Episode15
ダンジョンの中は意外にも明るい。
壁に太陽石という光を放つ鉱石が含まれていて、松明や篝火などがなくても空間を視認することができる。
俺がダンジョンに入ってから二十分ほどが経過していた。
何組かの他の冒険者とはすれ違ったけれど、モンスターにはまだ出会っていない。
通常、モンスターは一度倒された後に一時間ほどで復活するとされている。
まさにゲームのような謎のシステムだが、特にそれで困ることもなく、むしろエナジーが稼げるということで冒険者は当たり前のように受け入れていた。
……というか、それを言うならそもそもダンジョンという存在自体がおかしいわけで。
ともかく、ダンジョンに来ている冒険者が多いほどモンスターとは遭遇し辛く、もし直前に倒されていた場合は一時間ほど待たなければならない。
ひたすら待ち続けるという選択もありだけれど、あまりに遭遇しない場合は正規のルートを外れて、別のルートでモンスターを探すという方法もある。
「さあ、どうしようか……」
――俺は右腕を掲げて冒険者ライセンスを起動させた。
すると、新宿ダンジョンのマップがホログラム状に表示される。
このマップ機能は、世界中の冒険者のマッピング情報が記録されているというもので、現代の冒険者にとっては必須の機能の一つだ。
「やっぱり、凄い広さだ……」
いま俺がいるのは入口から少し進んだ所にある大きな広間のような空間だった。
広間からは複数の道が枝分かれしていて、それぞれの道の先を見通すことはできないが、マップを見ればどのルートが正解なのかが一目で分かる。
青く塗り潰されている道が下の階層へと続く正解のルートで、赤く塗り潰されているルートが行き止まりとなる不正解のルートだ。
俺は
「このまま進んで行く前に一度モンスターと戦いたいんだけど……ここからだといるのかどうか分からないな」
通路の途中で道が左に曲がっていて、そこから先は見えない。
どうするか、と逡巡する。
非正規のルートをソロで進むことは推奨されていない。
正規のルートと違って、様々な要因でイレギュラーが起きやすいからだ。
だけど、ここはまだ第一階層で入口からも近い。こんなところで躓いているようではどの道、先に進むことはできないだろう。
「行ってみるか」
慎重に、ゆっくりと歩みを進めていく。
五分ほど進んだところで、初めてのモンスターに遭遇した。
見た目は小さな子供で、肌は緑色。尖った耳にギョロリとした目をして、手には棍棒を持っていた。
「ゴブリン……」
そう呼ばれる、割とどこのダンジョンにもいる下級モンスターだ。敵の数は一体で、まだこちらには気付いていない様子だった。
俺は意識の中でスイッチを切り替える。
日常的な穏やかな感覚が消えていき、代わりに非日常的な荒々しい感覚が呼び起こされる。
――それは、明確な殺意。
勢いよく駆け出した俺は、一気にゴブリンへと接近する。
ゴブリンもそれに気付いたようで、大声を上げながらこちらに棍棒を振りかざす。
俺は一歩でそれを避けながら剣を振り抜くと、ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく二つに切り裂かれた。
そのまま光の粒子となって、俺の冒険者ライセンスに吸収される。
ふう、と息を吐いて肩の力を抜く。
ゴブリンとの戦闘は別のダンジョンで慣れているけれど、場所が場所なだけに油断はできない。
それでも、確かな手応えは感じていた。
「よし、いけそうだな」
その後も何体かゴブリンを倒して、一旦広間へと戻ってから青のルートを進んでいった。
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