Episode16


 広い新宿ダンジョンの中を、ひっそりと進んでゆく。


 これだけ広いとモンスターの姿を遠くから発見できるし、不意打ちなんかも食らわないから非常に有り難い。

 全部のダンジョンがこのぐらいの広さなら良いんだけどなあ……なんて思いながら進んでいくと、また大きな広間に辿り着く。


 広間は綺麗な円形の形をしていて、入口には巨大な扉が開かれた状態で佇んでいた。



「ボスのフロアか……」



 ボスは一日に一度、日付が変わる頃に復活するのだが、当然の如く今日は既に倒されているようだ。


 ちょっと戦ってみたいという気持ちもあったけれど、いないものは仕方がない。

 広間の奥の方まで進んでいくと、長い階段が現れた。

 そこを下っていけば第二階層だ。


 相変わらず目の前の景色はごつごつした岩の壁ばかりだけど、肌で感じる空気感は違っていた。


 ――どことなく、濃くて重い。


 より一層、気を引き締めていかなければ。

 マップを確認しながら二階層のルートを進んでいく。

 周囲に気を配り、警戒しながら行くのだけれど……。



「全然モンスターが出てこないなあ」



 やはりそれだけ冒険者の数が多いということなのだろう。

 十分ごとぐらいに冒険者とすれ違っているから、モンスターも復活した瞬間に葬られているのかも知れない。そう考えると、なんか同情心が芽生えてくる。


 そして、ふと思った。


「もしかして……ユウリさんもこうやってモンスターと出逢わなかったから八階層まで行けたのかな」


 それならソロでも到達できるし、考えられる話だ。

 そしてもしそれが真実なら、俺もこのまま第八階層まで行けるかも知れない。


 ……ただし、戻って来れるかは別として。


 今回の俺の目的は自分を試すことであって、無謀に突っ込むことではない。

 できる限り下の階層まで進みながら、ユウリさんのようにスキルに目覚めるという僅かな可能性を信じる。


 しかし無理だと思うのなら、すぐに退くことも大事だ。

 スキルが得られなくても、死ぬよりはマシだろう。


 あまりにもモンスターが出てこないため、そんなことをぼうっと考えてしまう。

 気が緩んでいるな、と思うけれど辺りにモンスターの気配は微塵もない。


 それからまたしばらく進んでいくと、ようやく人型のモンスターが姿を現した。


 その数は四。みな重厚な装備に身を包んでいてかなり強そうだが……やるしかない。


 全身に緊張が走る。


 圧倒的な人数差……だが、俺ならできるはずだっ!


 と張り切って構えていたけれど、どうやら向こうに戦う気はないみたいだ。俺には全然興味を持っていない。


 というか、それはモンスターではなく人間だった。


 モンスターがいなさすぎて、俺の心がモンスターを作り上げていたようだ。



「冒険者のチームか……」



 向こう側から来たということは帰っていく途中なのだろう。しかし、かなり深くまで潜ったのだろうか。かなり疲弊しているように見える。


 ――いやこれは、疲弊というよりは何かに怯えているような……。


 通路の中央を歩いていた俺は、そそくさと端に寄って道を譲る。

 冒険者のチームは何かを話しているようで、微かに声が聞こえてきた。



「……あの……く……おって……」



 しかし話し声は小さく、よく聞き取れない。

 そして、すれ違う。



「……なぜ……まちがい……れい……」



 まちがい? れい……?

 聞き取れた言葉の解読を試みるが……情報量が少な過ぎて断念する。

 まあ、きっとそんなに重要なことでもないだろう、と特に気にすることもなく、さらに歩みを進めて行った。


 それからしばらく行くと、第二階層のボスの広間まで辿り着いた。

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