第36話

駆け込んできたのはカイトだった。


驚いたナタリー様は一瞬動きが止まった。

カイトはナタリー様からナイフを奪い手早く拘束した。


わたくしに駆け寄ると泣きながらロープを外すなり抱きしめて「有紗、有紗遅くなってごめん」


何が起こっているのか朦朧とする頭では理解できない。


カイトが言いづらそうに「僕が有紗を殺したんだ」それで分かった。


「と・おる?なの?」


信じられない。転生者が三人もこんなに近くにいるなんて。


それを聞いたナタリー様が「ふざけるな!あんたが有紗だなんて信じられない!カイトが透くんなら、私をもう一度選んで!」


カイトはナタリー様の声が聞こえていないのか、目も向けない。


「ごめん、ごめん・・・あの女を見張ってたのに・・こんな怪我をさせてしまった。・・あの女を殺したのも・・・僕なんだ」


え?


「ナタリー様が恵子なの?」


「そうだよ。あの女はアリシアが有紗だと気づいていなかったのに、有紗への恨みをアリシアに向けていた」


「だから守ろうと思ったんだ」


「僕は本当に君を愛していたんだ。なのに有紗を裏切り、命まで奪ってしまった。誰よりも大切にしたかったのに、幸せにしたかったのに」


「透くん、私を見て!お願い私を好きになって!」


ナタリー様が泣きなが必死にカイトに訴えているがカイトが反応することはない。


「泣かないで、透もう終わったことよ」


「それに、わたし今幸せよ?」


顔の傷がかなり痛むが安心させる為に微笑んで見せる。


「ああ、ジークハルト殿なら幸せにしてくれるよ。」


泣きながらも困ったような顔で笑ってくれた。


「アリシアの家にも知らせを送った。もうすぐここに到着するよ」


「ありがとう」

「透、貴方にも前世のことは忘れて幸せになって欲しいの。わたしは誰も恨んでいないわ」


そう透は優しい人だった。

とてもわたしを大事にしてくれていた。

だから浮気していると友人から聞かされても、すぐには信じられなかったのよね。


「もう過去のことよ。今世ではお互い幸せになりましょう?ね?」


透はカイトの顔で頷いた。


それにしてもわたくしに意地悪していたカイトが透だなんてね。想像も出来なかったわ。


それからすぐ、兄とジークが飛び込んできた。

傷だらけのわたくしを見て兄は真っ青になり、ナタリー様を切り殺そうとした。


カイトが懸命に止めに入り剣は収めたものの、まだカイトに叫んでいるナタリー様を「うるさい!黙れ!」と首に手刀で気絶させたが、怒りが治まらなくて暴れて壁に何ヶ所も穴を開けていた。


ジークはわたくしを抱きしめて泣いていた。


「無事でよかった。今度こそアリーを失うかと思った。」


ジークを安心させたいのに、もう限界だった。

ジークの温かさに包まれながら意識を失った。




目が覚めた時には治療も済んで、私室のベッドの中だった。


やっぱりこの世界の薬はよく効くわ~痛みがなくなっている!と関心していると、「アリー気がついたの?」横からジークの声がした。


ギュッと抱きしめられていることに気づいて慌てて横を見るとジークまでわたくしのベッドに入っていた。


なんで???


「ギャーっ」と叫んでしまったわたくしは悪くないと思うの。


わたくしの悲鳴で兄が部屋に飛び込んできたがわたくしをベッドの中で抱きしめているジークを見て状況を把握したらしく「ジークが離れなくてな、婚約していることだし母上が添い寝を許可したんだ」


なるほど??

婚約しているからいいのか?


「いやいや男性とベッドに入るのは結婚してからでしょ?」


兄とジークも首を傾げて頭に???マークが見える。


「え?でもシアは前世では22歳まで生きていて彼氏もいたんだろ?それなりに経験もあるはずだろ?」


なんだそれ!


「はぁ?わたくしは結婚まで清い体でいるって決めてたのよ!前世も入れてキスだってジークが初めてだったわ!」


何を言わすんだ!

自分で言って恥ずかしくなる。


ジークは満面の笑顔になってわたくしを抱きしめる。「アリー僕嬉しい!」


兄は馬鹿にしたような顔で見てくる。

なんでだ?解せぬ。



それから両親も部屋に来てくれた。

父はオイオイと泣き。わたくしを抱きしめようと手を伸ばしたがジークに阻止されいじけていた。

母は無事で本当によかったと頭を撫でてくれた。


顔の傷も綺麗に治ると聞いて安心した。



ナタリー様にはキツイ処分が下されるだろうと聞かされた。

資料室で会った女子生徒は万引きを見られ脅されて手を貸してしまったそうだ。

もちろん女子生徒もそれなりの罰が与えられる。

担任を連れ出した男子生徒もグルだとか。


カイトには命の恩人だということで相当な御礼を申し出たのだが断られたと言っていた。




それから兄とジークにはわたくしとカイトとナタリー様の因縁を話した。


兄もジークも思うところはあるようだったが、何も言わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る