第30話ゆきるはミントを手に隠す

「きゃーーーー!!

どうなってるの??

でも、空飛ぶのたのしー!!

ゆきる、朝日がキレイだよ!」


「ぎゃーーーー!!!」


おれは、気がつくと海に落ちて、海の深いところまで落ちている。

苦しくて息ができない。

でも、水耐性のおかげで不思議と平気だ。


色とりどりの珊瑚が深いところまで続いていた。

数えきれない小さな魚や大きなエイが泳いでいた。

太陽の光がキラキラを明るく海中を照らしていた。


となりで、みちなが興奮して、ゴボゴボ話しているが、聞こえない。

でも、無事のようだ。

はぐれないように、みちなと手を繋いで海面を目指して、ゆっくり泳いでいく。


「ぷはーーー!!

やっと、空気が吸えるわ!!

はーー!!

めちゃくちゃカラフルだったね!

わたし、また潜りたいな!」


「はぁ、はぁ。

おれたち、飛ばされたり、落ちたり、そんなのばっかりだよな。

いったいここはどこなんだろう。

コントン島よりだいぶ遠くまで飛ばされてきたみたいだ。

あの、大きなモンスターは、なんなんだよ。

しょうこは、どうなったの?」


「ちょっと待って、カモメが何か教えてくれてる!

この先に、島があるの?

ねぇ、なんで笑ってるの?

あーー!!

行っちゃったぁ。

太陽の方に泳げって。

行ってみよう」


どれくらい泳いだだろう。

みちなが海の中に流れを見つけて、流されるように泳いでからは、面白かった。

海に身を任せて、魚と一緒に泳いでいく。

自分まで魚になったみたいだ、

気がつくと、真下に大きな鯨がいた。

みちなは、鯨と話までしているみたいだ。

マーメイドみたいで、太陽に照らされて輝く姿に見惚れてしまった。

みちなと鯨は、一緒に歌を歌っているように見えた。

唸るような振動が、海に響いている気がする。

思わず「なんてキレイなんだ」と言ってしまったけど、大丈夫、海の中では聞こえないはずだ。


みちなが、海面に上がるジェスチャーをした。


海面に上がると、驚いた。

本当に島があった。

砂浜から陸に上がると、こじんまりとした林があった。


「寒ーい!

もう9月だしね。

海の中の方が温かい気がするわ。

ゆきる、焚き火しよう!」


おれは、手早く準備をして、焚き火を始めた。

サバイバルのレベルも上がっていると思うと、誇らしい気分だ。


みちなが、薪になりそうな枝を集めてきた。


「あったかーい!

ゆきるって、本当に役に立つわね。

一緒に暮らすならこう言う人がいいな。

そうそう、わたし、お腹も空いたんだけど。

もうお昼だし。

釣り竿になりそうな長い木の棒見つけたんだけど、これでなんとかならないかしら

結構しっかりしていて、固いわよ」


「おいおい。

おれをなんだと思ってるんだよ。

別に何でも出てくるわけじゃないよ。

でも、確かに、いい棒だな。

たしか、釣り糸と針はバックパックにあったような。

あった!

試しにやってみるか。

でも、最初に言っとくけど、魚って言うのは、そんなに簡単に釣れないんだぞ」


おれは、土を掘り返したりして、餌になりそうな虫やミミズを探した。

でも、なかなか見つからない。

折りたたみ式のバケツをバックパックから出して、準備はできた。

手作りの竿を振る。

おれは、みちなにトンボを操らせて、仕掛けを遠くに持っていくことにした。

トンボは、そのままエサにもなった。


これは、すごい発明だ。


何度か試して、試行錯誤するうちに、なんとか、ちゃんと釣りの形になった。


「ねぇ、ゆきる。

しょうこって、あの時なんで、壁の向こうに行っちゃったんだろうね。

モンスターに食べられちゃったし。

でもね、なんか、しょうこのことだから、何が理由があったんだと思うのよ」


「そうだよな。

おれもそう思う。

死んだ、とか、悲しい、とかじゃないんだよな。

しょうこは、何か目的や計画があって、自分からそうしたんだよ。

おれにお守りを託す時、しょうこの顔は、死んでなかった。

むしろ、あれは、勝算のある時の顔だったよ」


「そう!

わたしもそう思う!

壁の向こうで、何かをわたしたちに話しかけていた時、ドヤ顔だったもの。

何を話していたのは、分からなかったけど」


なかなか、魚は釣れなかった。

3時間くらい経っただろうか、太陽が下がってきていた。


「そうだ、お腹空いたから、しょうこに作ってもらったマムシの粉を飲もうぜ。

水筒に水が入ってるから」


「うえー。

またあれ飲むの?

でも、贅沢はいえないか。

魚も釣れないしね。

自然は甘くないわ。

マムシでも、飲むしかないわね」


「くーーー!

なんかいかにも効きそうな味だよな。

身体中が熱くなる気がする。

お!

な、なんか、引っかかった!

これどうやって、魚を引き寄せるんだ?

ちょっと、みちな、釣り竿を握っていてくれ!」


「わわわ。

持ってることしかできないわよ!」


おれは釣り竿をみちなに持たせて、糸をたぐりさせる。

当たりは強い。

丁寧に糸を木に巻きつけていく。

そして、大きめのアジに似た魚が釣れた。


「おおお。

これは、かなりの釣果だよ!

でも、2人で食べるには、ちょっと小さいかな

ははは」


「へへーん。

わたしを誰だと思っているのよ。

大きくしてあげるわ!

んーーー!!!

ほい!」


「おお。

これはすごい。

サバくらいになったな。

その魔法、便利すぎるだろ。

動物やモンスターと話もできるし。

虫くらいなら操れるしさ。

最高かよ」


「いいでしょ!

魚は、やっぱり水耐性があるのかしら、魔法の効きが悪いわ。

釣れたから、大きくもできるのよ。

やったわね!

あれ?

ゆきる、空を見て!

どうして隕石がここから見えるの?!」


空を見上げると隕石が太陽と重なって、日食が起こっていた。


晴れているのに、雷だろうか?


遠くの空で、強い光がピカピカ、ゴロゴロ鳴っていた。

そのせいか、海は、ひどく荒れてきた。


「わたし、怖い。

なにか、とてつもないエネルギーが集まっているのを感じる」


みちなは、おれに抱きついて震えていた。


それから少しすると、すっかり晴れて、隕石は無くなっていた。


「もう大丈夫みたいだよ。

何だったんだろうな。

よく分からないけど、魚をさばこうかな。

食べきれない分は、干物にするか」


おれは、大きな平たい岩の上で大きな魚をナイフでさばいていく。

ウロコをとって、内臓を取り出す。

大きな3枚にまでおろせば、上出来だろう。


「ゆきる!

すごい!

すごいわ!

今日ほど、輝いて見えた日はないくらいよ。

小5で、ここまでできる子なんていないわ。

わたし、感動しちゃった!」


「さばき方は、お父さんに教えてもらったんだ。

こんなに大きな魚をさばいたのは、初めてだったけど。

ちょっといいナイフを持っていてよかったよ。

お母さんは、こんなナイフまだ早いって言ってたんだけど。

亡くなったじいちゃんがこっそりくれたんだ」


おれは、去年じいちゃんがこのナイフをくれた時のことを思い出す。

じいちゃんがずっと使っていた、使い込まれたナイフだった。

お父さんと御嶽山に登山に行く前だった。

「ゆきる、これはお前の責任だ。誰かを助け、守れ」と言っていた。

普段は優しいのに、この時は、見たことがないくらい厳しい目をしていた。


みちなが、小ぶりな洞穴のような場所を見つけた。

おれたちは、焚き火を囲んで、魚を焼いて食べた。

これまで食べた中で1番美味しい魚に思えた。

味付けは大雑把だし、ところどころ黒焦げているけど、自分で釣って、焼いて食べる魚より美味しいものはない。


魚を焼いて食べ終わると、もう日が暮れて、夕闇になった。

焚き火の灯りが温かい。


おれはバックパックから、携帯用のアルミの保温シートを出した。


「でも、このアルミの寝袋、1つしかないんだよな。

みちな、使っていいよ。

おれは、焚き火の番をしてるから」


「あ、ありがとう。

ゆきるって、ほんと面倒見がいいわよね。

ねぇ、ゆきるが優しいのは、わたしにだけ?」


「は?

今は、みちなしかいないだろう?

幽霊でも見えてるの?」


「ばっかじゃないの?

そう言う意味じゃないわよ!

もういい!

わたし、寝る前に、歯を磨きたいわ。

歯ブラシ持ってない?

さっきミントの葉っぱを見つけたの、根っこごと引き抜いてきちゃった。

お魚美味しかったけど、口が魚の匂いのまま、寝れないわ。

歯を磨いて、ミントで口を爽やかにしたいの」


「歯ブラシならあるよ。でも、1本しかない。

みちなが使っていいよ。

はい、どうぞ」


おれは、バックパックから袋に入った歯ブラシを渡した。


「なんで、寝袋も1つ、歯ブラシも1つなのよ?!

これ歯磨き粉ついてないし。

気がきくのか効かないのか、中途半端ね。

とにかく、じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」


今日のみちなは、文句が多い気がする。

ぷんすか言いながら海辺にいくと、歯磨きを済ませて戻ってきた。


「はい!

ありがとう。

ちゃんと洗ったから、ゆきるが使ってもいいわよ。

特別に許してあげる」


「やだよ。

人が使った歯ブラシなんか使うわけないじゃん。

いいよ。

しっかりうがいするから」


「なによ!

それ!わたし、虫歯もないのよ?!」


「はいはい。

もう、いいから、もう寝なよ。

今日は、疲れているはずだしさ」


みちなは、ゆきるのアルミ保温シートにくるまって眠る。

少しかけた大きな月が夜空に光っていた。


「ねぇ、ゆきる、眠たくなったら、寝袋に入ってきてもいいわよ。

外は、寒いし」


「はいはい。

ありがとう。

だいたい、おれの寝袋を使わせてあげてんだからな。

感謝しろよな」


しばらくすると、みちなは、すやすやと眠っていた。

おれは、焚き火に薪を足した。


結局、やっぱり歯ブラシを使うことにした。

そして、みちなが見つけてきた、ミントの葉を噛む。

思ったより、ずっといい感じだ。

口の中がさっぱりする。


おれは、ミントの葉を3枚、握りしめた。

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