第25話みちなは驚異の昼食会へ
「ちょっと、ゆきる!
なんであの人がここにいるのよ?!
あたし聞いてないわよ?」
「仕方ないだろ!
ついて来ちゃったんだから!
しょうこ!どうしたらいいんだよ?
計画では、どうなってるんだ?」
しょうこは、目を瞑りながら答えた。
「こんなこと、もちろん計画にないわよ!
殺されるか、こっちに連れてくるしかなかったのよ!
ゆきる、とにかく、静かにして!
機嫌を損ねたら、殺されてしまうわ。
ここで死んだら本当におしまいよ。
もう生き返らないんだから」
雲一つない晴天の下、暗がりの王の館にある中庭では、国賓をもてなす昼食会が開かれていた。
これ以上ないほど豪華な食べ物が食卓に並んでいた。
最大級のおもてなしであることが、強く感じられた。
わたしは、気にせず、温かいうちにご馳走を食べることにしよう。
いちじくもちゃんとあるし、ゆきるの好きなバナナもある。
見たことがない料理ばかりだけど、どちらかというとドイツ料理っぽい雰囲気だ。
お肉にかかっているのは、リンゴのソースだろうか、甘酸っぱい匂いが食欲をそそる。
しょうこには、小さく切って、火傷しないように冷まして食べさせてあげよう。
なんとかこの席まで連れてこれたけど、しょうこの目は、もう全く見えない。
しょうこの身体には、いくつもアザやすり傷がついていた。
わたしは、しょうこの為にどうしたらいいんだろう?
円卓に座っている、パバリ王、ピカリ殿下、ヤミー殿下は、異様な雰囲気に、揃って固まって、大汗を流して沈黙していた。
ペギルさん、プッチさん、ロジペさん、プップさんは、兵士たちと円卓の警護をしていた。
最初にダブズル王が、異様な雰囲気に堪えきれず話し始めた。
「まず、歴史上初めて、暗がりの国の主と光の国の主が、分断を乗り越え、同じテーブルについたことを、ここに祝いたい。
ピカリ王太子殿下、まだ正式に王ではないかもしれないが、光の国の主として、ご出席頂き感謝する」
ピカリ殿下は、目を白黒させながら、やっと言葉を絞り出した。
「ダブズル国王陛下、このような席をご用意いただき、ありがとうございます。
コントン島の明るい未来に向けて、今日が歴史に残る日になることを確信しております」
ダブズル王は、神妙な面持ちで、核心に触れた。
「ふむ。
ところで、そちらの面々、王に匹敵する高貴な方々とお見受けするが、どちら様か、ご紹介いただけますかな?
なんと言うか、その、ええっと、ものすごいオーラの圧をビリビリと言うか、ブルブルというか、感じるんじゃが」
言葉につまっているピカリ王太子を気にもしないように、魔帝マギルは、ゆっくり話しはじめた。
「我が名は、マギル。
ニンゲンの国の王、勇者ダリンの盟友にして、人間の守護者である。
得意技は、暗闇攻撃で、ここにいる全員の視力を一瞬で0することができる。
隣にいるのは、我が友、エルフのアーウェン女王である」
「ダブズル王、こんにちは。
あたしは、形式ばった堅苦しい場所は好きじゃないわ。
わたしたち、こっちには長居できないから、もう少ししたら砂に変わってしまうと思うけど、それまでよろしくね。
このチーズケーキ美味しいわ。
甘酸っぱい果実のソースがピッタリね。
得意技は、死滅攻撃で、ここにいる全員を一瞬で死滅させることができるわ。
うふふふッ」
ダブズル王は、もしかして偉大な王なのだろうか、笑いながら2人の不穏すぎる自己紹介を喜んだ。
そうか、ダブズル王は、魔帝マギルの恐ろしさを知らないのだ。
しかし、この場では、知らない方がいいということかもしれない。
「くくくく、あっはっは!!
これはまさに伝説級のジョークじゃな!
伝説の勇者ダリンに、エルフのアーウェン女王とはな!
失礼ながら、真偽のほどは、わしには判別できないが、わざわざ歴史の中からわずかな時間お越し頂いたのであれば、偉大な方々にぜひ、この日の証人となっていただきたい」
魔帝マギルは、意外にも丁寧に話し始めた。
もともと人間の味方をしていた訳だし、悪い人ではなかったのかもしれない。
「我は、友であるユピテルがこちらの世界に行きたいと願ったのを聞いて、一緒に2000年後の世界を見にきたのだ。
我らは、歴史ではレベルXボリュームXの日といわれる日から来た。
どうせ全滅するのなら、ユピテルを未来の人間の役に立たせることのほうが、意義があるかもしれぬと思ってな」
「あたしは、まさか子供たちがルシファーをちゃんと倒せるとは思っていなかったわ。
だって、マギルでも手こずりそうな強さだったし。
やっぱり口ばっかりなんじゃないかってね。
あたしは、ここに来るのも乗り気じゃなかった。
だから、上空からどうなるものかと見ていたわ。
でも、ちゃんと言ったことをやったわね。
ちょっとだけ信用してあげるわ」
ピカリ殿下は、パバリ王をダブズル王に紹介した。
「こちらの方は300年前光の国を建国したピビル王の兄、ホウトウの国最後の王、パバリ王です。
僕たちは、光の国の宝物金庫の中に封印されていた、帰らずの大袋に閉じ込められました。
それは、すでに亡くなったペテニル女王の仕業でした。
その大袋の中から、300年幽閉されていたパバリ王、3年前閉じ込められたヤミー王子、魔帝マギル殿とアーウェン女王と共に、やっと抜け出してきたのです。
おかげで僕は、直接ダブズル王陛下とお会いすることができました」
ダブズル王は、涙を流しながら言った。
「ピカリ王太子殿下、ゆきる殿、みちな殿、しょうこ殿、まず謝らせてほしい。
わしは、大きなマチガイを犯していた。
多くの人を傷つけ、イケニエに捧げ、戦争を続けてしまった。
しかし、許されるとは思わぬが、知ってほしい。
全ては、暗がりの国と呼ばれたこの土地に、今日のような晴天の日が来る事を願っていたからなのじゃ。
そのためなら、自分の命さえ、イケニエに捧げても構わない気持ちじゃった。
お詫びをしても仕切れないし、罪は命一つでは償いきれない程じゃ。
わしは、もう老人で、先も長くない。
もはや天国に行けるとも思ってはおらぬ。
ピカリ王太子殿下、平和のうちにコントン島を一つにする思想、この耳にもしっかり届いておる。
どうか、感謝の印に、コントン島の統一王として、未来を担ってくれまいか。
初めてピカリ焼きを食べた時から、わしもその思想に心を揺るがされた1人じゃ。
暗がりの国の塩、光の国の小麦、黒い森のあんこが見事に調和し、人々に愛される一つの味わいを作り出していた。
暗がりの国でも、ピカリ焼きは、大人気なのじゃ」
パバリ王も泣きながら話した。
「ダブズル王よ。
お主のマチガイも国を思う気持ちも、まさしく王にふさわしい!
わしは、祝福するぞ!
もはやここに、わしの権威も国もないが。
1人の王として、ピカリ王太子をコントン島のピカリ王として、認めたい!」
「我も認めよう。
何より歴史を超えて、王たるものを集めた奇跡よ。
これがコントン島の未来を祝福するため以外のなんであろうか!
すぐに我らは、ここから消え去るが、この場に立ち会えたことを、感謝さえしよう。
見事である」
ヤミー殿下も、感動している様子で応援した。
「ピカリ、僕も弟として、全力で支えるよ。
コントン島を一つにするのは、この島に生きるもの全ての人の願いだ。
そのために人生を捧げることに、一つも迷いはないよ」
全員が立ち上がって拍手した。
暗がりの国の兵士たちも、ペギルさんも、プッチさんも、ロジペさんも、プップさんも。
気がつくととまた、あのネコのピーちゃんが紛れ込んでいた。
アーウェン女王は、少し羽ばたいて宙に浮きながら全員に聞こえるように言った。
「うふふふ。
人間は、いつでもマチガイを犯し、いつまでも愚かなものよ。
でも、神は、愛と邪の葛藤を人間に与えた。
調和は、静止した状態ではないわ。
常にどちらかに偏りながら、バランスを取る、その移ろう瞬間ごとに調和は、あらわれる。
今日は、その調和のあらわれの一つの形ね。
勇者ダリンの末裔、ピカリ王よ!
コントン島に一つの平和をもたらしなさい。
あたしたちが、見守っているわ。
あら、しゃべりすぎたみたい。
あたしたちは、これまでよ。
じゃあね・・・」
魔帝マギルとアーウェン女王は、砂に変わって、キラキラと風に吹かれていった。
食べかけのチーズケーキのお皿の横に置かれたグラスには、
砂が内側でくるくると回っていた。
するとネコがテーブルの近くに、ピョンと出てきた。
それをみたピカリ殿下が驚いて言った。
「お前は植物王の娘ソルダムのネコ、ピーちゃんじゃないか?
僕の愛するソルダムは、元気にしているかな。
最近は手紙を送ることもできなかったけど」
ピーちゃんは、大きくなり人間の大きさになると、2本足で立って、うやうやしくおじぎをしてから、言葉を発した。
「お久しぶりです、ピカリ殿下。
我輩は、たまたま皆さまからピーちゃんと愛称を頂いておりますが、2300年前からプトレマイオスと呼ばれております。
植物王であるシラカシ王さまの代理人として、この場を預かりました。
ゆきる殿、みちな殿、しょうこ殿のこともずっと近くで拝見させていただきました。
シラカシ王さまは、神々から暗がりの国と光の国が真に調和を見出した時、魔法のカギを渡すよう神託を受けておりました。
その魔法のカギは、コントン島にかけられた分断の呪いを解く石板へたどり着くためのものです。
そして、我輩を、この席に遣わしたのです。
我輩の目を通して、先程の合意をシラカシ王さまも見ております。
本日、書面をお持ちいたしました。
ここにコントン島のピカリ王として、ご署名ください。
ダブズル王と代理人として我輩も署名いたします。
そして、シラカシ王さまへの使者をお選びください。
我輩がシラカシ王さまの元にご案内いたします」
ピーちゃんが話すことができたなんて!
私たちだけでなく、ピカリ殿下さえ、知らないことだったみたいだ。
全員驚いて絶句していた。
ダブズル王は、ボッゲン兵隊長を呼んだ。
「ボッゲン兵隊長!
テーブルを片付けて、署名と調印の用意を!」
ボッゲン兵隊長は、素早く対応した。
「はっ!
すでに、こちらの別会場にて、調印式典のご用意をしております。
皆様こちらにどうぞ!」
ボッゲン兵隊長の段取りは、完璧だった。
わたしたちは、すぐ隣の調印式会場に移動した。
ピカリ殿下は、自分の署名をする前に、使者について、ピーちゃんとダブズル王に確認した。
「では、使者を選ぶことになるが、ゆきる、みちな、しょうこを選ぼうと思う。
反対意見はないかな?
3人もこの大切な使命、受けてくれるだろうか」
「もちろん!
おれに任せろ!」
「ちょっと、ゆきる!もっと詳しく聞かなくていいの?
ねぇ、しょうこ?
しょうこは、目が見えないんだから、休んでいた方がいいんじゃない?
ついてきてくれた方が、もちろん心強いけど・・・。
でも、移動とか、あまりにも大変すぎるわ」
「たしかに。
でも、まだコントン島が分断されている状態で、この使命を全うできるのは、私たちしかいない。
それに、何より、私たちの宿題でもある。
ペギルさんが魔法を振り絞って傷跡は消してくれたけど、視力は戻らなかった。
たしかに私の目は見えないけど、役割を全うしたいの。
うまくいかなかった時に、私がいなかったからだと思いたくない。
正直に言うと、あまりの大変さに、今は座っているのがやっとよ。
怖くて、朝からずっとみちなの手を握っているの。
今は1人でベッドから立ち上がることもできない。
この席にたどり着くのが、どれだけ遠かったか。
でも、私はそれでも、前に進もうと思う。
お願い、ゆきる、私をおんぶしてくれない?
私の足になってほしいの」
「おいおい、しょうこは、どうしてそんなに落ち着いているんだよ。
初めて視力を失ったら、もっと不安とか、悲しみとか、色々あるだろう?
ただ、おれがしょうこの足になるのは、任せてよ。
なんか、ずっと力がみなぎっているんだ。
でも・・・」
「ゆきる、本当にデリカシーがないわね!
しょうこ、落ち込んでいるに決まっているでしょう?
今だって、震えながら話してるのよ。
朝起きてから、もう本当に大変だったんだから。
しょうこは、何度も転んだり、ぶつかったりして、傷だらけなのよ。
わたしも介護とかしたことないし。
だって、想像できる?何も見えないのよ?
わたしは、あの神さまたちに、宿題ができたらしょうこの目を治してもらうの」
ピカリ殿下は、丁寧に署名を済ませた。
ピーちゃんは、この場の全員の合意を改めて確認した。
「それでは、全員異存がないということでしょうか?
我輩は、もちろん賛成です。
3人の生き様、しかとこの目で見てきましたから。
この3人であれば、鍵を渡し、博物図書館に用意された3つの試練も乗り越えることができるでしょう」
「ほらー!やっぱりすんなりいかないじゃない!
わたし、絶対に試練とかあると思ったわ」
「どっちにせよ、試練しかないだろ。
命がいくつあっても足りないよ。
おれは、試練を乗り越えるたび、強くなるのさ!」
「ゆきる、命は一つよ。
大切にしてね。
きっと3人で力を合わせれば、なんとかなるわ。
なんとかするしかないしね。
試練、上等よ!」
それからピーちゃんは、最後に書面に署名した。
しょうこは、目を瞑ったまま、笑って言った。
「私、2人に出会えて本当によかった。
嬉しくて、嬉しくて、言葉にならないわ!
必ず、宿題をクリアしましょう」
「しょうこ、わたしも、2人に出会えて感謝してる。
こんなに強い絆を感じるのは、生まれて初めてよ」
「よし!おれたちは強い!
どんな試練も乗り越えて、宿題をクリアするぞ!」
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