Episode12
足立区に昔からある小さな二階建ての一軒家。
去年まではじいちゃんと一緒に暮らしていたけど、じいちゃんが亡くなってからはずっと俺一人で暮らしている。
じいちゃんが亡くなる前に俺に譲り渡してくれたもので、必要でなくなったらいつでも手放していいと言われたが、俺にはまだ全くその気はなかった。
玄関の戸を開けて「ただいまー」とか言ってみる。
返事は、もちろんない。
続けて「夜はやっぱりまだ寒いなあ」とか言ってみる。
答えてくれる人は、もちろんいない。
――ああ、じいちゃんがいればなあ。
帰宅してすぐに風呂に入って部屋着に着替える。それから一階のリビングのソファーに座って一息つく。俺は定常的な一連の流れを済ませて、テレビを付けた。
軽くザッピングしていると、やはり流れているのは九年前の事件に関するものばかりだ。
一局だけアニメを放送していて、それ以外は全て今日だけの特別番組が放送されていた。
あるチャンネルに止めて、何となく眺める。
子供を亡くしたという親が、涙ながらに事件の惨劇を語っていた。
それを番組のMCを務める男性タレントが、険しい表情で聞いている。
九年前の事件――超大規模スタンピード。
何故起きたのか理由は分かっていない。モンスターがダンジョン内で増殖して溢れて来たと言う人もいれば、人間がダンジョンに入ってモンスターを殺すから報復に来たのだと言う人もいる。
考え方は人それぞれで日頃から至るところで熱い議論が交わされているが、皆に共通している思いは、少しでも早くこの理由の解明を願っているということだ。
九年前のあの日から、人々はずっと大きな不安を抱え続けている。
また、その不安が冒険者をダンジョンという死地に向かわせ続ける理由でもあった。
その不安とは何か?
それは――再び、スタンピードは起こり得るのか?
ということだ。
スタンピードの理由が解明されたなら、もしかしたら発生を防ぐことができるかも知れない。でも理由が分からなければ対処のしようもない。
もし仮に明日スタンピードが起きてしまったら?
人類を守れるのは冒険者達だけだ。
だから冒険者たちはダンジョンに潜り続けて力を付ける。
もちろん稼ぎのためにモンスターを狩っているという人もいるけど、それでもどこかであの悲劇を繰り返してはならないと意識しているはずだ。
俺もそうだった。
大切なものを、自分の力で守れるようにと願っていた。
――だけど、それももう……。
意識をテレビへと戻すと、事件当日の映像が流れていた。
逃げ惑う人々に襲いかかるモンスター達。大部分にモザイクが入っているが、その凄惨さは伝わってくる。
子供の悲鳴が聞こえたところで、俺はテレビの電源ボタンを押した。それから、戸棚の上に置いてある写真に目を向ける。
そこには俺と両親のスリーショット写真が飾られていて、さらにその隣には俺とじいちゃんのツーショット写真が並んでいた。
「俺は……何をやってるんだろうな」
また自分の不甲斐なさを感じて涙が出そうになる。
だけど、泣いてどうにかなるわけじゃない。
涙が出ないように乱暴に腕で目を擦ってから、強く息を吐いて気持ちを切り替える。
――今の自分が駄目だと思うなら、その分これから頑張っていけばいい。
冒険者として結果が出せなかっただけで、何も俺の人生が終わったわけではないのだから。
頭を振って、小気になっている自分を追い払う。
「さあ、ご飯食べないとな」
気付けば、時計の針は七時を回っていた。
のったりと俺は立ち上がって、コンビニで買ってきた弁当をレンジで温める。
弁当がレンジの中でクルクルと回る様子をぼうっと見つめながら、ふとあることを思い出した。
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