Episode22
魔道具ショップを出た俺たちは浅草駅からほど近いカフェに来ていた。
俺がネットで調べて、前日に予約しておいた完全個室制の場所だ。
入店して店員に名前を告げると、奥の部屋へと案内される。
「凄くお洒落なお店ですね」
席に着いたリンさんが部屋を見渡しながら言った。
「ネットの紹介文にはバリ風テイスト……? のお店だと書いてありました」
俺も席に着いて同じように周りを眺める。
部屋全体が茶色と白をテーマにしていて、謎の観葉植物なんかが置いてあるのを見ると、確かに何となくバリ風だというのが理解できた。
リンさんも笑顔で、どうやら気に入ってくれたみたいでホッとする。
「わあ、ランチメニューも凄い」
「本当だ、色々ありますね」
テーブルのランチメニューには五種類のランチセットが豪華な写真付きで載せられていた。
どれも知らない料理ばかりだけど美味しそうだ。
「こっちの方はちょっと辛いみたいですね」
「なるほど、リンさん辛いのは大丈夫ですか?」
「いえ、あまり得意な方ではないです」
「じゃあこっちの方がいいかもですね」
お互いに話し合いながら注文を決めて、タブレットでオーダーを行う。
そして――
「えーっと……」
注文を決め終わった後、二人の間に沈黙が落ちると共に、気まずい緊張感に包まれる。
何か喋る話題を見つけようと考えるが、何も思い付かない。
あれ、こういう時って、何を話せばいいんだっけ……?
脳内で何度もシミュレーションしていたはずが、ここにきて頭が真っ白に――。
すぐに本題に入るべきだろうか? それとももう少しタイミングを見計らうべきか?
緊張の中、何気なくリンさんの方を伺えば、リンさんの目は俺の方をじっと見つめていて。
まさか見つめられているとは思わず、慌てて俺は視線を逸らした。
だがそこで、あれ――と気付く。
もう一度リンさんの方を見ると、リンさんの目は俺ではなく、どこか遠くへ向けられていたのだ。
――これって、また見られてるのか……?
リンさんの目の色が僅かに薄れ、俺の中を見透かされているような感覚に襲われる。
そのまま俺もリンさんの顔を見ていると……というか、ここぞとばかりに見とれていると……ハッとしたようにリンさんが目の色を取り戻した。
「すみません! 私ったらつい……」
「あ、いや、全然大丈夫ですけど……」
むしろ嬉しいぐらいだったが、流石にそこは黙っておこう。
「私自身、あんまりコントロールできなくて」
と、リンさんが小さく言って顔を背けた。
その言葉を聞いて、なるほど、と俺は理解する。
きっと、リンさん自身もまだスキルを完全に制御できていないのだろう。
俺の“黒の魔気使い”のスキルと同じだ。
そう思うと、スキルを制御できないということがいかに大変なのかということを察することができた。
俺が黙ってそんなことを考えていると、不意に、リンさんの視線は俺から外されて――
その眼差しが、ゆっくりとテーブルへと落ちる。
「私の目、気持ち悪いですよね……」
え……?
発せられた言葉に、一瞬思考が止まる。
何を言っているのか理解が出来なかった。
気持ち悪い? 何が?
と、そこで少し考えてから、……ああ、そうか、と言葉の意味に気付く。
確かに、俺も最初に会った時はリンさんの目の色にビックリしたっけ。でも、気持ち悪いと思ったことは一度もない。
「リンさんの目。俺は凄い綺麗で好きですよ」
だから、そのままを言葉にしてみたのだけれど。
リンさんの赤くなる顔を見て、しまった! と自分の発言の重大さに気付いた。
「あ、ありがとうございます……」
俺の言葉を受けたリンさんの視線が、弾かれたように窓の外へと飛んでいく。
そして、居心地が悪そうに身体をそわそわと揺らし始めた。
――うわあああ、やっちまったあああっ!
ヤバい、これは完全に引かれたよな……?
どこの二枚目俳優の台詞だよ! と思いながらも、今更取り消すなんてことは出来ず。
テーブルの上には、さっきとは違った別の気まずさが落ちていた。
「いや、そのっ! ……あ、そうだ! 俺の話を聞いてもらいたくて!」
とにかく場の空気を誤魔化そうと、無理矢理に本題を引っ張り出した。
「は、はい!」
リンさんも何かを振り払うかのように姿勢を正して声を上げる。
――あ、あれ? なんか俺のプランと全然違うような……?
当初の想定とは全く違う展開に戸惑いながらも、俺はこれまでの経緯の全てを話すのだった。
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