Episode15
くたくたになって入口まで戻って来た頃には、日付が変わるぎりぎりになってしまっていた。
使い果たした魔力の回復に時間を取られたのと、改めてスキルの確認を行いながら戻って来たのが大きな原因だ。
ダンジョンから出て、久しぶりに外の空気を浴びると一気に身体が醒めるような感覚に包まれる。
洞窟の重い空気が抜け落ちて、緊張も不安も何もかもが溶けていくかのような解放感。まるで心と体が再生していくような、何ともいえないこの感じが俺は好きだった。
ゲートまで歩いていくと、守衛のカエデさんから声をかけられた。
「お疲れさま、ミクル君。今日はかなり頑張っていたようだね」
「カエデさんお疲れさまです。もっと早く戻って来るつもりだったんですけど……ちょっと頑張り過ぎて、今にも倒れそうです」
俺が冗談混じりにそう言うと、ははっとカエデさんは笑っていた。
それから、俺がふとした疑問を口に出す。
「こんな時間までカエデさんがいるなんて珍しいですね」
普段のカエデさんであれば、既に帰っている時間のはずだった。
こんな夜中に会うことは、滅多にない。
「ああ……。いや、さっきまで緊急の会議をしていてね」
と、カエデさんが神妙な面持ちになる。さらに、声音を硬くして言った。
「……最近、どうも全国的にダンジョンの様子がおかしいという報告が上がってきていてね。うちではまだ何も起きてはいないんだけど。ミクル君は何か、ダンジョンの中で変わったことを見たりはしていないかな?」
ダンジョンの中で変わったこと……?
心当たりは――あった。
けれど、と考えてしまう。話してしまった後の展開が脳裏をよぎる。そして、少し迷ってから、
「俺は……いえ、何も見てないですね」
本当のことは、やはり言えなかった。
「なるほど。まあ、何もないのが一番だから。もし何か見かけたらすぐに教えてね」
「はい、そうします」
ここで全てを打ち明けたとしても、カエデさんなら黙っていてくれる気はした。しかし万が一ということもある。それに話してしまったら、変な気を遣わせてしまう。
今はただの一冒険者としてやり過ごす、それがお互いにとってベストな選択な気がした。
心の中で俺はカエデさんに謝りながら、あまり突っ込まれない内にそそくさとその場を後にして、着替えるために仮設テントへと向かっていった。
家に着いたのは日付けが変わって一時を過ぎた辺りだった。
時間をかけて風呂に入った後で、コンビニの弁当を頬張りながら、今日一日を何となく振り返る。
幾度の実戦を経て、黒の魔気使いのスキルはおおよそ、自分のイメージ通りに扱えるようになってきていた。これから先は魔力のコントロールを上達させるのと、技の応用力を広げていくのを課題としていくつもりだ。
念願のゴーレムを撃破したことによって、俺は既に次のステージへの一歩を踏み出したと言える。
六町ダンジョンも攻略し終えて、新たに潜るダンジョンも決めなければならない。
幾つかの候補はもう考えているのだけれど、その辺は追々決めていくとして。
やはり一番の気がかりというか疑問なのは……今日会った彼が何者なのかということだ。
白いローブと杖という格好からして魔法系のスキル使いなのだということは分かる。召喚術も使えて、さらにはワープなどという希少なスキルも使えるため、かなりレベルの高い使い手なのだということも読み取れる。
そんな高位の能力者が俺に会いに来た目的は何なのか。
これまでの流れからしてみれば、やはり死神関連だとは思うのだけれど……何となく嫌な予感がしてならない。
カエデさんが言っていた、ダンジョンの様子がおかしいということにも何か関係しているのだろうか。
はあ……。どうしてこうも立て続けに事件が起きるのか。
運命の神様とやらがもし存在するのであれば、一度真剣にお伺いを立てたいものである。
……とまあ、考えれば考えるほどネガティブになりそうなことはこのぐらいにして。今日は疲れたし、とりあえずさっさと寝てしまおう。
未来のことは未来の俺が何とかしてくれるはずだ。と、そう信じたい。
俺は重い身体を引き摺りながら、二階の寝室に行ってベッドに潜り込んだ。
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