第23話しょうこの計画は悪魔を越えるか 後編(焚き火)
「え?そうだったの?
私は、そんなこと何も知らなかったわ。
テレビも見ないし」
「えー!あのニュース、しょうこの家のネコのことだったんだ。
隕石のニュースが流れるより少し前の日だよね。
たしか、3人が重体になったって事故。
猫が道路に飛び出して、それを避けた車が電信柱にぶつかって、歩行者まで巻き添えになったって。
ワイドショーでも話題になっていたよ。
飼い猫の管理について」
「あー!おれもそのニュース見たよ。
隕石のニュースの合間でも続報流れていたっけ。
結局、3人とも命に別状はなかったみたいだけど」
私は、焚き火を囲みながら、ゆきるとみちなに、母親のことを相談した。
なぜあの日、母親が私に冷たかったのか、少しでも分かればと思って。
私は、全然知らなかったし、母親も私に知らせなかった。
そんなニュースになっていたなんて。
あぁ、私は、なんて馬鹿だったんだろう。
社会からの重圧を感じながら、それでも娘を思いやってくれていた母親に、なんて分からず屋だったんだろう。
たしかにネコは大切だったかもしれない。
でも、もはやそれだけでなく、たくさんのことが起こっていたのだ。
単純にネコのことばかりで頭がいっぱいになるのは、視野が狭すぎた。
私は・・・。
目から涙が溢れてきて、止めることができない。
「しょうこ、気をしっかり持って。
わたし、しょうこの気持ち分かるよ。
しょうこの大切なネコだったんだもの。
しょうこのお母さんにとっても大切なネコだったと思う。
きっとお母さんも辛かったのよ。
そして、しょうこを暴力を振るったことを、そのあとすごく後悔したと思う」
みちなは、また私を抱きしめてくれた。
みちなの柔らかい胸の中は、安心する。
私は、どうしてこんなに子供なんだろう。
同級生とは馴染めないくらい色々考えているのに、大人でもない。
私は、何もかも中途半端だ。
みんなを救う資格なんかない。
私の計画も、みんなを巻き込んで、また不幸にしてしまうかもしれない。
私は、なんて役立たずなんだろう。
パバリ王は、ひょうひょうと言った。
「フォッフォッフォ!
良いではないか、良いではないか!
悪魔の頭脳と思えるほどのしょうこ嬢にも、子供らしいところがあったんじゃな。
むしろ、ちょいっと安心したわい。
人はな、マチガイをするものじゃて。
大人になってもマチガイばかりじゃ。
しかも、マチガイをしたことを消すことはできないんじゃ。
神さまでもない限りな。
そのかわり、人はマチガイを乗り越えて行けるようにできておるんじゃよ」
パバリ王の言葉に、ペギルさんがすぐに反応した。
「あら、パバリ王さまは、マチガイをすることについては、一流ですものね。
始まりの街の若い女の子にちょっかいを出しているのを、私が知らないと思っているのかしら」
プッチさんも、まだ言い足りないとパバリ王を責め立てた。
「パバリ王さま、私は、見ましたよ。
9000年以上も年を重ねて、まだ徳の積み上げがお甘いようですね。
またペギルさんを泣かせたら、パバリ王さまと言えど、私は、許しませんよ」
「ふん!ふん!ふん!
パバリ王さま、女性に責められた時は、ダンベルをするのが1番ですぞ。
さぁ、ご一緒に!」
「フォッフォッフォッ!
このダンベル、片方20キロはあるぞ!
むぅ、き、筋肉がちぎれるわい!」
ペギルさんは、何かのスイッチは入ってしまったみたいだ。
「怪我をしたら、私が治癒してあげるわよ!
自分で自分のダンベルを重くしなさい!
さぁ!もっと!もっと!
誠意を見せなさい!」
パバリ王は、顔を真っ赤にしてダンベルを持ち上げながら、自ら魔法でダンベルを重くする。
大量の汗が、パバリ王の身体から吹き出した。
ヤミー殿下は、八つ当たりを受けないように慎重に話を切り出した。
「あのー、ちょっといいですか?
僕が思うに、話が脱線しすぎているかと。
しょうことお母さんの話だったような」
ロジペさんが、焚き火に薪を足しながら、ゆっくりと話し始めた。
「しょうこ殿の苦しみも、母上の苦しみも、きっと今も生々しく続いていることでしょう。
まだ、事故に遭った3人が一命を取り留めるか分からない状況で、娘にどう話すか迷った母上の気持ちも分かります。
家族だからこそ、思いやりすぎて、こじれてしまうこともありますな。
わたくしは、しょうこ殿は、必ずもう一度母上に会うべきだと思いました。
母上も、娘が家出して、しかも、巨大な隕石が落ちてくるとあれば、生きた心地はしないでしょう。
ちゃんと向き合って話せば、今のしょうこ殿であれば、きっと分かり合えるかと。
なにより、しょうこ殿は、良き友をお持ちです。
わたくしたちも、しょうこ殿の戦友ですぞ」
あぁ、私は、孤独だと思っていた。
今では、それがこんなにも話を聴いてくれる人がいる。
1人では、何も解決できないことばかりだ。
自分の未熟さとは、きっとずっと付き合って行くしかない。
それは、大人になっても同じことなんだ。
気を取り直して、パバリ王は話を切り出した。
「うぉっほん!
そろそろ、しょうこ嬢の計画を聞こうかの。
この数日で、しょうこ嬢の計画が信頼できることは、充分に確かめられた。
もちろん、これは命がけの作戦行動じゃ。
だからこそ、練り上げられた計画が必要なのじゃ。
わしは、しょうこ嬢の計画が必要だと思う。
まず、皆のもの、しょうこ嬢の計画に乗ることで、異存はないかな?
もちろん、補足や改善点があれば、この場で出し切るように」
パバリ王が全員の顔を1人ずつみて確認する。
焚き火に照らされた顔には、それぞれの覚悟が表れていた。
パチパチと火の粉が舞っている。
そうだ、私には、与えられた役割と果たすべき責任がある。
今、ここにいる意味や価値は、自分自身で作らなくてはならない。
私は、考えていることを一つずつ話していくことにした。
「まず大前提として、これはパバリ王さんの部下も含めた、30人全員の脱出作戦よ。
私とゆきるとみちなのタイムリミットは、少し曖昧ね。
明日は大丈夫な可能性がある程度あるけど、その次の黄色い空までに、ポンコさんが私たちを光の国の大袋から出してしまう可能性があるわ。
でも、もし、明日誰かが致命傷以上の負傷を負った場合、計画は中止して、次の黄色い空の日に再挑戦するわ。
大袋に出る時点で負っている傷はリセットされずに、大袋の外に継続する可能性があるからよ」
ペギルさんが昨日依頼した調査結果を報告してくれた。
「私でも信じられないんだけど、全員大袋の外へ出れると思うわ。
私は、特に9000年以上ここにいる人は、大袋の外にでても生き続けるのが難しいと考えていた。
それは実際そうだったと思うの。
でも、2つの要因がそれを変えた。
1つ目は、しょうこちゃんの牛黄ね。
強力な気付薬だそうだけど、異世界の成分が特別な効果を私たちに与えた可能性が高いわ。
牛黄を飲む前は、数時間に一度、治癒魔法をしないと廃人のようになっていた。
牛黄を飲んだ後は、なんとそれが必要なくなったのよ。
ソナンの孫娘も牛黄を飲ませて治癒したら、数秒で治ったしね。
驚くべきことよ。
2つ目は、ゆきるくんが発見した魔法の混ぜ合わせね。
例えば、私の治癒とゆきるくんの身体強化を合わせることによって、半分の消耗で倍以上の治癒ができるようになったわ。
これは、大発見だわ」
「ペギルさん、報告をありがとう。
牛黄が想定以上の反応を与えたみたいね。
あとで試しに、私がお母さんにもらったマムシ粉末を、全員に分けて飲んでもらうわ。
あとは、大袋の外にどうやって30人を無事に出すか、そして、宝物庫で魔法の木の種を見つけるかね。」
「おれは、前回の黄色い空の日、宝物庫の門番をしている赤ドラゴンと大蛇を倒して、宝物庫の中を事前確認できたよ。
宝物庫の中はかなり広くて、大量の落下物が置いてあった。
おれは、魔法の木の種を見つけられなかった。
1時間や2時間で魔法の木の種を見つけるのは、かなり難しいと思うけど・・・」
「へへーーん!
ところがどっこい、わたしは見つけた、と思うわ。
結局、魔帝マギルがやってきて、目潰しの暗闇攻撃を受けて、そのあとすぐに意識がなくなったから、確認まではできなかったけど。
私は、視界が真っ暗になる前に見たのよ。
一際高いところで、金色に光るりんごを。
絶対あれだと思うわ」
ペギルさんは、残念そうに言った。
「私とパバリ王さまは、時短で赤ドラゴンと大蛇を倒すために先に死んでしまったから、魔法の木の種は探さなかったの。
その金のりんごが魔法の木の種かどうかも分からないわ」
ヤミー殿下が魔帝マギルの登場時間について説明をくれた。
「僕とピカリは、特化能力で時間が見えるんだ。
魔帝マギルは、毎回必ず15時15分15秒に宝物庫にやってくる。
暗闇魔法で全員視界を失うまで10秒もかからないよ。
人間の城へ突入可能な時間は、12時ほぼピッタリ。
さぁどうするかだよね」
私は、情報が出揃ってきたのを確かめて、本題に入る。
「昨日の腕相撲を見て思いついたんだけど、今回サイクロプスにも協力してもらうわ。
ゆきるからサイクロプスに昨日お願いしてもらったの。
サイクロプスとユピテルは友達らしいわ。
事情を説明してくれるって。
ゆきるとピカリ殿下チームは、サイクロプスと一緒にユピテルに協力をお願いしてほしい。
ユピテルと一緒に大袋を出て、暗がりの国の上の雲を消してもらうわ。
ピカリ殿下は、時間を合わせてちょうだい。
15時までに、ユピテルを説得して、宝物庫にきてほしいわ。
ユピテルの説得によって、魔帝マギルの宝物庫到着が変化する可能性があるわ。
遅くなるか、早まるか、変わらないか、全く不明よ」
パバリ王は、絶句していた。
ペギルさんは、目を見開いて笑った。
「アハハハハッ!
しょうこちゃん、この計画やばすぎるわ。
赤ドラゴンと大蛇は、私とパバリ王さま、ヤミー殿下、プッチ、みちなちゃんで倒すってことね。」
「ただ、倒すだけじゃないわ。
私は、大袋に帰るためのコードを書かなくてはいけないの。
14時までに宝物庫に着きたいわ。
魔法の木の種を見つけなくてはいけないし
それに・・・」
深刻な顔のロジペさんが質問した。
「私とプップ、パバリ王さまの部下20人はどうしていたらいいでしょうか」
「ここに待機よ。
おそらく大袋に触れることさえできれば、離れていても効力があるはずよ。
ピビル王がかつてユピテルを大袋の外に連れ出したという話だから、マチガイないはずよ。
でも気をつけて、レベルXボリュームXの日よ。
だから、ペギルさんには、ここに残ってもらうわ。
全員で大袋で出るためには必要なことよ。
問題があったら、狼煙を上げてちょうだい。
城からでも見えるはずだから、ユピテルを説得しながなら、ゆきるは、狼煙が出ていないか確かめてね。」
パバリ王は、大きく息を吸い込んで言った。
「つまり、わしは、ヤミーとプッチとみちな嬢で14時までに赤ドラゴンと大蛇を倒す戦術を考えれば良いと言うことじゃな。
ペギルは、ここに残りわしの部下とロジペ、プップを守る。
そして、ゆきる坊とピカリは、サイクロプスと共にユピテルを説得して宝物庫で合流じゃな。
魔帝マギルの登場が不確定になるのは、かなり危険じゃが。
全部取り切るにはこれしかなさそうじゃ。
しかし、大袋の外で待ち構えている悪魔ルシファーは、本当に倒せるのか?」
「私は、パバリ王の自叙伝を読んだの。
それによると、大袋の外にでて30分間で身体に蓄えた魔素を失うわ。
もちろん30分以内に一度でも使えば、それっきりよ。
大袋の外では、空気中に魔素がないからよ。
ベルゼビュートはレベルXだったけど、最後のルシファーはもっと強い可能性がある。
だからこそ、レベルXXの魔法の木の種が必要だわ」
「やることがはっきりしたなら、おれは後はやるだけだぜ!なんかうまくいく気がしてきたよ」
「本当に、ゆきるって楽観がすぎるわね。
全てをやり遂げる必要があるのよ?わかってる?
ゆきるの仕事も責任重大よ。
しかも、全員無事でやり遂げる必要があるわ。
奇跡が必要なら、起こすしかない」
ゆきるとみちながいることで、私はどれだけ強くなれるんだろう。
そうだ、私は、自分をみんなのために役立てるんだ。
「そうね。私からゆきるとみちなに手紙を書いたの。
G11はゆきるに、G12はみちなに。
ふふふ。
ゆきるは、魔法の木の種を持って、ルシファーが目の前にいる時に読んでほしい。
みちなは、ゆきるが手紙を読んだ後で読んでほしい。
タイミングは、みちななら、きっと分かるわ。
2人とも最後の魔法はこの時まで使わないで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます