Episode5
予約の順番を待って、黒シャツのお兄さん――名前はカズトシと言っていた――と共にフィールドに入る。
二人とも訓練用の木刀を手に持ち、正面に対峙する。
そして二人の間にはもう一人、戦闘の審判を行う施設の職員が立っていた。
戦闘のルールは三つ。
一つ。必ず訓練用の木製の武器を使うこと。
二つ。明らかな悪質行為、例えば故意的な金的や目潰しなどをしてはいけない。
三つ。制限時間七分を過ぎるか、どちらかが戦闘不能、またはギブアップしたら終了すること。
以上。それ以外は基本的に自由となる。
もちろんスキルを使用してもいいし、武器以外の魔道具の使用も認められる。
ほとんど何でもありだと言っていい。
そのため当然怪我を負うこともあるが、今のところ再起不能者や死者は一人も出ていない。
訓練場の四隅に結界を張る魔道具が備え付けられていて、結界内では常に強力な防御魔法と回復魔法が発動しているためだ。
さっき吹っ飛ばされて身体がとんでもないことになっていた人も、今ではすっかり回復して談笑しているようだった。
ちなみに俺も当然のように、この結界システムには何度も助けられている。
正確な回数は……う、うん。ちょっと多すぎて覚えてないな。
と、そんな話はさておき。
俺は改めて正面のカズトシさんを観察する。
右手に木刀を持ち、バングルや指輪、ネックレスなどのアクセサリーを着けているが、パッと見ではそれらが魔道具かどうかの判断は付かない。
だが、木刀を武器に選んでいることからも、戦闘スタイルは恐らく物理的な攻撃がメインとなるはずだ。
こちらが剣で攻撃しても、魔法による迎撃や罠などが発動する可能性は低いように思えた。
俺は頭の中で、この先の展開を構築し選択を組み合わせてゆく。
しかし考えてはみたものの、どうしたってこちらが格下であることに違いはなく。
結局、全力で当たっていくしかないという答えに至るのだが。
「準備はいいか?」
審判が声をかける。
「はい」
と俺が答えて、
「いつでも」
とカズトシさんが続く。
「カズトシー、手加減してやれよ」
フィールドの外にいる観客の誰かが笑いながら言った。
恐らくさっきの俺とカズトシさんのやり取りを見ていた、カズトシさんの知り合いなのだろう。
「うるせーよ」
カズトシさんが言う。
その顔には余裕が浮かんでいた。
他にも何人かが声を上げた。そのどれもが、カズトシさんに対する応援か、俺に対する揶揄だった。
カズトシさんも観客も完全に俺が負けると思っているのだ。
――勝ちたい。
――いや、勝たなきゃダメなんだ。
木刀を握る手に、力が込もる。
武骨な、傷だらけの手だった。
ひたすら毎日剣を振るってできた傷だ。
この手の傷を作ってきた自分に、過去の俺の努力に、今日の俺が全力で応えなければいけない。
――目を瞑って、深呼吸をする。
木刀を握る手から、身体から、余計な力を抜く。
「制限時間は七分」
審判がそう前置きをし、
「それでは、始め!」
合図と共に、戦いは始まった。
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