Episode4
センターを出た俺は、何となくそのまま帰りたくなくて荒川の河川敷に来ていた。
傍らに自転車を止めて、立ったまま東京の街並みを眺める。
あの日の災厄によって一時街は破壊されたが、今ではその名残りも疾うに消えて、日ごとに発展を遂げていく街並みは壮観だった。
「デカいなあ」
巨大なビルがいくつも建ち並び、それが際限なくどこまでも広がっている。
十年前の光景と比べてみたら、全く違う都市のように見えるだろう。
最近ではホログラム技術が発達していて街中でも時々、近未来を感じさせるような場面に出くわすことがある。
この間は空中に巨大な女性の顔が浮かんでいるのを見て、思わず写真を撮ってしまった。
時の流れと共に街の形が変わっていくのは楽しいようであり、どこか惜しいようにも感じる。
例えばこの河川敷のように、皆の思い出が沢山残っているような場所はいつまでも在り続けて欲しいなと思う。
「なんか、年寄りみたいだな」
自分の古めかしい考え方に自嘲してしまう。
きっと、ずっと一緒にいた爺ちゃんの影響だろうなと思った。
「さあ、どうしようか……」
聳え立つビル群を眺めながら呟く。
求めていたスキルを獲得した今となっては、冒険者を辞めるという選択肢はない。
このスキルを使って行けるところまで行きたい、というのが今の正直な気持ちだ。
なるべく目立たないように、ダンジョンの攻略を進めていこう。
そのために、まずすべきことは――。
「やっぱり、黒の魔気使いの練習をしないとダメだよな」
与えられたSランクのスキルを使いこなさなければならない。
死神がやっていたように、ゴブリンの分身を作り出したり、霧を放出させたり、他にも様々な能力を使うことができるかも知れない。
頭の中でスキルのイメージが膨らみ、色々と試してみたいという欲求が込み上げる。
「今からダンジョンに行って、少しだけでも試してみるか」
昨日倒れたばかりで、もうしばらく大人しくしているべきなのは重々承知している。
しかし悲しいことに、そうと分かっていても突っ込んでいくのが冒険者の性というものだ。
身体の痛みはなく、活力も十分にある。
この状態で行くなと言われて素直に頷けるのなら、そもそも俺はスキルもなしに冒険者になろうとしていない。
……まあとはいえ、何も無鉄砲にダンジョンに突っ込むわけではない。
一応、相応の考えはある。
あそこの、あのダンジョンのあの場所なら間違いなく安全に力を試せるはずだ。
万が一気を失っても、問題はない。
「この力を……Sランクのスキルを使ってどこまでできるのか試してみよう」
期待に心が高まっていく。少し前の絶望しかなかった俺が嘘のように。
そのままのテンションで自転車に飛び乗って走り出す。すると丁度、一陣の風が吹いて背中を押してくれた。
まるで行く末を祝福してくれているような気がして笑みが零れる。
ぐっと踏み込んでいたペダルが少しだけ、軽くなった気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます