Episode20


 そのまま呆然と手を眺めていると、同じような違和感を顔にも覚えた。

 俺は最悪の予感を抱えながら、急いで洗面台に駆け込み鏡を見る。


「マジ……かよ……」


 そこに映ったのは、手と同じように一部が黒い霧と化した俺の顔だった。

 茶色の瞳も、海老茶の髪の毛も、薄橙色の肌も、全て黒に侵食されてまだら模様になっていた。


「俺の体がっ、死神と同じ黒い霧に……っ!」


 自分の姿の恐ろしさに血の気が引いて、卒倒しそうになる。

 が、何とか踏み止まりしばらく鏡を覗いていると、次第に黒い霧が消えていき、元の俺の姿に戻っていった。


 完全に元通りになってから、俺は震える手で自分の顔に触れる。


「戻った、のか……」


 感触はいつもの自分の肌だった。

 一体、何が起きたというのか……。意識を取り戻してからというものの、ずっとわけが分からない。


 その後もしばらく鏡を見ていたが、黒い霧に変化する様子はなかった。

 それを見てようやく落ち着きを取り戻した俺は、再びリビングに行ってソファーに座った。



 十分に冷静になってから、再度一連の出来事について考えを巡らせる。


 ……まず明らかなのは、死神が原因でこうなったであろうということ。

 家にいるのも、朝に戻ったのも、黒い霧に変化したのも、全ては死神に殺された直後だ。


 では、何故死神に殺されたらこんなことが起きるのか。


 真っ先に思いついたのは、死神が俺を殺して呪いをかけた、という可能性。

 死神が何らかの理由で自分と同じような仲間を作るために黒い霧に変化する呪いをかけた。


 相当ぶっとんだ話だが、ここまで超展開過ぎると考えたくもなるだろう。


 あるいは、死神自身が俺に憑依していて身体を乗っ取ろうとしているとか。

 実は死神は未来から来た俺で、何らかのメッセージを託そうとしているとか。

 SF映画や小説などではありがちな話ではある。


 だが、やはりそれも想像の域は出ない。今の俺に必要なのは予想ではなく答えだ。



「一体、俺に何が起きているというんだ……」



 自分で考えても答えは出ない。


 じゃあ自分以外の人間だったら? 誰か、この現象について分かりそうな人はいるだろうか?


 必死に思案する。

 モンスター……ダンジョン……の出来事について分かる人がいそうな場所といえば。



 ――ああ、そうか。



 何を考えていたのだろう。

 答えなんて、決まっているじゃないか。


「あそこの人達なら、何か分かるかも知れない」


 俺はもうしばらく自分の体の様子を見て、変化しないことを確認してから思い付いた場所へと向かっていった。

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