第27話しょうこは博物図書館で謎を解く 前編(狛犬)

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!

宇宙船!?」


ゆきるは、大袈裟に驚いた。

私たちは、サイクロプスの手の平に乗って、森を進んでいた。


目が見えない私は、ドシンドシンと歩くたびに揺れる中、サイクロプスの手の平にしがみつくのがやっとだ。

夜風は少し冷たいけど、サイクロプスの手のひらは、少し温かった。


みちながサイクロプスの説明を聞いて、丁寧に翻訳してくれた。


「宇宙船なんかじゃない。

これが博物図書館よ。

確かに、古代の建造物というより、未来の超科学みたいな感じだけど。

銀色のピラミッドが、木の高さくらいに宙に浮いている。

横の長さは、サイクロプスが寝転んで5人分なんだって。

昔は宙に浮いていなくて、測ったことがあるみたい。

ピラミッドの高さは、サイクロプス3人分あるらしい。

銀色のピラミッドの下の地面には、光線が刻まれていて、その線が伸びて、コントン島を分断してるそうよ

あ、たしかにTの字で地面に刻まれた線が光り輝いてる!

ちょうどTの線と線がぶつかる要にピラミッドがあるんだわ」


想像するだけでも、途方もない建造物だ。

見たことはないけど、本で読んだエジプトのクフ王のピラミッドよりひと回り大きいだろうか。

でも、その大きさの建造物が、どうやって浮いているんだろう。


みちなは、私の目の代わりになって、周りの状況を教えてくれるから、助かる。


「ねぇ!サーチライトみたいな光がたくさん飛んでるわ。

月明かりに照らされているだけじゃなくて、ピラミッド自体も光っているし、昼間のような明るさよ。

ピラミッドの周りを光を出すミラーボールみたいなものが飛び回ってるわ!

侵入者を見つようとしてるのかしら」


「おい!

見ろよ!

虫だ!

たくさんの虫が光り輝くピラミッドに集まってる。

でも何か変だ。

虫を集めているのかな。

虫たちは、ツルツルのピラミッドの側面を滑ってピラミッドの中に吸い込まれてるよ。

なんためにこんなことをしているんだろう」


サイクロプスが立ち止まった。

私は、揺れが収まって、やっと生きた心地がした。


「やばい!

とんでもないやつがいる!

スフィンクス!?

なんかデカすぎる狛犬みたいなのが2匹いるぜ!

四つん這いの高さが、サイクロプス以上ある!

しかも、生きてる!

おれには、今そこまでの力は出ないよ!

魔素が薄すぎる。

戦ったら、負けるよ。

本能でわかるんだ。

ルシファーより、さらに数段ヤバい。

あれには絶対に勝てない。

格が違いすぎる」


「だまれ!子供たち!本当にうるさいねぇ!

あー!やだやだ、やだね。

人間ってのは、いつだって野蛮だよ。

弱いくせに、すぐに戦おうとする!

あたしたちは、ピラミッドの番人スフィンクスって言うんだよ。

あんたたちは、なんだい?!

ここまでくるってことは、戒めを解く使者なんだろうね!

え?サイクロプス、あんたの友達の友達?!

あんた、そりゃもう友達じゃないか!」


「ネェさん、こいつらもう最初の試練はクリアしてるよ。

最初の試練は、森の番人サイクロプスの許しを得ることなんだから。

僕は、なんかそんなのあり?!って思うけどさ」


「たしかに、本当に、やだね!

なんかズルしたんじゃないのかい?

イカサマは、許さないよ!

友達でも試練の役割をしなきゃダメだろ!

ちゃんと仕事しな、サイクロプス!

あたしたちは、ちゃんと役目を果たさなきゃねぇ、可愛い弟よ」


「よし、僕たちの試練は、なぞなぞだよ。

大昔からスフィンクスのなぞなぞに答えられなかったら、食われちまうことになってるのさ。

だから、お前たちも食ってやる!

ネェさん、どのなぞなぞにしようか。

ずーーっと2人でなぞなぞを考えていたから、108個もあるよ」


「そうだね。

それじゃあ、選ばせてやろう。

あたしたちの選りすぐりのなぞなぞ、どうせ1つも解けやしないさ!

1から108まであるんだ。

何番にするかい?」


ゆきるは、みちなに助けを求めた。


「みちな、おれは、なぞなぞ苦手なんだよ。

何番にするって聞かれてるけど、どうしたらいいんだよ?」


みちなは、困ったように答えた。


「わたしだって、なぞなぞなんか嫌いよ!

ゆきる、おれたちは強い!とか言ってたじゃない。

もうちょっと、シャンとしてよ。

リーダーなんでしょ?

でも、いきなり戦うとかじゃなくて、よかったわ。

恐ろしく強いわよ。

あのスフィンクスたち」


私は、迷わず言った。


「1番よ!1番のなぞなぞをちょうだい!」


「なんだって!?

おい、お前たち!

僕たちの話をちゃんと聞いていたのかい?

ずっとたくさん作り溜めてあるんだよ!」


「そうだよ!

聞いたあたしがバカだったよ!

なんで、よりによって最初に作った1番何だい!

面白くない!

変えるなら今だよ!

さっさと変えな!

何番のなぞなぞにするんだい?!」


私は、繰り返して強く言った。


「絶対に1番よ。

私は、なんでも1番が好きなの!」


「おい!しょうこ、大丈夫かよ。

目が見えてないから、分からないかもしれないけど、めちゃくちゃ機嫌悪くなってるぜ?!

おれたちは、もう、しょうこに賭けるしかないからさ?

どうするんだよ!?」


「任せておいて。

ゆきる、みちな。

私は、もう3番目の試練のことを考えてるわ」


「なにを!?

ほざくなよ!盲目の小娘よ!

なにを呆れたことを言っているんだい!

じゃあ、お前の自信をへし折ってやるよ。

ボッキボキのケチョンケチョンにしてやるさ!

弟よ!言ってやりな!

あたしたちの最強のなぞなぞを!」


「よし。

もう後戻りはできないよ!


朝は四本足、昼は二本足、夕べは三本足。

この生き物は何か?


さぁ、どうだ。

お前たちのような子供には絶対にわからないはず。

これは、最強のなぞなぞだよ」


私は、1秒もおかずに答えた。


「それは、人間よ」


「あーーー!!!

やられた!

やられたよ!!

あんた、答えを知っていたね!

絶対知ってたよ!

くそぅ!なんてこったい!

ズルだよ!

イカサマだ!!

キーーー!

こんな悪いやつ、この世にいたのかい?!

悪魔なんじゃないかい?!

いや、悪魔よりも、もっと意地悪だよ!!」


「ネェさん、落ち着いて。

それでも、僕たちは負けたんだよ。

それに、僕は、少し嬉しいよ。

もう誰も来ないかと思っていたくらいだしね。

そうしたら、僕らのことをちゃんと知っている人が来たんだもの。

やっぱり、なぞなぞは、解かれてこそ、面白いよね。

誰にも解けないなぞなぞは、実はまだ、なぞなぞとは言えないのさ。

さぁ、行きなよ。

サイクロプス、ピラミッドの真ん中あたりの入り口に連れて行ってやりな。

お前なら手が届くだろう」


サイクロプスは、私たちを手の平に乗せたまま、ピラミッドに近づいているのだろう。

私は、グラグラ大きな揺れに耐えるために、サイクロプスの手の平に必死でしがみつく。


「ばいばーーい!

狛犬さん!

またなぞなぞで遊ぼうね!」


「キーーー!!

あたしたちはスフィンクスよ!

狛犬じゃないわ!

あんたたちなんか、残る107個のなぞなぞ、1個も解けないわよ!

返り討ちにしてやるわ!

こっちは、遊びじゃないんだよ!

食ってやる!

次は、絶対に食ってやるからね!!」


ゆきるは、安心したように言った。


「おれは、結構やばいと思ったよ。

なんで答えが人間なのか、今も分からないし。

やっぱりしょうこと一緒にきてよかったよ。

ありがとう」


「ふふふ。

いいのよ。

楽しかったわ。

たしかに他の107個は、解けたかどうか分からないわ。

それにまさか、1つめの試練がサイクロプスだったとはね。

1つ目だけに、1つ目、なんてね。

それより、なんかプトレマイオスの様子が変だけど。

大丈夫?」


私は、目は見えないけど、気配に敏感になっていた。


「そうなの。

ピーちゃん、なんか、はぁはぁ言ってる。

ピラミッドが近づくにつれて、クラクラしているみたい。

今は、ゆきるがサイクロプスから落っこちないように、ピーちゃんを抱き抱えてるよ」


私は、ひんやりとした固い足の上に降ろされた。

私たちは、サイクロプスにお礼を伝えた、

そして、ゆきるが、すぐに私をおんぶをしてくれた。

ゆきるの背中が温かい。


「おい、見ろよ!

外からは銀色にしかみえなかったのに、

中からは外がガラス張りでよく見える。

マジックミラーみたいになってたのかな

すごいな。

ピラミッドの中は、ほとんど空洞になってるのか。

やばい。

なんて大きさなんだ」


ゆきるの胸の高鳴りが、私にも伝わってきた。

たしかに、ピラミッドの中が中空なら、とんでもない広さと容量だ。


「やだ。なにあれ?

すごい数の虫が大きな浮いている立方体にまとめられているわ。

どういうこと?

そこから文字が飛び出しているみたい。

隣の別の立方体には、文字が集められているわ。

何かの魔法かしら。

その下には、白いマネキンみたいなロボットが沢山いるわ。

マネキンに文字が流れて行ってる!

そして、ロボットが本を書いてるわ。

虫から情報を抜き取って、本を書いているの?!

なんだか気持ち悪いわ」


「あれ?ピーちゃんがいない!?

どっかに行っちゃった。

おれがついよそ見している間に!

やばくない?

ピーちゃん、魔法のカギとか言われてなかった?!」


「それは、まずいわね。

プトレマイオスが必要なはずよ。

でも、私たちは、もう進むしかない。

みちな、周りに見えるものを教えて」


「あのね、すごいよ!

しょうこに見せられたらいいのに!

ピラミッドの中は、巨大な本棚が幾つも宙に浮いてるの。

モンスターもたくさん浮いてる!

皆眠っているみたい。

巨人、ドラゴン、グリフォンもいる!

ほかにも見たことがない強そうなモンスターがたくさん浮いているわ。

落下物なのかな、魔法の道具みたいなものもあるわ。

まるで巨大な標本箱のようよ。

そして、夜とは思えないくらい明るい」


私は、まず気になっていることから言ってみた。


「おかしいわ。

すこし変じゃない?

なぜ明るいのかしら。

誰のなんのために?」


「たしかに。普段は誰も来ないのに、電気代がもったいないよな。

おれの家だったら電気つけっぱなしだったら、お母さんに怒られるよ」


「魔法だからいいんじゃないの?

光の国の宝物金庫も明るかったし。

ネズミとか見つけやすそうじゃん」


「たしかに。

それだけじゃないのよ。

私、分からないことがたくさんあるの。

全ての出来事の結果には原因があるはずよ。

私たちの結果の原因はなんなのかしら。


なぜ私たちはサイクロプスと話せたのか

なぜ私は、目だけ焼かれたのか

隕石は、なぜきたのか

なぜ神々もわからないことが起こったのか

黒い立方体は、そもそも何か

そもそもなぜ私たちは、選ばれたのか」


「おいおい、しょうこ、大丈夫?

熱でもあるんじゃないの?

考えるな感じろって、シラカシ王もおれたちに言ってただろ?

頭でっかちになっても、前に進まないよ」


「んー、でもわたしは、しょうこが引っかかってること、ちょっと分かるな。

わたしたち、ちょっとラッキーすぎるのよ。

まるで何万回と繰り返し試された運命のうち、やっとゴールに向かう可能性を生きているみたい」


「はぁっ?

みちなまで、訳わかんないこと言い始めるなよ。

ラッキーなことは、いいことだろ?

お、ほら、石板があったぜ。

でも、どうやって石板を読むんだ?

おれは、そうだな、読めないな。

ぜんぜんなにを書いているのか分からないよ」


「これは!ロゼッタストーンよ!

わたし、ピラミッドとかめっちゃくちゃ好きなのよ!

歴史よ!ロマンよ!

でも、本で読んだロゼッタストーンとは、様子が違うわ。

欠けてもいないし。

でも、やっぱり3つの言語で書かれているみたいね。

とはいえ、わたしには、1つもぜんぜん読めないわ。

しょうこは、そもそも目が見えないし

わたしたち、これからどうしたらいいの?

手で触って読むにしても、大きすぎる」


私は、少し投げやりに言った。


「私だって、分からないわよ。

どうせ、私は、頭でっかちよ。

考えるな感じろ、なんでしょ?

ゆきる、なんとかしてよ」


「ちょっと、ゆきるもしょうこもこんなところで喧嘩しないでよ。

ねぇ、見て。

なんだろう、石板の後ろの扉の上には、ニワトリが先か卵が先かって、書いてあるわよ。

どういうこと?」


「そりゃ、卵が先だろ。

ニワトリは卵から生まれるんだから」


「ゆきるの説明は無茶苦茶だけど、私も卵だと思うな。

例えば、鳥は、恐竜の一種が進化したと言われているの。

進化の過程で、鳥の寸前の恐竜から、突然変異なのか分からないけど、鳥の卵が生まれたのよ、きっと」


「わたしは、そういう意味ではなくて、答えが分からない、堂々巡りってことを意味してるんじゃないかなって、思うけどな」


私は、なんだかやり取りを前にもしたことがあるような気がした。

なんだろう、この感じ。

私は、どうしてここにいるんだろう。

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