Episode16
『――エナジーポイント 1431 を 57240 円に換金しますか? はい いいえ』
モニターに映ったその数字を見た瞬間に、ごくりと息を呑む。
がたがたと震える指で「はい」をタップすると、職員の女性から「換金が完了しました」といった言葉をかけられる。こちらに疑惑の目を向けられている様子はない。俺は心の内で安堵しながら買取カウンターを離れた。
以前の俺からは考えられない数値を見て、何か突っ込まれるんじゃないかと思ってドキドキしていたが、どうやら杞憂だったようだ。
まあでも冷静に考えてみればセンターでは一日何十人、何百人と相手にしているわけだから、いちいち個人の数値の変化なんて確認していられないのだろうけど。
だが、俺にとってみればこの成果は非常に大きい。
これまではどれだけ頑張っても週に六百ポイント程度だったところが、二倍以上にも増えている。
やはりボスであるゴーレムとオークを倒せたことがでかい。ゴーレムで五百ポイント、オークで三百ポイントも獲得することができた。
今までの苦労は何だったんだ、と思ってしまうほどの大金を手に入れてしまったわけだが……これはもう、大富豪とは言えないまでも、富豪ぐらいにはなれたんじゃなかろうか?
今日は奮発して、久しぶりに焼肉なんて行くのもいいかも知れないなあ、なんてにやけながら歩いていると、前にいた女性とばっちり目が合う。
「何だか、凄く嬉しそうな顔ですね」
鈍色の髪と瞳を持った女性――リンさんだった。
「リンさん! あっ、いや、思った以上にポイントが増えてて……」
まさか、見られているとは思わなかった。恥ずかしさを誤魔化すように頬をかく。
「ふふ。良かったですね。あれから体調の方はどうですか?」
「体調は大丈夫です。痛みもないし倒れることもありません。もしかしたら、あれは夢だったのかなあ、なんて思ったりしてきました」
と冗談っぽく言いながら、あははと笑ってみる。
「まあ」とリンさんが目を丸くしてから、
「本当にそうだといいんですけど。でも、気を付けて下さいね」
そう言って真剣な目で見つめてきたので、慌てて俺も表情を引き締めた。
「そうですね。まだ、何があるか分かりませんから」
それから、リンさんが言った。
「そういえば、この間のお話の件なんですけど」
「お話の件……?」
「はい。今日メッセージを送ろうと思ったのですが、丁度いらっしゃったので」
メッセージ……? えーっと、何だっけ? 分からないけど、とりあえずここは合わせておいた方がよさそうだ。
「あー! はい、この間のあの話ですね」
「明後日がお休みなので、良ければどうかなと思いまして。流石に急ですかね……?」
「明後日、ですか……?」
変わらず頭に疑問符を浮かべる俺は、必死に記憶を辿る。
確か、リンさんと最後に会ったのが四日前のことで、その時に話したのが俺の能力のことだったんだよな。それで……いや、待てよ。違う、話せなかったんだ。だから俺はリンさんを誘って――
思い出した! というか、自分で誘っといて忘れてんじゃねえ! と、自分を殴り飛ばしたくなった。
「あ、え、本当ですか……? 俺はもちろん大丈夫ですけど」
「私、休みの日はいつも暇してるので、是非お願いします」
「はい、こ、こちらこそお願いします」
「では、またリンクでメッセージ送りますね」
そう言うと、リンさんは微笑みを浮かべて立ち去っていった。
俺はその後ろ姿をぼうっと見つめる。頭の中は真っ白で、何も考えることができなくなっていた。
急遽決まった明後日の予定。女性と――しかもリンさんと二人で会うだなんて!
ありえないと思っていた夢物語が現実に迫る中で、俺の思考は溶けるように露と消えて。しばらくの間呆然とその場に立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます