第28話しょうこは博物図書館で謎を解く 後編(大玉)

「はぁはぁ、わ、我が輩がこの石板をお読みしましょう。

ここには、神々の言語が書かれております。

他には、ニンゲンの国の言語、そして、1番下にはネコの言語で書かれています」


プトレマイオスは、大きく息をしながら、石板を読み始めた。


「え?ネコに言語があったの?

どんな文明よ!?

あたしはそんなの聞いたことないわ!

なんかちょっとワクワクするわね!

でも、ピーちゃん、様子が変だけど大丈夫??」


「だ、大丈夫です。

かつて、レベルXボリュームXの日に、コントン島のネコ文明は滅びたのです。

しかし、神々は、生き残った我輩のためにネコの言語を残したのでしょう。

それでは、読みます。

はぁ、はぁ。


この先には、迷路がある。

迷路の抜け出し方は、突き当たりを右、左、下、左、上、左、右、左、以上。


はぁ、はぁ、もう我慢できません。

我輩は、先に参ります!」


人の大きさになったプトレマイオスは、試練のドアを勝手に開けて先に行ってしまった。


みちなを先頭に、私はゆきるに背負われて、試練の門をくぐる。


「あー!わたし、これ遊園地でやったことある!

ミラーハウスだ!

この迷路の壁は、鏡になっているのよ。

しょうこは、目が見えないから、かえって冷静になれるかもね。

わたしは、クラクラするわ。

なんか変な匂いもする気がする。

嗅いだことがあるのような、ないような」


「よし!しょうこ、右とか左とか指示してくれよ。

目敏いみちなが道を確認して、おれがしょうこをおぶって、しょうこが指示を出す。

これがおれたちのコンビネーションだな」


「ふふふ。たしかにそうかもね。

最初は突き当たりを右よ」


私たちは、マチガイが無いように毎度確認しても、3回とも

同じ場所に戻ってしまった。

どこにもプトレマイオスが見当たらないのも変だ。

そして、ゆきるは、なんだか元気だ。


「よし!もう1回行ってみよう!」


「ちょっと待ってよ。

わたし、疲れてきたし、迷路の中でなんか好きじゃない匂いがするの。

ちょっと休憩しようよ」


私たちは、迷路の入り口で座ることにした。


私は、なんだかすごく引っかかる。

プトレマイオスが先に行ったのにどこかに行ってしまったこと、そして、なぜ明るいのか、不思議な匂いも分からない。

そして・・・


「あ!わかった!

そうよ!きっとそういうことだわ!

ゆきる、おぶって。

みちな、私を先頭にしてほしい」


「え?どういうこと?

わたしは、しょうこについていけばいいの?」


「少しだけ、パズルのピースが繋がったのよ。

ゆきる、壁を気にしないで直進して。

きっと何か仕掛けがあるはずよ」


ゆきるは、戸惑いながら、鏡に触れる。


「あれ?

本当だ!鏡に見えて、壁じゃない!いけるよ!」


私たちは、何枚も鏡を突き抜けて真っ直ぐ進んだ。


「これは、またたびの匂いよ。

しかも、強烈な。

プトレマイオスは、この匂いに引き付けられて行ったのよ。

目に頼ると迷うようにできていたのよ。

この迷路は」


私たちは、下り道を何度も曲がりながら歩いた。


「すっごく広いところに出たよ!

なんか水族館の大水槽みたいなガラスの壁が目の前にある。ガラスの向こうには、なんだろう大きい黒いお化けみたいなものが閉じ込められているわ。

なんか、見ているだけで怖いわ。

どこが目かも分からない。

わたし、見ているだけで、なんだか寒気がする。

あれを見て!

広間の中央に石板と、運動会の大玉みたいな赤い玉があるわ!

ガラスの壁には3つの穴が空いているのね。

穴に向かって三叉の溝が、床に掘られているわ。

なにかしら。

あ、ピーちゃんもいる!」


私たちは、石板のプトレマイオスのところに歩いて行った。


「先程は、大変失礼致しました。

この抵抗できないようないい匂いは、この石板から出ているようです。

気がついたら、一心不乱に石板に擦り寄っておりました。

これはもう、ネコにはどうしようもありません。

今はもう、だいぶ落ち着きました。


この石板には、こう書かれています。


大玉を溝に沿って、正しい穴に転がして入れよ。

左の穴は、全員即死

真ん中の穴は、渾沌に食われる

右の穴は、分断の戒めを解く


石板の1番下には、考えるな感じろと書かれてあります。

シラカシ王さまが言っておられたのは、これでしょうか。

他には、不思議な絵が書いてあります。

3匹の蛇が尻尾をかんで円になっている絵が書かれていますね」


「おお!これはもう楽勝だな!

下を見てみろよ!

ここはピラミッドの底辺近くなんだ。

床もガラス張りになってきて、光る地面のTの字が見えるよ」


「たしかに、ゆきるの言う通り、これで試練はクリアね。

あとは、わたしとゆきるで大玉を右の穴に入れれば、分断の戒めが解けるのね」


「ちょっと待って。

あぁ!すべての謎がつながる。

つながるはずのないものが。

どうして?

いや、まさか。

そんなはずはない。

でも・・・

ゆきる、お願いがあるの。

私のお守りを預かってほしい。

持っていたらこの後、無くしてしまうような気がする。

私が、空を仰いで笑うことがあったら、返してちょうだい。

お願い。

私も上手く理由が説明できないの。

考えるな感じろ、よ。

得意でしょう?」


「お、おう。

どうした?急に。

まったく何がなんだか分からないけど。

任せろ。

おれのバックパックに入れておけば、無くすことはないんだから」


私は、母からもらったお守りをゆきるに渡した。

もうこのお守りには、マムシも牛黄も使い切って入っていない。


「よし!みちな、大玉を転がそう。

ゆっくり押して、おれが方向を決めるから。

しょうこは、ここで待っていて」


私は、冷たいガラスの床にしゃがみ込む。

2人が少し離れたのを感じてから、プトレマイオスに質問した。

そうだ、もっと早く聞けばよかったのかもしれない。

でも、それは、今になってしまった。


「プトレマイオス!

答えてちょうだい。

あなたは、いつどこからきたの?」


プトレマイオスは、凄みのある声で言った。


「何を今更!

言うまでもないでしょう!

と、言いたいところですが。

このあと生まれるあなたさまと一緒に、あなたさまが創った隣の宇宙から参りました。

そう言えば、分かりますか?

いや、まだ、今は、分かるはずがない。

しかし、こちらは、どれだけ永い間お待ちしたことか。

3万年、それは途方もなく長いお留守番でした。

レベルXボリュームXの日も、1人で生き延びたんですよ?

まぁ、ここまで来ていれば、私が無理矢理にでも、預った役目を果す覚悟でした。

これは、千載一遇、いや、億に1度よりもっと稀なチャンスでしょうから。

隣の宇宙から持ってきたりんごをちゃんとお食べになったのが、よかったのでしょうか?

我輩の姉上は、時が来るのを待ち、あなたさまと暮らしました。

そして、命をかけてあなたさまがここに来るように尽くしたのでしょう。

その身を捧げた姉上を思うと、我輩は、気持ちをうまく整理できません。

しかし、我輩は、必ず役目を果たさなくてはなりません。

ひとまず、無理矢理あなたさまを真ん中の穴に押し込む必要はないようですね」


「ちょっと!何をピーちゃんと話しているの?

ぜんぜん聞こえないけど?

しょうこ、いいよね?

大玉を右の穴に入れちゃうよー!」


「そのまま大玉を右の穴に入れてちょうだい!

それで上手く行くわ!

大丈夫よ!」


私は、できるだけ元気に大きな声で言った。


ゴロンと大玉が穴に入った音がした。

穴が塞がれたのだろうか、右の穴の方からガシャンと一度音がした。


私は、震えながらプトレマイオスに言った。


「買い被らないでちょうだい。

私は、まだ1つもわかっていないわ。

まだ、ただのしょうこのままよ。

未熟で、なにも悟らないまま。

今も全ての謎は、謎のまま。

傲慢で、無知で、非力で卑しい人間のまま。

結局、私は何も分からなかった。

考えるな感じろ、それしかないのよ。

ただ、1つだけ言えることがあるわ。

幼いころから、私には、謎がまとわりついてきている。

その謎の正体が、この壁の向こうにつながっていることだけは、強く感じる」


プトレマイオスは、かしこまって言った。


「それで充分すぎるほどですよ。

むしろ、恐ろしくさえあります」


すると、大きな揺れが起こった。

小刻みに震えが続き、私は地面にしがみつく。


プトレマイオスは、私を抱き抱えた。


「わーい!やったー!!

ゆきる!しょうこ!

分断の戒めが消えたわ!

わたしたち!やったんだわ!

あれ?しょうこがいない。

ピーちゃん?どうしてそこにいるの?

その穴は、マチガイよ!

コントンとか言うのに食べられちゃう!

入っちゃダメ!!!」


私は、プトレマイオスに抱き抱えられて、真ん中の穴の前に行く。

そのまま、プトレマイオスと真ん中の穴の中にはいる。

真ん中の穴が閉まる音がした。


ゆきるは、猛ダッシュしてきた。

明らかに魔法で身体を強化していた。

そして、閉まった入り口を力一杯叩いた。

力ずくで開けようとしても、入り口は開かなかった。


ゆきるとみちなは、ガラスの壁越しに私が黒い化物に渾沌に向かって歩いているのを泣きながら見ている。

分厚さが3メートルはありそうなガラスの壁は、音も通さなかった。


ゆきるとみちなの声は一切届かずに、渾沌の地響きのようなうめき声だけが聞こえる。


私は、プトレマイオスを抱き抱えて、振り向いて最期に言った。


「私は、なによりも友達がほしかったの!

なによりも!

2人と出会うために、私は、ここにきた!」


みちなとゆきるには、聞こえない。

それでもいい。


私は、ゆきるとみちなの方を指差した。

そのあと人差し指と中指を、自分に向けた。


ゆきるとみちなは、訳が分からず、キョトンとしていた。


渾沌が私に気づいたようだ。

恐れは、もうない。

あるがまま、あること。

それだけ。


渾沌は、私を食べようとした。

しかし、私も、渾沌を食べる。

すると、身体の中で、光と闇の大爆発が起こった。

見つけていたものは、全て燃えて灰になった。

身体が膨張していくのが分かる。


ゆきるとみちなは、必ず助ける!!!


私は、拳でガラスの壁と天井をアメ細工のようにバラバラに壊した。

そして、ゆきるとみちなをできるだけ優しく掴んだ。

私は、ピラミッドを登って、博物図書館の頂上に行く。


もう夜が開けて、朝日が出ているのを感じる。


私の身体がピラミッドを包み込む。

おびただしい情報が身体に流れ込む。


出来るだけ遠く、でも、帰ってこれる場所まで!


私は、ゆきるとみちなを力一杯、放り投げた。

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