Episode12


 初めてのボスの挑戦はいつだって緊張する。それは圧倒的な力を手に入れた今も例外ではない。


 四階層のボス、オークに挑む時も負けるはずはないと思っていたものの、緊張して体の動きが鈍くなっていた。


 お陰で一発攻撃をくらってしまい肝を冷やしたが、その後の隙を突いて何とか撃破に成功し――俺はついに、自身初となる五階層へと到達する。


「いよいよ、最下層か……」


 人生で初めて攻略を始めたダンジョンの終盤。長きに亘る攻略を振り返ると感慨深いものがあった。


 最初はスライムにすら怖気付いて、まともに剣を振るうこともできなかったのにな。


「三年目にしてようやくってわけだ。よく頑張ってきたなあ、俺」


 普通の感覚なら諦めていてもおかしくない年月だ。


 俺の根気強さ……もとい、諦めの悪さだけは誇れるところかも知れない。


 マップの確認を済ませてから道なりに進んでいくと、すぐに第一魔物を発見する。


「あれって、ウィングバードか……?」


 緑色の体色をした体長一メートルほどの鳥型の魔物が空中を飛んでいた。


 六町ダンジョンの先人達から聞いている情報と照らし合わせて、恐らくウィングバードであろうと判断。


「確か、二種類の風魔法を使ってくるんだったよな」


 二種類の風の魔法――エアカッターとエアブラストだ。風の刃と、風の衝撃。


「てことは……早くも再び、俺の必殺技が火を吹く時が来たってわけだ」


 目には目を。魔法には魔法だ。

 おもむろに俺は精神を集中させ、右手の魔力を高めていく。


 気分は昔見たアニメの主人公よろしく、最高に燃えて、しかし静穏なる明鏡止水の境地。

 気分のままに「俺のこの手が――」と叫びたいところだが、流石にそこは我慢しておこう。

 その代わり、


 ――哀れなウィングバードよ。呪うなら、自分の運命を呪うんだな……!


 心中で思い切り厨二病を発現させながら、気合いを入れて魔力を右手に集め続ける。


 そして、魔力の解放。


 俺の右手の上には……トマトほどの大きさの黒い塊が浮かんでいた。


「よっしゃあ! 今度こそいける!」


 ジャイアントトードにくしゃみをさせた黒い塊は、ダンジョン内での地道な練習を経て進化を遂げていた。


 一回りほど大きくなり、威力も精度も格段にアップしているはずのそれは、俺の記念すべき必殺技第一号。


 その名はまんま――ダークボール。


 さっきは不発で終わったが、今回は一味違う。

 きっとウィングバードもろとも消滅させるに違いない。


 そのまま「うおりゃああああ!」と腕を振りかざしウィングバードにダークボールを投げつける。


 すると、ダークボールはまたもやふらふらと飛んでいった。


 俺の無駄な叫びを聞いたウィングバードがこちらに気付き、風の魔法――エアブラストを空中から飛ばし迎撃に当たる。


 見えざる衝撃波はダークボールをあっさりと打ち消し、そのまま勢いよく飛び続けて侵入者に命中。侵入者(俺)の胴体に真ん丸の風穴を空けた。


「うぎゃああああああ!?」


 予想外の展開に慌てて、距離を取る。

 そして、


「な、なかなかやるじゃないか! とりあえず、こ、今回は引き分けだな!」


 穴の空いた胴体をくっつけながら、俺は哀れなウィングバードを見逃してやることにした。


 ま、まあ、あいつもそんな悪いやつじゃなさそうだし、一回ぐらいは見逃してやってもいいだろう。


 ただし、次会った時は絶対やってやるけどな!


 と、そんなこんなで俺は五階層の敵達と戦いながら、最後のボスのフロアへと辿り着くのであった。

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