第34話

それからも、アリサ様は1人で行動していた。

たまにアリサ様が令息に声をかける所を見かける。

それも腕に掴まろうとしたり、よろけた振りをして抱きつこうとしたり、見ているこっちが恥ずかしくなる程演技が下手だ。

令息もさり気なく躱し去って行く。


あそこまでいくと可哀想な気もするが、こっちから近づく訳にもいかず様子を見ることしかできない。


ナタリー様はアリサ様を気にかける様子もない。

相変わらず隣には男性を伴っている。

男性を取っかえ引っ変え次々変えるナタリー様の評判は当然よろしくない。


いまだに目が合うと睨んでくるのが分からない。

姉妹でなんの恨みがあるのかわたくしを敵視している。






警戒はしたまま月日は流れ、兄とジークの卒業式は明日だ。


それまでは毎日学園でも楽しく過ごすことが出来た。


相変わらず、ジークはわたくしを大切にしてくれるし、兄だって毎日鍛錬にも付き合ってくれていて、なんだかだと甘やかしてくれる。



そして、ジークとの結婚式の話しまでがトントン拍子で進んでいく。

ジークの懇願で結婚式はわたくしが卒業してすぐに行われることになった。


エルさんにお願いするウエディングドレスのデザインで盛り上がる母とジークの様子を父はムスッとした顔で、兄は呆れた顔で見ている。


ジークとの結婚が目に見えて現実になろうとしている。

前世では19歳と18歳の結婚なんて、出来ちゃった婚が多かったが、この世界では別に早すぎる事もなく普通によくあることなの。


ジークのお嫁さんになる?

ジークと結婚すればキス以上のこともするのよね?

想像するだけで、ドキドキするのに怖いような、ジークをわたくしだけのものに出来るのが嬉しいような、言葉では表せられない気持ちになる。


この世界の貴族の令嬢はそうでない令嬢も少なからずいるが、結婚するまでは純潔を守ることが前提になっている。






そして、卒業式も滞りなく終わった。

もちろん断罪なんてないわよ。


もう一緒に登下校もランチも出来なくなるのかと思うと寂しさでいっぱいになる。


ジークだって、すぐに侯爵家当主を引き継ぐことになると最近になって教えられた。


そうなると今ほど毎日は会えなくなるかもしれない。


ジークの両親は別れることなく、邸を出てそれぞれの愛人と生活をすると聞いた。


ジークの家庭環境も少なからず知っていたから、ジークを愛してもくれないあんな両親なら側にいない方がいい。

その代わり、わたくしがジークを全力で愛していくわ。


これからは気兼ねなくジークのアズール家にも行けるようになる。

執務を頑張るジークに手作りの差し入れもしよう。

うん、ジークならきっと喜んでくれる。



何もかもが順調すぎたから、頭の片隅にはあったのに、警戒を怠ってしまってたの。

だからあんな事になってしまった。



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