第35話

わたくしも今日から最終学年の3年生になった。


一年生の時も、二年生の時もあっという間に過ぎてしまった。


一年後には大好きなジークと結婚する。


この一年間は思い出をいっぱい作ろう。


なんて呑気に考えていた。


それは三年生になって一週間程した頃。


担任(女性)に授業に使う資料の準備を手伝って欲しいと頼まれ、放課後残って資料室で担任と二人楽しく会話も混じえて準備をしていた。

そこに、下の学年の男子生徒が緊急だと担任を連れて行ってしまった。

あと少しで終わるし、終わったらそのまま帰ってもいいと言われたから、そのまま資料室に一人で残ったの。


そこへ顔は見たことあるが名前までは知らない女子生徒がノックをして入ってきた。必要な資料を取りに来たと言うから、自分に与えられた資料の準備も終わったことだし帰ろうとしたところで、背後から頭に衝撃を受けた。

油断した、力も入らず痛みで頭がクラクラするわたくしに薬品を染み込ませたハンカチを嗅がされ意識を失った。



気がついた時には手は後ろに、足は椅子に縛りつけられて、どこかも分からない場所にいた。


小さいが窓から陽の光が入ってこないのを見るにもう日が落ちているのだろう。


学園で待たせている馬車の御者がおかしいと気づいて実家に知らせてくれてるかしら?


それとも帰りの遅いわたくしを両親や兄が気づいて探す手配をしてくれているかしら?


どうやって学園から人一人を連れ出せたのか、犯人は誰なのか協力者がいないことには出来ないだろう。

犯人は2人以上よね。


口を塞がれてないのは、周りに建物や人通りがないから?


手だけでも縄抜けでロープを外そうとしたところで、外から鍵を開ける音がした。

一旦ロープを解くのをやめた。


入ってきた人物を見て、驚くことはなかった。

そう、ナタリー様だったから。


ずっとわたくしに接触してこなかったのに今さら?

ナタリー様が口を開いた。


いつもと様子が違う?



「ねえ、貴女にいい事教えてあげる」


「私ね転生者なの。前世で大好きな人がいてね、その人は親友の彼だった。どうしても手に入れたくて甘い言葉で誘ったわ」


隙を見ながら黙って話しに集中する。


「簡単に体の関係は持てたのよ。手に入れたと思ったのに彼は遊びだった。彼女にバレるなり私を捨てたのよ。彼にとって大切なのは彼女だけだった。」


「それがわたくしに関係あるの?」


「勝手に喋るんじゃないわよ!」


突然取り憑かれたようにナタリー様がわたくしの顔を何度も力一杯殴ってきた。

口の中に鉄の味が広がる。

殴られる度に頭がクラクラする。

その勢いで椅子ごと一緒に倒れた。


「この世界に転生して好きになったアズール様もあんただけを見ていた。あんただけに見せる優しい目でね」


「だから階段から突き落としたのに無傷だなんて悪運だけはよかったのね。ふふっ死ねばよかったのに」


もうナタリー様の目がおかしい。


「アズール様は私が何をしたかも知っている、だからもう手に入れることは出来ない。それは分かっているの。」


「でも、あんたが前世の親友とかぶるのよ!あんたを見ているだけでムカつくの!あんたが幸せになるのが許せないの!」


そんなの八つ当たりだ!


「彼から呼び出されて嬉しくて、親友を待ち合わせ場所に呼んだの。見せびらかす為にね。それなのに彼は私を殺そうとしたの。そして私を庇った親友を刺して殺してしまった」


1番の被害者は彼女だろ!


「彼は泣きなが私を何度もナイフで刺したわ。『お前のせいだ!お前のせいだ』と繰り返し何度も刺しながらね」


「なぜあんたがこんなに憎いのか分からないけど、あんただけは幸せになんかさせない!ここで殺してやる!」


ナタリー様の言っていることは前世と今世がごちゃ混ぜになって支離滅裂だ。


椅子に足を縛られて起き上がれないわたくしを今度は足で何度も蹴る。



もう痛みに意識も途切れ途切れになってきた。頭もズキズキ痛い。


今世でも殺されるの?


もうダメかもしれない。



ナタリー様がナイフを振り上げた瞬間、扉が勢いよく開いて「有紗」と前世の名前を呼ばれた。

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