バイロンの手稿

バイロンの手稿2


 何故、ダンジョンに潜るのかと問う者がいる。

 何故、そうまでして死地に赴くのかと。


 尋常一様な解答を挙げるなら、富みを得る為に、或いは栄誉の為に、といった所だろう。


 しかし、私が思うにもっと根源的な部分にこの問いに対する答えはある。


 生命が陸に上がったのは、そこに食糧があったからか、それとも海での競争に敗北したからなのか。


 理由は数あれど、それらの如何なる理由がなくてもやがて生命は陸に歩みを進めたはずだ。


 生命とはつまり、繁殖であり、拡大であり、探求である。


 水の流れのように空いている場所があるならばそこへ流れ込み、火の動きのように燃え広がる。


 行けるなら行く、潜れるのなら潜る、というように強烈な原初の衝動が私達を突き動かしている。


 例え富みや栄誉が得られなくなったとしても、人々が生命という衝動を持つ限り、ダンジョンに潜ることを続けていくはずだ。


 というのが私の見解であるが、幸いにも、この見解を簡潔かつ明瞭に表現した言葉がある。


 かつての偉大な登山家が残したものであるが、これが非常に便利であるから、私もそれに倣ってこの命題を以下の様に纏めよう。


 何故、ダンジョンに潜るのか? という問いに対する私の答えはこうだ。



 ――ただ、そこにダンジョンがあるから。




 ――とある冒険者ジャック・ゴードン・バイロンの手稿11より抜粋

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る